6-91 空中庭園憩いの広場
―1―
「むぅ」
ちびっ娘が何やら唸っている。
さて、約束通り《変身》して講堂にやって来たわけだが、そこにはちびっ娘と何故かステラと呼ばれたふんわりな少女が居た。
「し、師匠……」
ふんわり少女が呼びかけるがちびっ娘はむぅむぅ唸っているだけで動こうとしない。何をやっているんだ。あ、そうだ。
俺は唸っているちびっ娘の前に銀貨を一枚置く。
「ほら、掛け金だ」
銀貨を見たちびっ娘がハッと気付いたようにこちらを見る。そして口の端を上げ笑う。
「分かった」
何だろう、受けて立つぞー的なニュアンスを感じる。
「魔法を遠慮無く使える良い場所がある」
そうそう、良い場所があるんだぜー。
「大講堂?」
ちびっ娘が首を傾げる。こうさ、これだけ見ると可愛らしい感じなんだが、何だろう、その奥に邪悪なモノを感じる――って、あの広い講堂って大講堂って名前だったのか。
「いや、あそこでは無理だ」
そうそう、先生方が結界みたいなのを張ってくれているみたいだけどさ、俺の魔法だと破壊してしまうかもしれないからな!
……いや、根拠のない自信とかじゃないよ、赤い瞳で結界の情報を読み取った結果だよ!
「パーティに入って貰っても良いか?」
「分かった」
俺の言葉にちびっ娘がこくんと頷く。
「ステラも」
何故かちびっ娘がふんわりな娘さんを指名する。弟子が必要なのか? ま、いいか。
ふんわりな少女も指定して3人でパーティを組む。と、後は出会えたらシロネもかな。
大書庫に向かう途中でシロネを捕まえる。
「え、ちょ、え? むふー。私、これから講義ですよー」
あー、そういえば他の生徒と出会わないように講義が始まる時間を狙ってちびっ娘を呼んだんだった。シロネはこの学院の先生だもんな、そっかー。でも、ま、いっか。
「来る」
ちびっ娘もシロネを連れて行くことに賛成なようだ。
「え、ええー。そんなソフィアちゃん先生まで……」
シロネもパーティに入れ、大書庫へ。
「むふー。ここ大書庫ですよねー。ここで何をするんですか?」
シロネがきょろきょろと大書庫の中を見回している。ふんわりな娘さんも物珍しそうに本棚を見ていた。
「何の用です……?」
そんな2人を無視して足下からこちらに声がかけられた。あー、テスか。この子、全然講義を受けていないようだけど大丈夫なのか? まぁ、俺が心配することじゃないかもしれないけどさ。
「大きくなった」
何故かちびっ娘が足下のテスに反応していた。それを聞いてテスは首を傾げている。そして興味が無くなったのか読書に戻っていた。
ま、いいか。
「この奥だ」
俺はうろちょろと動き回るふんわりな少女を捕まえ、4人で台座の前まで歩く。
「台座の近くに寄ってくれ」
そのままブラックオニキスをかざし転送する。
無事赤い部屋に転送っと。
俺の後を追うように残りの3人が次々と転送されてくる。
「こ、ここは禁書庫ですねー」
そう答えたのはシロネだった。ほう、さすがに魔法学院の教師をしているだけあって禁書庫の存在は知っているんだな。となると、ここまでは普通に学院の管轄ってコトだよな。が、その奥はどうだろうか。
「ついてきて欲しい」
ここは落とし穴とか無いからね。安心してついて来て下さい。
―2―
禁書庫の奥の台座に触れると全員が一斉に転送された。
「ここは……?」
シロネだけではなく、ちびっ娘も驚いているようだ。ふんわりな娘さんのステラは怯えたようにちびっ娘の後ろに隠れている。ステラの方がサイズは大きいからさ、それ、全然隠れてないよな。
「八大迷宮『空中庭園』らしい」
俺が答えると、ちびっ娘は顎に手を当て何やら神妙な顔で頷いていた。
さ、この先ですよ。この先なら好き放題魔法が撃てる広さがあるからな。しかも、事前に全ての属性があるのは確認済みだ。まぁ、通路に出てしまうと風属性だけになるんだけどな。
3人を案内して広場へと進む。さあ、到着だぜ。
「ここなら好き放題魔法が使えると思う」
――[ディテクトエレメンタル]――
「むふー。ちゃんと全ての属性が揃って居るみたいですねー」
シロネが属性を調べる。なるほど、俺みたいに色として見えないから魔法に頼るしかないのか。
さて、ここからだな。
「お……、私が魔法を使う前に紫炎の魔女さまの実力も見せて欲しいなぁ」
にやにや。
「なるほど」
ちびっ娘が頷く。
――[エクスファイアウォール]――
紫炎の魔女が炎を放つ。俺たちの前に炎の壁が立ちはだかり、辺り一面の雑草が全て燃え尽きる。にゃにゃにゃ、にゃんですとー。魔法の名前しか読み取れなかったぞ。
「これで、見やすくなった」
紫炎の魔女はこちらを見てニヤリと笑う。そこにはいつもの気怠げな様子はない。な、なるほど、俺も手加減抜きでよさそうだな!
――[エルアイスウォール・ダブル]――
生まれた巨大な氷の壁が、未だ燃え続けていた炎の壁を封じ込め消し去る。上位魔法化に更に二重化の氷の壁だ!
氷の壁が砕け散り、そこには更地だけが残った。
「火の後始末は必要でしょう」
にやにや。
「次」
――[エルメテオフォール]――
紫炎の魔女の頭上に燃え盛る無数の巨大な紫炎の球体が生まれる。紫炎の魔女が指揮者のように指を振るう。それに合わせて巨大な紫炎に包まれた隕石が周囲に飛び、燃やし破壊していく。当たり前に無詠唱なんだな……って、ちょ、こっちまで火の粉が!
――[ウォーターミラー]――
目の前に水の鏡を張り、魔法の火を反射させる。無茶苦茶するな、このちびっ娘。
「そ、ソフィアちゃん先生! やり過ぎて神国を追い出されたのを忘れ……」
シロネの言葉を聞いて、ちびっ娘は少しむすっとしていた。いや、あの、お前、それでナハン大森林にいたのかよ。確かに、周囲の人のことも考えずに、こんな魔法を放つとか普通じゃないな。
俺はちゃんと周囲のことを考えて放つからな!
――[エルアイスウォール・ダブル]――
――[エルアイスウォール・ダブル]――
――[エルアイスウォール・ダブル]――
囲うように透明な3つの氷の壁を生み出す。
――[エルアイスストーム]――
そして、その中に全てを砕き貫く無慈悲な氷の嵐を生み出す。ひゃっはー、これなら安全だぜー。
――[アニヒレーション]――
俺が生み出した氷の壁の中に紫の光が――輝く恒星が生まれる。そして生まれた恒星が爆発する。
氷の嵐と恒星の爆発によって氷の壁が砕け吹き飛ぶ。
――[エルウォーターミラー]――
俺はとっさに水の鏡によって魔法を反射させる。
――[エルアイスコフィン]――
そして、その反射されたエネルギーを氷の棺に閉じ込め、小さく小さく、縮小させ消し去っていく。こ、この紫炎の魔女め、ホント、何を考えてやがる。殺す気か。
俺が紫炎の魔女を見ると、彼女は次の魔法を撃とうとしていた。いやいや、いやいや、お前!
「ストップ、ストップ、俺の負けだ」
俺が叫ぶと、紫炎の魔女は少し不満そうな顔をしながらも魔法の発動を止めた。な、この子、怖い。俺は何とか防げるにしても、お前の弟子とシロネは無理だろ。何考えているんだよ。それに、何てMPの量だよ。この世界の人たちって最大MP100もあれば凄いんじゃないのか? 何で、そんなバンバン大魔法が撃てるんだよ。おかしい、この子はおかしい。
「あ、あのー、ノアルジーさん、それにソフィアちゃん先生も……、むふー。私ついて行けない……」
そしてシロネが真っ白になっていた。