6-67 凄い自信だな
―1―
寮の裏で夜になるまで隠れ続け、人が寝静まったのを確認してから動き出す。《軽業》スキルで寮の壁を伝い歩き、3階の窓から寮内に侵入する。そのまま、奥へと走り、自分の部屋の中へ滑り込む。
ふぅ。この時間だと分身体も消えているから、誰かが来たらアウトだったな。ホント、綱渡りをしているよなぁ。まぁ、誰かが勝手に侵入してこないようにだけ――それだけ気をつければ大丈夫か。
改めて自分の部屋を見回す。ベッドにクローゼットが1個あるだけのシンプルな部屋だ。灯りも無いから、夜は寝ることしか出来そうにない。これから、自分で色々好きにモノを置けってコトなのかな。まぁ、何日使うことになるかわからないし、必要最低限で大丈夫か。
この学院の生徒は皆、この寮で暮らすみたいだからさ、(あの、例の豪華な髪型のゴージャスな服装の少女は、まだ寮に入っていないみたいだけど)全員がここにいるんだろ? 全員の動きは把握し易いか。そういえば、その子が来たら歓迎会をやるらしいな。うーむ。その日の為に、《変身》スキルは取っておくか? いや、でも火の日には学院に通い始めるようになるんだったな。となると、結局、日数的に無理か。
この姿だと普通に喋ることも出来ないからなぁ。《分身》スキルも効果時間が一日中ではないから、夜、分身体が必要になったら困るし、タイミングが難しいな。何か、ウィンドボイスに登録しておくか? そうだよな、何か無難な言葉を登録しておこう。
さて、と。とりあえず勝手に中に入られないように扉を改造と、その時に俺が隠れられる場所の作成だな!
それらは急務だけどさ、俺、別に大工のスキルを持っているわけでもないからなぁ。まぁ、《魔法糸》で何か適当に頑張るか。
―2―
頑張って引き籠もり続け、学院に通う日がやって来た。引き籠もり続けた関係上、他の生徒との関係は最悪の底辺にまで落ちているだろうな。まぁ、その方が俺的には動き易くなって良いだろう。
――《分身》――
分身体を作り、寮の外に出る。そろそろ魔法のウェストポーチXLに用意した食料も底をつきそうだ。うーむ、食事の問題もあるんだよなぁ。分身体が食事をしても俺がお腹一杯になるわけじゃないしさ。食事は部屋で行いますって感じで、何とか、上手く誤魔化せないだろうか。まぁ、週一の外出の日に、本社から大量に食料をゲットしておくしかないか。
分身体で学院の中に入ると、すぐにアルテミシアと名乗っていた女教師に呼ばれた。
「ノアルジーさん、エミリアさんはすでに来ていますよ」
あ、はい。
って、すでに来ていますよって言われてもなぁ。何の説明も無く、今日から来て下さいって言われただけで、時間の指定も無いんだぜ。コレはアレか、言わなくても分かるだろ、的なアレか。
そのまま女教師に個室へと案内される。余り広くない部屋に机3つと椅子ね。教師も座って教える感じになるのかな。
そして、そこには、あの豪華な髪型の少女が居た。
「あなた!」
ゴージャスな服装の少女が立ち上がり、こちらを指差す。
「もしかして、あの時の、あなたも合格だったんですの!」
あ、はい。というか、同じ寮なんだから気付いても良さそうだと思うんだが、これも引き籠もっていた弊害だろうか。
「とりあえずノアルジーさん、席に座って下さい。それとエミリアさんも」
あ、はい。分身体を動かし、3つある席の1つへ適当に座る。
「あ、ノアルジーさん、そちらは教師側の席なので、ごめんなさい」
あ、はい。すいません。
皆が席に着く。そして女教師が説明を始めた。
「まずは聖セシリア魔法学院に入学おめでとう、ですね」
それを聞いて隣の豪華な髪型の少女は座ったまま器用に胸を張り、得意気だ。
「この学院は魔法を使う者として成功するための登竜門となっています。もちろん、卒業の暁には魔法使いのクラスも取得出来ます」
なるほど。魔法使いのクラス持ちは、この学院出身が多いのかな?
「しかし、あなたたちはいくら才能があると言っても、途中から入学した生徒になります。すでに学んでいる人たちよりも遅れている部分があると思ってください」
ないです。
「まぁ! 私の才能を見ても、そう言われるんですの?」
おー、俺も同意見だぜー。
「才能だけでは知識は作れません」
む、むむ。
「ここで知識を得て、才能を伸ばす、その幅を広げるのが、あなたたちの役目になります」
役目、ねぇ。
「私たち教師は、その助けを――先人としての知恵を、知識を、引き継がせるのが仕事になります」
ふむふむ。
「話を戻しましょう。あなたたちは途中入学者として、特別に個人講義に参加出来ます」
つまり、補習か?
「参加は自由なのだろうか?」
分身体の問いに女教師は頷く。
「ですが、参加して損はないと思います」
うーん、そうかもしれないけどさ、俺の場合は時間が限られているからなぁ。
「説明を続けます。座学は自由参加になります。著名な魔法使いから直に魔法講義を聴けると言うことで非常に人気がありますね」
あー、俺の居た世界みたいに時間割が決まっているわけじゃないのか。学校って言うと、そういうイメージがあったな。
「もちろん、この学院には神聖国随一の封印された大書庫があります。そちらを使い、個人で学習するのもいいでしょう」
うむす。俺の目的はそっちだな。
「ただ、月に一度の魔法試験は強制参加になります。そちらで結果を残せない人は最悪、退学になります」
月一で退学者を出していたら、学院空っぽにならないか? それとも、試験が緩いんだろうか?
「試験って何をやるんですの?」
まぁ、気になるよね。
「魔法理論の発表か、実技の披露です」
ふむ。まぁ、発表は難しいだろうから、俺は魔法の実技で終わりって感じだな。
「それと、これは大事なコトですが、この学院には階位というものがあります。冒険者たちが使っているものをセシリアさまが真似して作られたのです」
へー、そうなんだ。
「上級クラス、中級クラス、下級クラス、3つのクラスがあります。あなたたちのMPの値、魔法の才能、魔法試験の結果によって、それは選ばれます」
「その違いはなんですの?」
うんうん、気になるよな。
「上級であれば、優先的に人気の魔法講義を受けられます。更に深い知識を得ることが出来るでしょう」
「それなら、私は上級クラスですわね!」
よくわからないが、凄い自信だな。どこから、この豪華な髪型の少女の自信が生まれているんだろうか。
「講義の内容、日程、参加可能なクラスは講堂広場に張り出されているので、常に目を通すようにしてください」
ふむふむ。
「後日、来られる紫炎の魔女の講義は上級クラス限定になるでしょうね」
ふむ、紫炎の魔女ねぇ。すっごいお婆ちゃんの魔法使いがやってくるのかな? まぁ、その人がタイミング良くさ、弟子を連れてくるってコトで俺は潜入できたんだから、有り難いことだけどな。
「はやく会いたいですわぁ」
隣を見るとゴージャスな少女は手を組み合わせて瞳を輝かせていた。