6-70 名はまだ無い
―1―
闇の日が来たので外出することにした。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》スキルを使い、寮内の学生の動きを把握する。いや、だってさ、芋虫スタイルの俺が見つかったらやばいじゃん。大騒動になっちゃうんだぜー。
――《隠形》――
周辺に人が居ないの確認し、《隠形》スキルを使いながら窓の外へ、そのまま《軽業》スキルを使いながら寮の裏に回る。さあて、まずは《転移》のチェックをしないとな。
……。
【転移は不思議な力によってかき消されました】
あれ?
も、も、もしかして、結界内だから《転移》のチェックが出来ないのか? となると《転移》を使う時は、学院の外に出て、それから使わないとダメなのか……。
うーむ、一気に難易度が跳ね上がったな。一応、銀のローブを深くかぶって姿が見えないようにしているけどさ、そんな怪しい姿の人物が学院を出入りしているって噂になれば、面倒なことになるよな。
困った。困ったけど、仕方ない。
分身体が外に出ても何もならないからな……。今度からは闇の日になったら、他の人が起きる前に行動しようかな。
……。
って、よく考えたら無理に外出日を守らなくてもいいじゃん! あえて人の出入りが多くなる日に、俺があわせる必要って全くなかったじゃん! バレないように隠れてこっそり出入りすれば良いじゃん。俺は何を真面目にルールを守ろうとしていたんだか……。
ま、まぁ、今日はこのまま《隠形》スキルと《剣の瞳》を組み合わせて外出するか。
学院の入り口にあたる場所の門は開かれており、周囲に人影は無かった。不用心だよな。まぁ、結界があって学院の関係者しか出入りが出来ないんだから、こんなものか。
そのまま、ローブ姿の状態で学院の外に出て《転移》のチェックが出来る場所を探す。
学院を出て正面はメインストリートに繋がっており、その先には14型の宿泊している施設がある。14型が大人しくしているか心配だが、まぁ、大丈夫だろう。
右手側に進めば以前に試験を行ったグラウンドだな。グラウンドは人目が多いだろうから、そこでチェックするのは危険か。
となると左手側を進んでみるかな。
学院を囲むように作られた壁をつたい進んでいく。余り、人の目につかぬよう、道の端を《隠形》しながら進む。学院の裏側まで進むと大きく茂った木々が見えてきた。へぇ、学院の裏が森になっているのか。何だか、奥に遺跡でもありそうな雰囲気の森だな。
よし、ここなら目立たないだろう。
――《転移チェック8》――
今回は8番にチェックを入れよう。さあて、一旦、本社に帰りますか。
――《転移》――
―2―
本社の前に降り立つ。さあ、帰ってきたぞー。
「ラン様ですわぁ」
俺が本社に入ろうとしたタイミングでフルールが鍛冶場から出てきた。何故か、犬頭のフルールは呆れ顔だ。
「今生の別れになるような話をして神国に行ったと思ったら、ちょくちょく戻ってくるなんて呆れもしますわぁ」
えーっと、いや、その、ね。別に戻って来ないなんて言ってないじゃん。
「それとラン様、頼まれていた変わった鉱石の装備品、出来てますわぁ。どうしますの?」
変わった鉱石? あ、ああ! 千年結晶か! そういえば何か適当に作ってって頼んでいたよな。
『見せて貰っても良いか?』
俺の天啓を受け、フルールが犬歯を覗かせながらニヤリと笑う。
「もちろんですわぁ」
フルールの案内で鍛冶工房に入り、2階へと上がる。
「今からお昼にしようと思っていたところに帰ってくるんですから、困ったものですわぁ」
お前、全然、困ってないよな。余裕そうだよな。
「これですわぁ」
フルールが自慢気に取り出したのは、鞘に収められた1本の和刀と見事な意匠の施されたうっすらと青に輝く鎧だった。
えーっと、とりあえず鑑定しておくか。
【鑑定に失敗しました】
【鑑定に失敗しました】
両方失敗かよ! 中級鑑定の信頼度が激下がりです。
「ネームレスとレインアーマーですわぁ」
刀がネームレスで鎧がレインアーマーか。名前の無い刀に、雨合羽みたいな名前の鎧か。
「鎧を作った時に余った結晶で預かった刀を補強したんですわぁ」
ふむ。にしても刀か。刀かぁ。そりゃね、侍のクラスは取得しているけどさ、使うか? 何だか凄く強そうな感じではあるけれど、使うか? 武器はさ、正直、間に合っているんだよな。真紅妃にスターダストがあるんだもん。
「でも、ラン様。ラン様の姿では鎧が着られませんわぁ。どうするんですの?」
いや、まぁ、ノアルジ状態の時に着るつもりだよ。赤竜の鱗衣があるから、これも必要無いと言えば必要無いのか?
あ、そうだ。
《換装》スキルを使い赤竜の鱗衣を取り出す。
『フルール、この鎧と赤竜の鱗衣を組み合わせることは可能か?』
フルールが赤竜の鱗衣とレインアーマーを見比べる。
「可能ですわぁ」
そうか。
『では、頼む』
これでノアルジ状態の鎧が更に強化されるな。刀の方は受け取るだけ、受け取っておくか。
後は……、ポンちゃんのところでご飯を食べて、食料をゲットして、アクアポンドを入れた封印の魔石を渡して……うん、そんな感じだな。