6-78 手紙と約束と
―1―
次の日、何か問題が起きていないかを確認するため分身体を学院に送り込んでみた。
しかし、学院では特に大きな騒動にはなっていないようだった。まぁ、教師陣がちょっと眠たそうにしているぐらいだ。ひとまず、ほっ、である。いやいや、アレだけの騒動を起こして何も無いのか?
学院で事情通ぽい赤毛の少女に聞いてみた。
「ノアルジーさまだ、生ノアルジーさまだよー」
……。
「昨日、何か騒動が起きていたようだが」
「あー、うん、あったよー」
あったのか。
「その割には、いつもと変わらないようだが」
「そうだねー。侵入者を見たって騒ぎになって、先生たちが結界にほころびがないかを確認して、問題無しってことになったみたいだよー」
そ、そうか。
「それで先生たちは疲れ果ててるみたいで大変なんだよー」
古の結界の確認が大変だったってことか? ふむ。
「侵入者を見たって言ってる子たちも、支離滅裂なことを喋っているし、寝ていた子もいるから、夢でも見ていたんじゃないか、ってことで落ち着いたみたいだよー」
ディスオーダー、ぐっじょぶだよー。やはり、混乱系の魔法は最強か。
「それで、ノアルジーさまは、来週、エミリアさまのお家に行くんだよねー」
うん?
何か、気になる言葉が出てきたような……。
ワンモアプリーズ。
「ノアルジーさま、エミリアさまのお家にお呼ばれしていたと思うけど?」
ちょっと待て、ちょっと待て。記憶にないんですが、どういうことだ? エミリアさまって、あの毎日、毎日大変だろうなっていう、とてもゴージャスな髪型の少女だよな? 俺とあの子って、そんなに絡みがなかったはずだが……。どういうことだ?
しかも来週か。外出だから闇の日だよな? 調整すれば《変身》スキルは使えるだろうけど、そんなことで貴重な《変身》出来る時間を潰すのか? 早く迷宮を攻略したり、迷宮を解放するための鍵の謎を解いたりしないといけないのに?
う、うーむ。これ、ばっくれたらダメかなぁ。
―2―
それは、さらに次の週になった時のコトだった。
「ノアルジーさん、ノアルジーさんは居ますか!」
誰ですか?
って、今、扉を開けられたら不味いッ!
――《分身》――
分身体を作成してッ!
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし天井に張り付き、
――《隠形》――
《隠形》スキルで気配を消す。天井を見ない限りはバレないはずだ。
「誰でしょう?」
分身体を使い扉を少しだけ開ける。
「ノアルジーさん、お手紙ですよ。それと、余り言いたくはないのですけれど、少しは外に出た方が良いですよ。体が弱いということですが、体が弱くても外に出ることは出来るはずです。学院に通えない時でも外に出て交流を図りなさい。それが学院の生徒として……」
あー、沈黙の魔女さんですか。何だか、話が飛びまくっているなぁ。とりあえず、アレだ。俺宛に手紙が来たんだな? にしても、誰だ? 辺境伯? まさか、シ、シ、シリア? それともノアルジ商会の誰かからか?
「手紙受け取ります」
分身体が手紙を受け取ろうと手を伸ばす。が、沈黙の魔女は手紙を渡してくれない。
「この手紙が何処から来ているか分かっているんですか?」
いや、分からないので手紙を下さい。
「学院に手紙が届くと言うことは特例なんですよ。そして、そんな力業を可能にして、さらにこの手紙の封として押されている家紋は……。ノアルジーさん、言いたくないのですが、学院の寮の中に、このようなことを持ち込まれては困るのですよ」
いや、だから、手紙を下さい。
ある程度、話に満足したのか、やっと沈黙の魔女が手紙を手放した。ふぅ、で、誰の手紙だ?
分身体を使い、その場で封を破り手紙を読む。
手紙の内容は凄く簡単だった。
闇の日なら学院の外に出られるはずだ。王宮で待っているから遊びに来て欲しい。といった感じの内容だ。
えーっと、第一王子様からの手紙でしたか。いや、でもさ、俺、エミリアって子と約束しているんだよな? いやまぁ、約束した覚えはないんだけどさ。うーん、これ、どうしたらいいんだ?
「寮母さん、この手紙に返事をする時はどうすればいいんだ?」
分身体の言葉に沈黙の魔女は顔をしかめた。
「また、そのような言葉遣いで……。ノアルジーさん、王からの言葉は命令ですよ。返事が必要になるものではありません」
えー。それはそれで困るんだが……。
うーん。辺境伯と連絡が取れるわけじゃないしなぁ。こういう時の対応法って習ってないしなぁ。
困ったぞ。
仕方ない、豪華な髪型の少女と相談して決めるか。先約はそっちだしな。それに、豪華な髪型の少女の方がこの国の常識にも詳しいだろうしな。
よし、そうしよう。