6-88 空中庭園動力室前
―1―
虎と熊、か。何だろう、初めて見るタイプの魔獣だけど、余り強そうに見えないな。ちゃちゃっと片付けますか!
虎が鋭い牙を覗かせ、こちらへと飛びかかってくる。
――[エルアイスランス]――
生まれた氷の槍が飛びかかってきた虎をそのままの姿で貫く。虎は氷の槍で串刺しになり、そのまま動きを止めた。あー、うん。上位魔法化するまでもなかったかな。
今度は、鋭い爪を持った熊が起き上がり強烈な咆哮を放つ。
――[エルウィンドボイス]――
それに対し、こちらは風の力で増幅させた音を放ち咆哮を打ち消す。
――[エルアシッドボール]――
俺は目の前に幾つもの酸の球体を生み出し、猛る熊へと飛ばす。熊が鋭い爪を酸の球を打ち消そうと振り回す。しかし、酸の球は、その熊の爪を溶かし、肉を溶かし、骨を溶かしていく。
次々と飛び続ける酸の球が熊の体を溶かし貫いていった。あー、グロい威力だ。いやいや、でもさ、アシッドボールにここまでの威力は無かったと思うんだけどなぁ。もしかして《二重》スキルの効果か? うーん。迷宮の入り口周辺としては過剰な火力だったか。
後は、正面の警報を発している金属の球体だけだな。次の魔獣が現れる気配もないし、サクッと壊してしまうか。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルでスターダストを呼び出し、そのまま金属の球体を十字に斬り裂く。金属の球体は4つの塊となって転がった。うむ、スターダストの切れ味が素晴らしい。このノアルジ形態なら剣も悪く無いな。まぁ、本来の姿だとさ、やっぱり槍や弓の方が使いやすいんだけどさ。
さあて、奥に進みますか。と、その前に魔獣が現れた場所を調べてみるか。
広場の壁際へと歩いて見ると、魔獣が収納されていたと思われる小部屋があった。壁が開いてこの小部屋が現れたって感じなのかな。中は……何も無いな。足下に円形の模様が描かれているだけで何も無い。この小部屋の中で、さっきの魔獣は生き延びていたのか? 何時から? うーむ、相変わらず迷宮は謎だらけだな。
反対方向の壁際も調べてみるが、先程と同じような作りになっていた。この中に魔獣が保管されていた、と。うーむ。
ま、進むか。
円形になっている広場の、その奥にあった唯一の通路を進む。少し進むと三叉路に出た。更に、その三叉路の前にはいつもの台座が置かれている。おー、ここにあったのか。で、描かれているのは……む。何だろう、描かれているのは羽を持った猫? 羽猫とそっくりだな。いや、これはアレだ、フウキョウの里に居た親羽猫にそっくりだ。どういうことだ?
ま、最深部まで行ってみれば分かるかな。
とりあえず台座に触れるか。台座に手を触れると映像が浮かび上がった。1個は、現在の三叉路、そしてもう1個、小さな画像が浮かぶ。小さな画像を選択すると赤い部屋が拡大されて映し出された。む、もしかして、これ、戻れる?
一度、戻ってみるか。
赤い部屋を選択する。すると周囲の風景が変わった。そこは最近やっと見慣れた赤い部屋だった。赤い部屋に何も描かれていない台座、と。これはどう考えても禁書庫の奥に有った赤い部屋だよな?
少し戻り、本棚が並んでいる部屋を見たことで、それは確信となった。これで王宮を通らなくても戻れるようになったか。
さて、もう一度、迷宮に戻るか。赤い部屋に戻り台座に触れると、台座が置かれていない部屋へと転送された。ほ、へ、最初の部屋? これ、『空中庭園』の入り口じゃないか? ま、ま、ま、また広場を抜けるのですか。うーむ、戻れるようになったのはいいけどさ、これは不便だ。
雑草が好き放題に伸びた手入れのされていない広場を抜け、先程の三叉路まで戻る。ふぅ、やっと戻ってきたか。これはこれで凄い不便だな。次も禁書庫からここまでは歩き確定ってコトだもんなぁ。まぁ、《飛翔》スキルで突っ切ってもいいけどさ。
―2―
三叉路になっている通路の右を進む。とりあえず右だ。右の通路を少し進むと、すぐにゆっくりとした上り坂になった。むむ。余り上がると王宮まで突き抜けちゃいそうだな。
坂を駆けていくと目の前に球体から円柱の四本の足が生えた魔獣? が現れた。謎の魔獣? は円柱の足を動かし、こちらへとのしのしと歩いてくる。大きさは俺の背の高さと同じくらいだ。何だ? ゴーレム系の魔獣ってコトか? うーむ、『空舞う聖院』と同じで機械的な魔獣ばかりなのか? いや、そもそもだ、これ、魔獣って呼んでいいのか?
四本足の動きが俺の目の前で止まる。そして球体が上下に分かれ、中から瞳が現れた。何だ、何だ?
その瞬間、俺の視界に赤い横線が走る。それを見て俺はすぐに飛ぶ。
――《魔法糸》――
そして、そのまま《魔法糸》を飛ばし天井にぶら下がる。
球体の瞳から赤い線が走り、そのままくるりと一周する。おいおい、レーザー光線みたいな感じなのか? いや、赤色だから風属性の攻撃? 風を射出しているのか? 危険感知スキルも赤点灯だから、紛らわしいな。
球体が一回転した後、また瞳が閉じる。そして、キョロキョロと周囲を見回していた。俺は天井からスターダストごと落下し、球体を貫く。そのまま球体からスターダスト引き抜き、四本足を蹴飛ばして着地する。
四本足は四本の足の1つを動かし、前に進もうとして、そのまま崩れ落ちた。壊れたか。頭の球体がメイン動力って感じなのかな。魔石もないし、経験値も入らないし、MSPも入らないし、ホント、ゴミみたいな……いや、とりあえずインゴットに変えておくか。
――[エルクリエイトインゴット]――
動かなくなった四本足をインゴットに変え、魔法のウェストポーチXLに突っ込む。希少金属ぽいから、素材としては優秀か。
さあて、がしがし進みますか!
その後も次々と四本足が現れたが、特に苦戦することもなく、斬り壊しインゴットに変えていく。ある程度進むと行き止まりに突き当たった。へ? 行き止まり? ゆっくりと円を描くように坂を上ってきたけど、これで終わりか。
そして、そこにはいつもの台座が置いてあった。行き止まりに台座? 怪しいな。まぁ、とりあえず現在の場所を登録しておくか。台座を触ると3つの映像が表示された。最初の三叉路、ここ、そして小さな枠で赤い部屋、か。ここからでも禁書庫には戻れるんだな。
さて、何も無い場所に台座だけがあるワケ無いよな。
正面の壁をよく見るとうっすらと線が見えた。扉か? まだ先があるってコトだな。まぁ、台座があるんだし、当然だよな。むむむ、でもさ、開け方が……分からない。
とりあえず触ってみる。反応なし。スイッチ類を探してみる。何もなし。仕方ない、ここは後回しにして先程の三叉路に戻るか。
台座があるから、戻るのは一瞬だしな!