6-58 よくってよー
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ディザスターオークを倒した俺のもとへ武装した豪華な飛竜が飛んでくる。シリアの飛竜か、城に戻らずに残っていたのか。シリアの我が儘に付き合わされる運転手の竜騎士さんはかわいそうだなー。
まだ魔獣が全滅したわけじゃないから危ないんだぜー。まぁ、後は復活しない魔獣ばかりだから、楽勝だと思うけどね。
こちらへと近寄ってきた豪華な飛竜の籠からシリアが飛び降りる。
「お姉様!」
へ?
えーっと、お、お、お、何だって?
「お姉様ご無事ですか!」
えーっと、誰? 誰のコト? 周囲を見回すが、俺以外に誰も居ないな。
鎧に着られているシリアが俺の手を取る。
「お姉様の戦い、見ておりました」
ま、ま、ま、まさか、お姉様って俺のコトか。
「す、すま、ない。シリア、この姿の時はノアルジと呼んでくれないか?」
「はい、ノアルジーお姉様!」
何だろう、腰が引けるんですが。逃げ出したいんですが、手をぎゅっと掴まれて逃げられないんですが。
「シリア、ノアルジで良い」
「はい、ノアルジーお姉様」
今までの蔑んだ表情と180度違うんですけど、怖いんですけど。
「し、シリア、手を放してくれない、か?」
俺の言葉にシリアが慌てて手を放す。
「申し訳ありません。ノアルジーお姉様、シリアの、私の今までの非礼をお許し下さい」
いや、あの、気持ち……悪いです。
「いや、国を思ってのこと、シリアの対応は間違っていないだろう」
俺は顔を引きつらせながらも、なんとか、そう答えることが出来た。
「ありがとうございます!」
シリアの笑顔が眩しいよ、怖いよ、おかしいよ。
「すいません。今は、私のことを話している場合ではありませんでした」
そ、そー、そーだよ。
「一度、城に戻りましょう!」
「残った魔獣はどうする?」
そうそう、まだ全滅させたワケじゃ無いからね。
「お任せを。私たちの騎士は優秀ですから!」
たち、たちって言いました? それって第一王女と辺境伯とシリアのことだよね。俺は含まれて……無いよな?
『危険な魔獣はノアルジーお姉様が退治してくれた。後は殲滅するのみ、我らの勝利だ! 騎士よ、戦え!』
シリアが周囲へと《念話》を飛ばす。えーっと、あの、俺を絡めるの、止めて貰えませんかねー。
『飛竜を!』
シリアの《念話》を受け、武装した飛竜が旋回し、こちらへと降り立つ。
「さあ、ノアルジーお姉様、こちらです」
シリアが俺の手を掴み、強引に籠へ乗せる。そして、シリア自身も乗り込んでくる。いや、あの、この籠、一人用だからか、凄い狭いんですけど。俺、自分で飛べるんで、飛んで城に戻るんですけど。鎧が体に当たって痛いんだって。
「にゃ?」
ディザスターオーク戦の中、何処に逃げていたのか羽猫が飛んできて、飛竜の籠の端に掴まる。お、おい、エミリオ、この状況を何とかしてくれ。助けてー。
窮屈な飛竜のフライトで優雅に中庭へと降り立つ。怖いよー。
「まずは大伯母さまに報告を。ことは一刻を争います」
シリアが俺の手を掴み強引に引っ張っていく。その隣を羽猫がのんきにパタパタと飛んでいた。
「マスター、お帰りなさいませ。王女は無傷です」
第一王女の隣には14型が居た。なるほど、第一王女の護衛をしてくれていたのか。
「あら、あら、シリア、その子は、どなた?」
「ノアルジーお姉様です。あの! ノアルジーお姉様です!」
……。
「ランだ。この姿の時はノアルジで頼む」
一応、第一王女には言っておくか。
「あら、あら」
第一王女がこちらを見て、楽しそうに笑っている。
「なるほど、そういうことなんですね。これならセシリーの件、大丈夫そうですね。でも、それでしたら、貴族の令嬢らしい振る舞いを……」
「大伯母さま、それどころではありません!」
何かを言い出そうとした第一王女をシリアが止める。
「魔獣の群れの中に何度も再生する魔獣が居ました。こちらにはノアルジーお姉様が居たので事なきを得ましたが、伯父上が危険です」
危険が危ない。
まぁ、確かに倒す手段を持っていない場合は大変なことになっているだろうな。まだ《変身》の効果時間に余裕はあるな。となれば……。
「辺境伯の向かったルーセ村の場所を教えて欲しい」
向かうしかないよな! 飛竜で1日もかからないんだろ? 俺なら《飛翔》スキルでサクッと行ってくることが出来るんだぜ。特に今なら、今の状態の俺なら、《二重》スキルの効果を合成して強化出来るみたいだしさ。サクサクッと行って片付けてくるぜ。
「それなら私がお供します!」
シリア、シリアか……。シリアかぁ。ちょっと、この子、今の状態、怖いんだよなぁ。「私の飛竜なら!」
あー、うん。でも飛竜だと、ちょっと遅すぎるかなぁ。俺の《変身》の効果時間が切れちゃいそうなんだよな。
「にゃ!」
俺の隣でパタパタと羽ばたいていた羽猫が任せろとばかりに胸を叩いていた。えー、大丈夫なの?
「エミリオ、俺の速度についてこれるか?」
「にゃ!」
羽猫が『負けないぜ』って感じの顔でこちらを見ていた。そっかー。
「14型、ここは任せた。まだ魔獣は残っている、油断せぬように」
「お任せを」
14型がスカートの裾を掴み優雅にお辞儀する。14型さん、結構、ポンコツだからなー、不安だなー。でも、任せるしかないよなー。
「シリア、来い」
「はい、ノアルジーお姉様!」
ホント、そのお姉様っての止めて欲しいんだけど。
シリア、羽猫と共に城の上部に作られた中庭に戻る。
「では、私の飛竜で」
飛竜を呼ぼうとしたシリアを手で止める。
「エミリオ」
俺がエミリオに声をかけると、エミリオが光輝き、そのサイズを大きく変えていく。
「こ、これは……」
大きくなったエミリオがシリアに近寄り、頭をこすりつける。はよ、乗れ、ってコトだな。
「俺は、自分で飛ぶ。シリアはエミリオに乗せて貰いなさい」
そうしなさーい。
では、道案内頼むぜー。