2-46 混混
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魔法具屋の中には、昨日と同じように普人族の老婆が置物のように存在していた。
『もし?』
俺は、一応、その老婆に声をかけてみた。
「はいはい、聞こえていますよ」
そりゃ念話だから必ず聞こえるよねー。
『魔法具が欲しいのだが』
「はいはい、そうですね」
うーん。このお婆ちゃんは、実は店番をする魔法具か何かで本当は人間じゃないとか。もうね、そう思わないとやってられないぜ、こんちきしょー。
「あ、お客さん?」
と、置物のようなお婆ちゃんの相手をしていると後ろから声がかけられた。う、後ろを取られた!?
「あ、噂の星獣様ですよね、星獣様だー。お婆ちゃんごめんねー、お客様だよー」
後ろに居たのは普人族の少女? だった。そばかすのついた赤髪ポニーテールさんです。だぶだぶズボンがアラビアンな感じですな。
「はいはい、お客様ですね」
そうだよ、お客様だよ。
「お婆ちゃん、ごめんねー。僕、お客様の相手をするから奥で休んでてねー」
お婆ちゃんは「はいはい」と答えると奥の部屋へと帰って行った。置物かと思ったが、本当に店番をしていたのか?
「はい、では改めまして、星獣様ー。ようこそ、クノエ魔法具店へ!」
クノエ? 彼女の名前だろうか? よっし、鑑定してみよう。
「あ、今、何かしようとした?」
うお、感づかれた!? 危ない、危ない。魔法とかに携わるような人だと察知されるんだろうか。
『星獣の氷嵐の主と言う。よろしく頼む』
鑑定しようとしたことなど無かったかのように挨拶をする。
「はーい、クノエです。よろしく! 星獣様……えーっと、ランさんは、本当にジャイアントクロウラーなんですねー。ジャイアントクロウラーが喋っているなんて不思議です。実はテイムした人が隠れている、とかないんですかー?」
無いでーす。って、このクノエさんが店主で良いのかな。店主をやるには随分と若いように見えるな。見た目は普人族だけど、また何か違う種族の方なんだろうか。
「ランさんはどのようなご用で? 魔法付与ですか? ちゃちゃっと僕がエンチャントしちゃいますよ。それとも何かお薬ですか? それとも魔法の装飾品や魔法の矢ですかー?」
う、うーむ。クノエさんは僕っ娘か。リアルで見たのは初めてだ。って字幕が僕になっているだけだから、本当は違うってパターンもあり得るか。
『換金所でこちらを案内されてな。ヒールポーションを持ってきたのだ』
「あー、なるほどー。混ぜ混ぜですか? 増量ですか? 保管ですか?」
混ぜ混ぜ? 増量? 保管? 説明して貰わないと分かりません。
「混ぜ混ぜは魔法薬を混ぜて新薬にします。例えばヒールポーションとフォレストウルフの魔石でアタックポーションって感じだね」
魔石ってそんな使い方もあるのか。
『混ぜ混ぜの種類と結果を聞くことは可能か?』
「それは試してみてのお楽しみ……かな?」
う、ケチ。
「基本はポーション系とポーション系かポーション系と魔石だね!」
ふむふむ。
「ある程度の結果を知りたいなら、この魔導書を買ってください。一冊327680円(金貨1枚)だよ。載っていない組み合わせも試すごとに自動で記載されていく優れものだね」
高いなぁ。これもいつかは買うリストで。
「増量は同じポーション同士で混ぜ混ぜして一つ大きなサイズにすることだね」
ふむふむ、一応、混ぜ混ぜの延長なワケだな。
「例えばSサイズのアタックポーションは飲んでから10秒しか効果が無いんだ。Mサイズなら20秒になるんだよ。大っきい方が有利だよね! ポーションは一度に連続で飲めないから大きくしとくのは重要だよー」
なるほど。というか、ポーションって飲むタイプだったんだな。どろっとしていたけど塗るタイプじゃなかったんだなぁ。
「後は保管かな。冒険の間、邪魔にならないように僕が保管するよ。保管料はタダだけど、一週間ご利用が無いと僕が貰っちゃいます」
うーん。一週間って長いようですぐだよな。こちらの世界の8日間だとしても、だ。うっかり忘れていてレンタルを延滞しちゃうような俺は止めた方が良さそうだ。
ふむ。
確か、ポイズンワームの魔石があったよな。試しに混ぜ混ぜしてみるか。
『この魔石とヒールポーションSで混ぜ混ぜを頼みたいのだが』
「はーい。Sサイズとポイズンワームの魔石だね。そうだねー、5120円(銀貨1枚)になります」
まぜまぜ料金って意外と高いのな。まぁ、それでも試してみようか。俺は銀貨1枚とヒールポーションS、ポイズンワームの魔石を渡す。
「ではお預かりしますね。僕は奥で作業してくるね。ではお待ちくださいませ」
クノエさんが奥の部屋に入り――すぐに出てきた。何というか凄っく早いな。本当に作業をしたのか疑ってしまう早さだ。
「はい、完成しました。ポイズンボムSだね」
俺はポイズンボムSを受け取り鑑定してみた。
【ポイズンボムS】
【相手にぶつけることで毒を浴びせる爆弾】
……完全に攻撃アイテムじゃないか。
「ちなみにこれは混ぜ混ぜも増量も出来ないからね!」
そりゃまぁ、そうか。しかしまぁ、なんでポーションが爆弾になるんだ。良くわからない世界だな。
『後、先程、魔法付与と言う言葉が出ていたようだが、どういったことが出来るのだろうか?』
「魔法付与かー。僕が出来るのは水属性付与、風属性付与、耐風、防水、風纏、治癒かな。それぞれ327680円(金貨1枚)だね。もちろん、付与できる素材じゃ無いと無理だからね」
これもびっくりするくらいに高いです。魔法を付与できる装備品自体が高いのに付与も高いとかお金が全然足りないな。
そういえば魔法の矢とかも言っていたな。それも聞いておくか。
「あー、ランさんは弓を扱うのか。それなら是非、僕の店で魔法の矢を買うべきだね。ホワイトさんのトコだと鉄の矢しか無かったでしょ。僕の店なら色々あるよー」
なるほど。矢はこっちの扱いだったのか。
「まずは火の矢。火属性を持った矢だね。世界樹攻略にオススメ。81920円(小金貨2枚)」
世界樹は火属性に弱い魔獣が多いからなぁ。これは欲しいかも。
「次が火炎の矢。相手を燃え状態に出来るよ。使い捨てだし、素材を壊しちゃうこともあるから最後の手段だね。これも81920円(小金貨2枚)」
火の矢とは別扱いなのか。燃え状態って……何というか状態異常武器ってか。
「そして爆裂の矢。これも使い捨て。矢が刺さると爆散して大怪我を与えてくれるよ。これは163840円(小金貨4枚)」
使い捨て系は買うのを躊躇うなぁ。奥の手に持っておくのは良いんだろうけどな。
「後は水の矢に、風の矢だね。火の矢と同じ属性矢だけど、これは僕が作っているから半額の40960円(小金貨1枚)で良いよ」
うーん、半額なのは嬉しいけど、世界樹だと使い道が無いよなぁ。
『火の矢を2本貰おう』
「ありがとうだね。……アレ、でも矢筒に入らないよ。どうする?」
仕方なく矢筒に入らなかった鉄の矢1本は背負い袋に入れることにする。……折れないと良いけど。
そして受け取った火の矢は紫色をしていた。アレ? 火の矢って言うくらいだから赤いのかと思ったら紫なのか。うーん、火属性の色は紫かぁ。水属性は青だったよな。
その後、装飾品なども見せて貰ったが金額の桁が違っていた。現状では買える金額じゃ無い。ヒールポーションSも小金貨2枚という結構高めな金額であった。これ換金額は銀貨1枚だったよね。16倍かよ……。
そのまま鍛冶屋へ。ホワイトさんから鉄の槍と切断のナイフを購入。鉄のナイフと鉄の矢の下取りの代わりに持っていた鉄の槍の手入れもして貰う。何時壊れてもおかしくないくらいに傷んでいたとのこと。
これで残りの残金は15968円(銀貨3枚、潰銭76枚)だ。大分、使ったなぁ。
明日は世界樹の上層も攻略してしまおう。頑張りますかッ!