6-75 禁書庫の先は
―1―
禁書庫の探索を開始する。足下の光に照らされた、目に悪そうな赤い通路を歩いていると、右手側に先程と同じような金属の扉が見えてきた。ふむ、扉が4つほど連続で並んでいるな。とりあえず手前側から順番に開けていくか。
金属の扉に触れると、扉が上下に分かれるように自動的に開いた。そして、中には……やはり、何も無かった。真っ赤だなー、ホント、何も無い真っ赤な部屋だなぁ。
よし、次の部屋。
次の部屋を開けると中には何も無かった。
いや、違うな。左の壁側の一部が透明なガラス状になっており、その中に、一冊の本が置かれていた。おー、やっと書庫らしく本があったぞ。
本の表紙に書かれている文字はよく分からないが、異能言語理解スキルが解析するには、『航海日誌』と書かれているようだった。
航海日誌? 何で航海日誌が書庫にあるんだ? いや、まぁ、こういうのも本だから、あってもおかしく無いのか?
本を取り出してみようと頑張ってみるがガラス状の壁は開かない。余りにも腹が立ったのでスターダストを取り出し、《フェイトブレイカー》を発動させる。
――《フェイトブレイカー》――
透明な壁を舐めるように剣が舞う。そして、突きを放ち……俺の手が痺れた。スターダストが弾かれた? いてぇッ! 何て硬さだよ! これ、破壊不能とか、そういう感じなのか? 凄いねー、これを持ち帰って盾にしたいくらいだよ!
俺の現状の最強武器のスターダストで最強の技の《フェイトブレイカー》を使って壊れないとかッ!
……くそぅ、航海日誌、読んでみたかったなぁ。
仕方ない、次の部屋だ。
次の扉を開けると中には小さな卓上机が一つ置いてあった。足が床とくっついているようで動かすことは出来ないようだ。そして、その他には何も無かった。本当に何も無いな。
次の扉を開けると中には部屋を埋めるように無数の本棚が置いてあった。おー、本棚だ! しかも本棚にはきちんと装丁された本が並べられている。これは何か動物の皮で装丁したのかな?
本の背表紙には何も書かれていない。背表紙に文字を書く文化がないのかな?
本を一冊取り出してみる。表紙にも、その裏にも文字は書かれていなかった。中を開ける。中には一行だけ、『神聖帝国レムリアース暦0~』と書かれていた。
えーっと、神国の歴史書?
もう一ページ、捲ってみる。
『女神が世界を作った。女神は自身の分身として人を作った。女神には敵がいた。魔族、魔人族。人は女神の戦士として戦い……』
うーむ。本当に歴史書ぽいな。文章が硬いのは翻訳の性能か、それとも物語として見せる気がないからか……。
ぺらぺらと捲ってみる。
魔族を封じ込めて、その功績で国を貰ったのが神国の始まり、と。大体、そんな感じか。何だろう、凄い微妙な書物だ。
ここに並んでいるのって全て神国の歴史書か? そういえば、この本棚って後で備え付けた感じだもんな。禁書庫って迷宮に歴史書を置いたって感じなんだろうか。そういえば、この世界って女神の休息日があるから、必ず迷宮が必要なんだよな? ここも、そういった際の避難場所なんだろうか。
なんだか、俺が思っていたのと違うなぁ。
―2―
更に奥へと進むと道が途切れた。正面には同じように金属の扉がある。うーん、この部屋を見たら、今日は帰還かな。俺の変身時間にも限りがあるからな。余り進みすぎて、途中で《変身》の効果が切れてしまったら洒落にならないもんな。
金属の扉に手を触れ、扉を開ける。
中には、いつもの台座がぽつんと部屋の中央に置いてあった。へ? これで終わり? ここを通って次の階層に行くって感じなのか?
とりあえず台座に触れてみるか。
台座に手をかざすと周囲の風景が変わった。やはり転送装置か。って、アレ? この部屋、転送に使った台座が……ない。ま、ま、まさか、一方通行? 嘘でしょ。
いや、だってさ、あの癖毛の少女が奥には魔獣が出るって言うからさ、今まで通った道で魔獣が出る気配なんてなかったしさ、この台座の先に魔獣が居るんだな、って思うじゃん。あの口ぶりだから、普通に帰ってくることが出来ると思うじゃん。やばい、これは、やばい。何がヤバいって、《変身》の効果時間が切れた時がやばい。それまでに、何としても寮に戻らないと……。
室内を見回す。やはり、目に悪そうな赤い部屋だな。そして、正面には金属の扉っと。さっきの並んでいた部屋の1つとそっくりだな。とりあえず外に出てみよう。
俺が金属の扉に触れると扉は上下に分かれ開いていった。そして、その先は、やはり先程と同じような通路になっていた。同じ迷宮か?
右と左、通路は2つに分かれている。隣に、同じような部屋は……無さそうだな。まぁ、まずは進むか。とりあえず左に進もう。
緩やかなカーブになっている道を左に進んでいく。俺の歩く速度に合わせて足下に灯りが灯っていく。これさ、俺が全速力で駆けたら、追いつけるか試してみたくなるなぁ。
しばらく左側に進んでいると巨大な門が見えてきた。おー、デカいな。これ、開くかなぁ。
巨大な観音開きの扉に触れると、扉は、静かに――まったく音を立てずに、そして少しだけ開いた。俺1人なら普通に通れそうだな。ちょっと通りますよ。
扉を抜けた先は、やはり同じような通路になっていた。そして、俺が通り抜けたのを感知したのか後ろの扉が閉まっていく。へ? 一方通行? ちょっと待ったー!
無情にも扉は閉まってしまった。しまってしまった!
閉まった巨大な扉を触れてみても、叩いてみても、一向に動く気配がない。う、うーむ。まさかの一方通行。どんどん深みにはまっている気がするんだが、大丈夫だろうか。
ま、まぁ、進むしかないな。魔法のウェストポーチXLに食料は沢山詰め込んであるし、水は魔法で生み出せるし、うん、何とかなるなる。
長く、永遠に続くかと思えるような緩やかな上り坂を上っていくと、外の――陽の光が見えてきた。へ? 外?
紅に染まる光に吸い寄せられるように外に出ると、そこは何処かの庭園だった。綺麗に、そして並ぶように花が咲き誇り、剪定された木々が姿を見せている庭園。そして、向こうには大理石の柱が立ち並び、そこを着飾った女性や男性が歩いていた。えーっと、ここ、何処でしょう?
にしてももう夕方か。時間が経つのってば早いッ!
これ、このまま進んでいいのかなぁ。
あの歩いている人たちに、ここは何処でしょう、とか聞いて大丈夫なんだろうか? う、うーむ。ま、まぁ、何か問題が起きたら普通に《転移》で逃げればいいか。さすがに、ここも《転移》が使えない、何てことはないよね。無いよな?