6-74 敵か味方か?
―1―
テスの後を追い、迷路のようになっている本棚の壁を抜けていく。そして、中央部に到着する。
「ここが中央、禁書庫の入り口……」
そこにあったのは、八大迷宮でよく見かける台座だった。あれ? ここって八大迷宮じゃないよな? 何でいつもの台座があるんだ? アレって八大迷宮限定じゃないんだ……。
「これに触れたらいいのか?」
俺の言葉に癖毛の少女が頷く。
「上級クラスの資格持ちじゃないと起動しない」
あ、そうなんだ。てことは、上級クラスかそうじゃないかを判別する仕組みがあるってことか? でも、上級クラスとかの分け方って第三王女が始めたって言ってたよな? あの姫さま、そんなことが出来るのか? うーむ、謎が増えた。
まぁいい、まずは禁書庫だ。
台座に触れると付けていたブラックオニキスが輝きだした。そして、視界が変わる。
気付くと俺は赤い部屋に居た。目が痛くなるような赤さだな。俺の目の前には先程と同じ台座があり、その先――俺の正面には謎の金属で作られた扉がある。それだけの――他には何も無い小さめの部屋だった。これ、密室とかが駄目な人だと発狂しそうな部屋だな。
俺が考えているとテスも転送されてきた。こう、ふわっと、転送されてくるんだな。転送先に人が居て大変なことに! みたいなことは起きそうにないのか。
「ここが本当の禁書庫……」
この目に悪そうな赤い部屋が禁書庫? でも、本とか何も無いじゃん。目の前の扉の先にあるのかな?
とりあえず進むか。
金属の扉に近付くと、扉は静かに開いた。おー、自動ドア!
金属の扉の先は通路になっていた。俺たちが通路に出たからか、通路の左右下側に付けられていた透明なケースから光が灯っていく。コレ、順路?
「こっち……」
とりあえずテスの後をついて行くことにする。今のところ、書庫って感じじゃないな。何だろう、漫画とかで見たSFで良く出てくる宇宙船の中とか、そんな感じだ。
「ここ」
癖毛の少女が通路の途中にあった部屋を指差す。ここが禁書庫? まぁ、中に入ってみるか。
金属の扉が開き、そこには何も無かった。同じように赤い部屋……どういうことだ? ここに何があるっていうんだ? とりあえず癖毛の少女に聞いてみるか。
俺が振り返ると、そこには何処から取り出したのか杖を手に持った癖毛の少女が居た。
へ?
「もう呪文は発動する……スリープクラウド!」
癖毛の少女の杖から黒い雲の塊が生まれ……、
――[ウォーターミラー]――
俺がとっさに発動させた水の鏡に反射して、癖毛の少女は眠りの雲に包まれていた。そして、そのまま崩れ落ちるように眠った。え、どういうこと? とっさに反射したけど、攻撃を受けた? この子、敵だったのか?
にしても、黒い眠りの雲って闇属性にも眠りの魔法があったのか。木の属性のスリープとはまた別系統なのかな。
えーっと、どんな感じかな。赤い瞳で先程、癖毛の少女が発動させていた黒い眠りの雲を思い出し、読み取っていく。
多分、こうかな?
【[スリープクラウド]の魔法が発現しました】
――[スリープクラウド]――
俺の手から黒い靄がもやもやと生まれる。おー、出来た、出来た。多分、木属性のスリープの方が効果が高くてすやすやって安眠できるタイプ、こっちは範囲が広いけど効果が薄く悪夢を見るって感じかな。いやぁ、ノアルジ状態で良かったよー。新魔法ゲットだぜー。
って、この子、どうしよう。襲ってきた理由がわかんないけど、とりあえず身動きできないようにしておかないと……。
――《魔法糸》――
癖毛の少女を《魔法糸》で身動きできないように縛り付ける。一応、杖も預かっておこう。
―2―
「起きたか?」
苦悶の表情を浮かべながら眠っていた癖毛の少女が目を覚ます。
「何が……?」
こっちが聞きたいよ。
「何故、攻撃をした?」
「私が姫さまの味方とは限らない……」
姫『さま』ねぇ……。これは俺が敵かどうかを確かめるために試してるのかな? ここで俺が姫さまの敵だから、お前の味方だ、なんて言おうものならって感じか。
「誰が敵でも余裕で撥ね除けられるからな! 今は情報の方が欲しいんだよ」
俺の言葉に癖毛の少女は口をへの字にしてむむむと唸っている。俺様強いんだぜー。
「今だって、返り討ちにしたろ?」
俺の言葉に癖毛の少女はさらに不満そうにむむむと唸っている。
「何で攻撃してきたんだ?」
まぁ、眠らせる魔法だったから、殺すつもりはなかったと思うんだけどね。逆に、そういった魔法だったら、その身に跳ね返って悲惨なことになっていただろうけどさ。
「今の時期に学校に来るなんて信用できなかった。だから捕まえて拷問するつもりだった……」
ちょっと、この子、怖いこと言ってますよ。
「俺は姫さまの味方だよ」
友達だもんな。
「呼び捨て、第三王女呼び、怪しい……」
え、そこ? そこで狙われたの? う、うーむ。
俺は貝殻のブローチを取り出し、癖毛の少女に見せる。
「姫さまが同じような物を持っているのを見たことがないか? 友情の記念だよ」
今のノアルジ状態だと夜のクロークを付けていないからな。しまっていたのが不味かったのかなぁ。
「一応、信用する……」
一応って……。俺の方が立場は強いんだぜー。俺がその気になったら、大変なことになるんだぜ。
……まぁ、いいや。
「とりあえず、また襲われたらたまったモノじゃないからさ、君はここに置いていくよ。後で回収するからな」
縛ったままここに放り投げておこう。ま、まぁ、大丈夫だよな。
俺は俺で、ここを探索しないと、ね。
「真の禁書庫の奥の方は魔獣が出る、気をつけて……」
癖毛の少女は縛られたまま、そんなことを言っていた。
魔獣が出るのかよ!