2-48 世界樹下層
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とりあえず現在のEXPとMSPを確認するか。
現在の総EXP2636か……。あの数を倒したんだからレベルが上がるかと思ったんだけどなぁ。ちなみに次のレベルアップは3000です。
MSPはっと86か。次の弓技が200だから遠いなぁ。うーん、集中や遠視は20しか使わないし、浮気してあげてみるのも良いかなぁ。いや、駄目だ。まずは弓技を2にすべきだな。2の次は300だろうから、2に上げてどうなるかを確認して、その時になってから他を上げてみよう。
さあ、素材回収だ。今回大量の死骸が散らばっているもんなぁ、時間がかかりそうだ。まずは沢山散らばっているソルジャーの死骸から甲殻をっと。切断のナイフを使ってべりべりーっと。中は割とぐちゃーっとしていて気持ち悪いです。ソルジャーからは顎を取ることは出来そうに無かった。退化しているのか顎がちっさいんですよね。食事とかどうしているんだろう。
エリートの剣も回収っと。サイズがサイズなので子供用のナイフみたいだな。エリートの甲殻もばりばりーっと剥がして回収。エリートの発達した顎もぐちゃーっと引っ張って取り外して回収。べちゃぐちゃぐちょーである。
クィーンの杖も回収っと。これを振ったら魔法とか使えないかなぁ。ちょっと鑑定してみよう。
【クィーン・ビーの指示杖】
【クィーン・ビーの素材の一つ】
うーん、素材扱いか。何かしないと武器とかの扱いにならないのかなぁ。でもソルジャーの槍は矢の代わりとして使えたんだよな。全部使い切らずに鑑定用に残しておけば良かった。
にしてもチャージアローって、威力は高いけど矢を壊しちゃうのがネックだよな。最初の弓技としてはどうなんだって思うよ。ゲームだとさ、一番最初に憶える技って普通は汎用性が高くて最後まで使えるみたいなのが多くない? 矢を壊すし、溜める時間もかかるし……もっと強い技が手に入ったら使わなくなりそうだ。
集めた素材を巣の前に山盛りにする。魔石はショルダーバッグに入れる。ショルダーバッグの容量も結構キツい感じです。幾ら小さな魔石とは言っても27個も集まると結構な量である。蜘蛛狩りしていたときより多いもんな。
にしても素材をどうしようか。ソルジャーやエリートなら一個一個の素材がそこまでのサイズでは無いが――と言っても数が数だし、クィーンの素材は結構大きいしなぁ。
よし、次の魔獣を倒したら帰還ということにしよう。おびき出しては倒してって数を減らすためにかなり時間をかけて戦っていたから、もう結構良い時間だしな。これらの素材は魔法糸で包んでここに置いとこう。さすがに今の殆どの冒険者が挑戦していない状況なら盗まれることも無いだろう。後一回戦闘をして、帰りに回収っと。
うんじゃ、様子見がてら登ってみますか。
―2―
しばらく坂を登っていたが魔獣の線は見えなかった。うーん、ウッドゴーレムは一番最後に居るんだろうし、出るならジャイアントクロウラーだよな。同族殺しか……、いやいや相手は魔獣だし、自分はディアクロウラーだから別物だしー。余り深く考えないようにしよう。
にしても全然出てこないな。仕方ない、これ以上粘ると翌日になりかねないし帰還するか。
しかしまぁ蜂退治で時間がかかりすぎたなぁ。本当は今日中にウッドゴーレムまで倒す予定だったんだけどなぁ。まぁ倒せれたら、だけどさ。これ、一番怖いのは里に戻って一晩経ったら、蜂たちが復活しているってパターンだよなぁ。またチマチマ倒していたらいつまで経っても攻略出来ないぞ……。
と、来た道を帰っていると視界の上にセフィロスライムという線が見えた。上を見ると壁に大きく広がった半透明な粘液の塊がこびりついていた。粘液の中心には少し大きくなった魔石のようなモノがうっすらと見える。線が見えたのは本当に偶然だったが、コレ、気付かなかったらやばかったんじゃね?
セフィロスライムの下を通っていたら完全に不意打ちされていたよな……。
とりあえず矢で射るか……。
――<チャージアロー>――
もう帰還するだけだし、出し惜しみはしない。最後の鉄の矢を番え、力を溜める。最大まで光ったところで矢を放つ。
光り輝く矢がセフィロスライムに飛んでいく。よし、気付かれていない。回避とかはされなさそうだな。
そして刺さった矢が刺さった部分から溶けていった。はぁ? 弾かれるとかではなく、消化された? しかも矢の飛んだ勢いのまま?
こちらの攻撃を受け、こちらの存在に気付いたのかセフィロスライムが壁からぼとりと落ちこちらへ動いてくる。動きはゆっくりだが、道の中央に陣取っており、セフィロスライムを回避して通り抜けることは出来なさそうだった。そっち帰り道なんですけど……。
そ、そういえば火に弱いってちびっ娘が言っていたな。くそ、勿体ないけど最後の火の矢を使うか。動きは鈍いし、充分溜めている時間はあるはずだ。
――<チャージアロー>――
火の矢が紫に輝いていく。うぅ、勿体ないなぁ。そして最大限まで溜めて放つ。
紫に輝く火の矢がセフィロスライムに刺さる。セフィロスライムの表面がうっすらと紫色に染まり少しだけ深く中に沈むが、それだけだった。そしてそのまま、中のコアに届くことも無く鉄の矢と同じように消化された。う、嘘だろ? 確かに少し体積が減ったように見えるけど、こんなん、火の矢が何本居るか分からない位だぞ。しかも弓技を使ってコレだ。
も、もしかして詰んだか……。いや、まだだ。まだ鉄の槍がある。アレに近接攻撃を挑むのは凄まじく怖いけど仕方ない、覚悟を決めよう。
セフィロスライムに近寄ると、ヤツは体の一部を触手のように変異させ伸ばしてきた。その早さにびっくりする。
――<魔法糸>――
急ぎ魔法糸を飛ばし後方へと回避する。こ、恐……。獲物に攻撃してくる時のスピードが半端ないんですけど……。あんなのに近寄るなんて自殺行為じゃねえか……あ、そ、そうだ、ま、まだ、魔法があったッ!
――[アイスボール]――
俺は6個の氷の塊を浮かべる。ゲームなんかだと物理無効のスライムは魔法に弱い場合が多いしね、これは良い考えじゃね?
6個の氷の塊を次々とぶつける。氷の塊はぶつかったそばから吸収される。氷の塊を吸収したことで体積も増えたように見える。あわわわ、マジかよ。つ、次だ。
――[ウォーターボール]――
次は水の球を浮かべセフィロスライムに飛ばす。……結果は氷の塊と同じだった。魔法無効かよ。それどころか吸収して大きくなってるじゃねえかよ。後は魔法糸だけか……。これが効かなかったら、近接攻撃しか手段が無いんですけど。
――<魔法糸>――
最後の望みを託して魔法糸を飛ばす。しかし魔法糸も吸収されてしまった。
ま、マジかよ。最後は鉄の槍か……。コアを潰せば勝てるんだよな。槍が溶けるよりも早くコアまで到達して潰すことが出来れば……なんとかなるか?
俺は意を決して近寄る。ヤツは体から複数の触手を伸ばして襲ってくる。右の触手を左に避け、避けた先に襲いかかってきた左の触手を前に出て回避し、更に上から来た触手を更に前に出て回避し、それら次々と襲ってくる触手をぎりぎりで回避しコアの前に。敏捷補正を上げておいて良かった……。
俺は右手に持った鉄の槍とサイドアーム・ナラカに持たせた鉄の槍を構える。
喰らえッ!
【スキルの同時発動が発現しました】
【<Wスパイラルチャージ>が発動します】
システムメッセージが見えたが、今の俺には気にしている余裕が無い。
――<Wスパイラルチャージ>――
二つの槍が同時にセフィロスライムのコアを目掛けてうなり上げ螺旋を描き貫こうと進んでいく。
……そして、そのまま吸収された。技の発動途中だが、俺は慌てて槍を手放す。……技を途中でキャンセル出来て良かった。あのままだと俺ごと突っ込んで吸収されるところだったよ。って、この状況は……!?
そう、今、俺はセフィロスライムのコアの目の前。伸びた触手に囲まれた状態だ。囲んでいた触手が降ってくる。
うおぉぉぉぉ。俺は何も考えず、ただ必死にサイドアーム・ナラカを振り回した。それはただの防衛本能から来る行動だった。
そして、サイドアーム・ナラカは吸収されることなく、その触手を弾き飛ばした。……なんだと!?
次々と迫り来る触手。それらをサイドアーム・ナラカを使い必死に振り払う。あの吸収速度だ、触れられたらその瞬間に切り取られるように吸収されることは確実だ。火事場の馬鹿力とも言えるような奇跡で全ての触手を振り払い、そのままサイドアーム・ナラカをコア目掛けて突き刺さす。
そしてコアを掴み、そのまま引きずり出す。
コアが無くなったセフィロスライムは、そのまましぼむように溶けていった。
はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思った。ホント、死ぬかと思った。サイドアーム・ナラカが無かったら確実に死んでいた。あの無数の触手を一本でも振り払えていなかったら……き、危険すぎる。今回の経験で倒し方はわかったけれど、もう二度とやりたくない。絶対にやりたくない。
……帰ろう。後一戦とか考えずに帰っていれば良かった。ホント、泣き叫びそうなくらいに怖かった。ホント、死ぬかと思った。スライム怖い。もう、武器もないし、次に魔獣が出たら……、うん、帰ろう。本当に帰ろう。