6-63 大ピンチ発生
―1―
次の少女が前に出て、俺と同じように水晶玉の上に手をかざす。すると水晶玉は虹色に光輝いた。えーっと、俺の時と同じ反応ですね。
その次の少女の時も同じように水晶玉が虹色に光輝く。えーっと、これ、誰でも光るんじゃね?
って、あれ?
あのアルテミシアと名乗った女教師の近くで風魔法の反応があるな。なんだ、なんだ?
「22、水、土」
俺が風魔法の反応をたぐっていると女教師の耳元に字幕が現れた。もしかしてウィンドボイスの魔法か?
次の少女が水晶玉に手をかざす。同じように虹色の光が溢れる。
「32、木」
そして、先程と同じように女教師の耳元に字幕が現れた。なるほど、そういうことか。
つまり、だ。この水晶玉って手をかざすと虹色に光輝くだけの魔法具で、別にこれが何かの情報を読み取っているワケじゃないんだな。
俺は周囲を見回す。居た。最初に設営されていたテントの方だな。何か手で持つタイプのモノクルのような物を付けて、こちらを観察している女性がいる。
なるほど、あっちが本命か。
あのモノクルは《鑑定》スキルが使えるんだろうな。初級か、中級か――まぁ、とにかくアレで、こちらの最大MPの量と属性を調べているのか。
あー、俺が王族と間違えられて呼び出されたのは、鑑定が出来なかったからか。なるほど、そういうことなのか。なるほど、なるほど。無駄に回りくどいことをするなぁ。
普通にさ、あのモノクルで全員を見て調べればいいじゃん。なんで、バレないように調べるんだろうな……。
はぁ、最初に水晶玉が壊れたのって本当に壊れただけなんだな。なんだよ、なんだよ。だから普通に故障と判断して新しいのを持ってきたんだな。あの態度も納得だぜー。
「2番目の方と4番、6番、8番、9番は帰って結構です」
女教師が並んでいる少女に告げる。
「え、それはどういう……」
2番目の少女が問いかける。
「あなたに才能がなかったということです」
凄いばっさり言っちゃうんだな。
「そんな、まだ実技も行っていない、水晶玉に手をかざしただけで……」
「それで充分です」
にべもない。まぁ、最大MPって成長しないって言われているらしいからなぁ。それが少ない子なら、その時点で才能がないってなっちゃうよな。まぁ、そんな、最大MPが少ないどん底から返り咲いた俺みたいなのも居るけどね!
「では、残った方達で実技の試験を行います」
―2―
「何でも良いので現在使える魔法を見せてください」
ふむ。となると簡単な魔法の方がいいのかな? サモンアクアとか、その辺で充分なんだろうか。でも、それで才能無し、帰って下さいって言われるのも嫌だしなぁ。
「今度は逆順でお願いします」
俺が前に出ようとしたトコロで止められた。
豪華な髪型の少女が前に出る。
「あら、私からですの? 後の方がかわいそうだと思いますけれど……」
何だか、凄い自信だ。
「構いません、どうぞ」
「では、何か標的となる物を用意して貰ってもよろしいかしら」
「それは攻撃魔法を使うと言うことですね。分かりました」
女教師の言葉に合わせてグラウンドに丸い頭巾のかぶせられた案山子が置かれる。
「では、行きますわ!」
豪華な髪型の少女が呪文を唱え始める。呪文とか唱えるんだね。火よ、細長くなって貫けー的な呪文だけど、なんというか、イメージし易くするためにあえて口にだしているって感じだな。
豪華な髪型の少女の目の前に紫の針が生まれる。おー、ファイアニードルだな。アイス版なら、俺も使えるぜー。
豪華な髪型の少女が紫の針を飛ばす。針は丸い頭巾を貫き、大きな風穴を開けた。少女がこちらへと振り返る。何故か、俺の方を見ている。凄いどうだ、見たかって感じの顔をしているけどさ、えーっと、それだけなの?
「さすがはゼーレ家のお嬢様というところでしょうか」
女教師も、そんな独り言を呟いていた。えーっと、マジですか? これ、驚くようなレベルなのか?
う、うーむ。
「あ、忘れていました。一番目の、あなた」
うん? 俺?
「あなたは、もう帰って大丈夫ですよ」
うお、ちょっと待て、ちょっと待て。実技の前に落第? いやいや、それなら、さっきの少女の時に一緒に言えよって話だよな。
「ああ、すいません。勘違いさせてしまいましたね。あなたは実技不要です。明日、学院の外にある来客用の別館で面談をします。時刻は13:00頃でお願いしますね。詳しくは、あちらのテントにいる教師に聞いて下さい」
あ、はい。
はー、ほー、へー、俺、実技不要なんだ。
なんだよ、辺境伯がやり過ぎるなよって心配していたのにさ、その実技がないじゃん。
まぁ、合格ってコトでいいのかなぁ。
って、ん?
ちょっと待て、ちょっと待てよ。
明日……だと?
やばい、やばいぞ。明日だと、もう《変身》スキルの効果が切れてるじゃん。どうする、どうする? 超ピンチ、大ピンチ!
ああ、もう、それなら今《変身》するべきじゃなかった。実際、今日の内容って《変身》スキルの必要がなかったしさ。
しまった、しまった。
ホント、どうしよう。