6-59 殲滅戦の開始
―1―
《ライト》のスキルを使ったのか、羽猫――今は羽虎のエミリオがシリアの案内で空を飛んで行く。あんなに近くで光ってるのにさ、シリアは眩しくないのだろうか。
何処までも続く草原地帯を4時間ほど飛び続けると、金色に輝く小麦の穂とまばらに家々が立ち並ぶ、のどかな風景が見えてきた。
そして、その先の草原に飛竜が吐いているであろう紫の炎の光が見えていた。
「ノアルジーお姉様、ルーセ村です」
あそこが戦場か。もう残り時間も少ないから、パパッと参上して、パパッと解決しないとな。
「ああ、見えている。急ぐぞ。それとエミリオ、光は目立つ。ここまででいいと思うぜー」
そうなんだぜー。俺の言葉に羽虎が頷き、《ライト》を消す。
そのまま飛び続け、戦場へと近付く。遠目でも魔獣の大群が見える。1,000近いんじゃないか? 倒し続けて、この数か? それとも戦闘は始まったばかり……な訳ないような。
『伯父上、伯父上はどちらに!』
シリアが戦場へと《念話》を飛ばす。うーむ、《念話》スキルって便利だな。こうしてみると指揮官向きのスキルだよね。
シリアの言葉に応えてか、戦場の一ヶ所に紫の炎が立ち上った。おー、強力な火魔法ぽいな。
「ノアルジーお姉様、伯父上は、あの炎の下にいると思います」
そ、そうか。そういえば辺境伯との模擬戦では魔法を使わなかったな。そういうルールだと思ったが、手加減されていたのか? 魔法使いのクラスがあるし、もしかして、神国って魔法の方がメインって国なのかなぁ。
立ち上がった炎の元には槍を構えた辺境伯がいた。お爺ちゃん、元気だな。
「シリア、何故、こちらに来た!」
辺境伯がこちらに気付き、声を上げる。すげぇ、大きな声だ。こちらは空にいるのにさ、普通に聞こえるぞ。
辺境伯の前には黒く炭化したかのような魔獣の死骸が無数に転がっている。
「伯父上、大丈夫ですか!」
シリアも声を上げる。
「この魔獣たちは異常だ。シリアは城に戻るのだ!」
辺境伯が倒したはずの魔獣のうち、二つが逆再生し、元のオークの姿へと戻っていく。
「何度でも叩き潰してやる!」
それを手に持った槍を振り回し叩き潰す。うーん、再生回数に限度があれば、このまま倒せるかもしれないけどさ、どうなんだろうね。限度回数が100回とか1000回とかならさ、その前に、こちらがバテちゃいそうだしね。
暗闇の中、俺は辺境伯の隣に降り立つ。
「辺境伯、任せろ」
辺境伯が、俺の存在に、今気付いたかのように驚き、こちらを見る。あー、そういえば《隠形》スキルを使っていたわー。
「誰だ……?」
「最強の助っ人さ」
ひゅー、ひゅー、俺、かっこいいんじゃね?
――《エルスリープ》――
風船が膨らむように槍で叩かれ潰れた部分が修復していたオークの上に木の枝が生え、そこから雫が落ちる。それに合わせて2匹のオークが眠りにつく。
――《ナイトメア》――
俺の体から黒い手が伸び、オークたちの何処かにあるであろう魔石を握りつぶす。眠りについたオークが苦悶の表情を浮かべ、そのまま動かなくなった。はい、お終いっと。
「この者は……?」
俺の一連の行動を辺境伯が驚いた顔で見ていた。
「ノアルジーお姉様です。ノアルジーお姉様のお力があれば、このような魔獣、すべて殲滅してくれます!」
シリアが興奮したように腕を振り、辺境伯に説明している。
「この魔獣たちは、魔石を外部に持っている。それを砕かぬ限り復活するようだ。そして、俺は、外部の魔石を砕く――それが可能な手段を持っている」
そう、持っているのだ。
俺は、そのまま周囲を見回す。騎士たちは、全て飛竜から降りて戦っているようだ。こちらは飛竜は飛竜で、人を乗せず単独で戦っているんだな。それだけ賢い飛竜ってコトか?
と、ここも魔獣の種類は同じか。アクアスライム、蜥蜴型の魔獣、大型の犬型の魔獣、そして再生するオーク、か。編成が同じとか――さっきも、こっちも首謀者は同じ人物だろうな。
よし、行くか。
『再生するのはオークたちだけだ。オークは全て任せてくれ。それ以外を頼む』
俺の天啓に騎士たちが動き出す。お、ちゃんと聞いてくれるんだ。
じゃ、俺は俺で頑張りますか。残り時間も少ないからちゃっちゃっと終わらせるよ!
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》を使い、魔獣の位置を確認していく。その中から、赤い右目でオークだけをロックしていく。
――[エルスリープ・ダブル]――
範囲を広げ、ロックしたオークを眠らせていく。一気に行くぜ!
――[エルナイトメア・ダブル]――
俺から無数の黒い手が伸び、眠っているオークたちの何処かにあるであろう魔石を掴む。
そして、そのまま、その魔石を握りつぶす。
眠っていたオークたちが、うめき声を上げ、そのまま動かなくなった。くそ、数が多すぎるな。100くらいは一気に削ったと思うけどさ、まだまだうじゃうじゃ生き残ってやがる。
ま、何度でもやるまでだ。何度でも、数がなくなるまでやってやるぜ!
「その手に持っている槍……もしやランか?」
槍から気付くか。同じ形の槍を持っていたとしてもさ、芋虫姿と今の俺の姿を結びつけて考えるって普通出来ないよ。辺境伯、やるな!
「ああ、この姿の時はノアルジで頼む」
「それが秘策だったのだな」
うむ。って、学校に行くための話よりも今は、この魔獣の大群を倒す方が先だな。
「わかった、ノアルジーよ。まだ名前付きは残っておる。自分も行くぞ」
ホント、元気なお爺ちゃんだぜ。
「私も行きます!」
あ、シリアは、適当に頑張って下さい。
「にゃ!」
エミリオは適当にブレスでも吐いていればいいと思うよ。