6-79 王城への招待
―1―
翌日、分身体にて学院に出動し、豪華な髪型の少女を探す。まぁ、あの豪華すぎる外見だ、すぐに見つかるだろう。
果たして豪華な髪型の少女は見つかった。のんきに鼻歌でも歌いそうな感じで学院の廊下を歩いている。
「エミリア、いいか?」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女は驚き、諦めにも似たため息を吐く。
「ノアルジーさん、ですの? 相変わらず乱暴な言葉遣いですのね」
あ、すいませんっす。丁寧に喋らないと駄目な時は頑張るからさ。
「確か、今週の闇の日に約束があった……よな?」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女は少し怪訝そうな顔をする。
「まさか、忘れていたのです?」
いやいや、俺自身に約束した覚えがないからさ。確認、そう、これは確認なのだ。
「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ!」
忘れていたワケじゃないんだよーって感じで会話に入るのは大事だよね。
「バレンタイン王子から手紙が来て、その日に王城へと来るように命令されたのだ」
あれは命令だよなぁ。
「な、なんですって?」
豪華な髪型の少女が盛り上げた髪ごと後ろに倒れそうになり――それでも踏ん張って持ち直し、豪華な髪をまっすぐにしていた。おー、髪の毛重そうだもんね。髪の毛を支えるために腹筋が鍛えられていたのかな。まぁ、胸元にある無駄な脂肪が邪魔そうだけどさ。
「それは本当ですの?」
本当ですの。
「それで、どうしたものかと。とりあえず王城に行った後、こちらにも予定があるから次は勝手にそういう手紙を送ってこないように言っておくからさ」
まぁ、相手は王子だけどさ。だからって筋を通さないのはダメだろう。俺は外側にいる人間だからな、権威とか関係ないんだぜ。それにさ、敵に対して畏まる必要なんてないじゃん。
「ノアルジーさん……」
豪華な髪型の少女は貧血でも起こしたかのように崩れ落ちそうになり、またもギリギリのところで踏みとどまった。
「やめてください。私の家が不敬罪で取りつぶされてしまいますわ……」
あー、エミリアの家って有力貴族ぽいけど、それでも簡単に取りつぶされてしまう程度なのか。それだと余り俺が無茶を言うのはかわいそうか……。でもさ、それなら、なんで辺境伯相手でも偉そうだったんだ? 俺は、それを見て、てっきりもうちょっと上の方だと認識していたんだがなぁ。
「エミリアは有力貴族ではないのか?」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女は少しだけむっとしていた。
「ゼーレ家は貴族の中でも上位ですわ! それでも王族やそれに連なる方とは格が違いますもの」
「その割には辺境伯に対して普通にいつもの対応だったように見えたが?」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女は目を大きく見開き驚いていた。おー、百面相だ。
「私が、いつ、辺境伯に?」
「入学試験の時だよ。入り口、お……私の隣に居たのが辺境伯だけど?」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女が頭を抱えて座り込んでしまった。
「そんな、私が……でも、だって、辺境伯がその自領を空けるなんて、でも、家紋が、いえ、もしかして見逃した? でも……」
おーい、戻ってこい。別にあのじいちゃん、元気な若者だなぁくらいにしか思ってないから大丈夫だと思うけどな。
「ま、まぁ、そういうわけで今週の闇の日は約束を果たせなくなったのだ」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女がよろよろと立ち上がる。
「わ、分かりましたわ。それは仕方ないですもの。それと実家のゼーレ家を通じて謝罪の言葉を……」
それほどの大事なのか?
「気にしてないと思うから大丈夫だ。まぁ、不安なら俺の方からも言っておくからさ」
「ノアルジーさん、あなた……何者なの?」
俺? 俺か?
「ただのノアルジだよ」
まぁ、俺は何処にも所属していないからなぁ。
と、それと聞きたいことがあったんだよな。
「ところで聞きたいんだが、いいかな?」
「え、ええ」
豪華な髪型の少女が困惑した顔のまま、頷く。
「バレンタイン王子からの手紙には時間の指定が無かったんだけどさ、これ、いつ行けばいいと思う? おかしいよな?」
分身体の言葉に豪華な髪型の少女は絶句していた。そして、大きく深呼吸をし、ゆっくりと再起動した。
「当たり前ですわ! 王族なんですもの、こちらが先に行って待つのが当然ですわ!」
あー、向こうにあわせないとダメってコトか。さすがは王族。随分と上からなんだなぁ。
「ノアルジーさん、私、あなたを見ているとそれだけで倒れそうですわ……」
う、うーん、なんというか、これだと俺が常識を知らない子どもみたいじゃないか。
―2―
約束の闇の日がやって来た。
俺は《変身》を使い、寮から出て、そのまま学院の外に出る。そして、学院の近くにある従者の宿泊施設に向かう。そこには14型と羽猫がいるからな。
「マスター、お待ちしておりました。ええ、とてもお待ちしておりました。何なりとご命令を、常識の範囲でご命令を」
14型が優雅にお辞儀をする。
「にゃ!」
羽猫も飛び跳ね、俺の横をくるくるとまわっている。
お、おう、待たせたな。
で、ですよ。よく考えたら王宮に行く方法がないんだよな。禁書庫を通るのは不味いだろうしさ、飛竜を持っていない俺がどうやってとなりの島の首都まで飛ぶんだよ。
そりゃあさ、《飛翔》スキルを使えば王城のある首都の島まで飛べると思うよ。でも、俺が空を飛んで向かうのは目立ちすぎないか? 問題だよな。
「にゃ?」
そこで考えた訳ですよ。無い知恵を絞って考えた訳ですよ。
「エミリオ、大きくなって、俺と14型を乗せて首都の王城まで飛べるか?」
羽猫は14型の方を見て、一瞬嫌そうな顔をした後、こちらに向き直り任せろと言わんばかりに一声鳴いた。あー、14型さん、機械だから重そうだもんな。
まぁ、つまり、だ。飛竜とかの魔獣の騎獣がオッケーなら、羽猫もありだろうってワケなのさ!
「にゃ!」
一声鳴き、羽猫が大きく姿を変える。羽虎の誕生だ。何故か14型が俺を持ち上げ(お、お前!)羽虎の背に横向きに座る。あー、スカートだからね、またがれないよな。で、なんで俺が持ち上げられているんでしょうか。
「にゃにゃにゃ!」
羽虎が羽を羽ばたかせ、空へと舞う。宿泊施設の窓から顔を覗かせいた人やメインストリートを歩いていた人たちが驚いた顔でこちらを見ていた。あー、うん。これ、普通に目立っているよな。ま、まぁ、やってしまったことは仕方ない。そのまま行くぜー。
―3―
太陽の光を反射して輝く水晶で作られた王城へと向かう。王城へと降りようと高度が下がる度に霧が深くなっていく。これ、高い所にある王城はいいけどさ、その下に住んでいる人は大変じゃないか? それに、えーっと、なんだったかな、そうそう高山病。高い所だと危ないんじゃないのか? うーむ。
王城の前の階段に羽虎と共に降りると、俺たちはすぐに衛兵に取り囲まれた。うん、当然だよな!
羽虎はすぐに姿を変え、元の小さな羽猫の姿へと戻る。
14型は俺たちを囲んだ衛兵を見て、おしとやかに笑い、スカートの裾を掴み綺麗なお辞儀をする。これは、アレだ。
「14型、止まれ」
絶対に周囲の衛兵をなぎ払うつもりだったよなぁ。
「ノアルジーは派手な登場をするんだね」
その言葉に衛兵の輪が開き、王子様が進み出てくる。まぁ、階段の先にバレンタイン王子がいたのは見えていたからな。この子、朝から待っていたのかよ。
「では、行こうか」
王子が俺の手を取り、引っ張っていく。はー、で、俺は何処に連れて行かれるのかね。
「バレンタイン王子、私とあなたは味方同士ではないと思うのだが?」
俺の言葉に王子は楽しそうに笑う。
「でも、敵同士と決まったわけじゃないでしょ?」
はぁ、さいですか。
「で、今日のお呼び立ては、どういったご用件で?」
俺の迷宮探索を中止させたんだからな、つまらない用件だったら許さないんだぜー。
「一緒に食事をしようと思っただけだよ」
「まだ食事には早い時間だと思いますが?」
俺の言葉に王子は首を傾げた。
「それなら王城を見て回る?」
「ええ、いいですね。セシリーを幽閉している場所を見て回りたいですね」
さあ、どうでる?
「いいよ、行こうか」
いいのかよ! えーっと、あっさり解決しそう? それなら、俺、後は迷宮を見学してささっと本社に戻りますよ。女学校での生活は窮屈で仕方ないもん。もう、あんなところ、いやだー。
……。
さ、まぁ、何にせよ、敵の本拠地だな。