6-57 名前が付く時
―1―
飛んできた真紅妃を掴み、握りしめ、《飛翔》スキルで飛び、魔獣の集団の位置関係を把握する。
――《スピアバースト》――
光る三角錐となって魔獣の集団へと突っ込み魔獣を吹き飛ばす。蜥蜴のような魔獣が、オークが、犬のような魔獣が吹き飛んでいく。
真打ち登場なんだぜ!
――[エルヒールレイン]――
負傷した騎士たちに癒やしの雨を降らせる。
暗闇の中、飛竜の吐き出す紫の炎が魔獣を照らし出す。そして、それを反射するように俺の背中から伸びた光の翼が躍動していた。
犬型の魔獣がこちらへと飛びかかってくる。
――《スパイラルチャージ》――
真紅妃が唸りを上げ螺旋を描く。それに巻き込まれた犬型の魔獣が引き千切られ消し飛ぶ。
「あ、あなたは……」
騎士の一人が尻餅をついたまま、こちらを指差している。そこへ、棍棒を持ったオークが飛びかかる。
――[エルウッドランス]――
生まれた木の槍がオークを貫き、その体を串刺しにしたまま伸びていく。
「ここは任せろ。城まで下がるんだ」
騎士が頷き、立ち上がり、駆けていく。
他の場所では、飛竜のブレスを逃れたアクアスライムが騎士の槍を溶かし、その足に絡みつこうとしていた。
――[エルファイアランス・ダブル]――
上位魔法に《二重》スキルの効果がプラスされ無数の炎の槍が生まれる。炎の槍が次々と飛び、アクアスライムの外皮を蒸発させ、その更に先のコアを貫く。
次の場所では無数の蜥蜴が三人の騎士を取り囲んでいた。三人が背中合わせで槍を振り払い、蜥蜴を寄せ付けないようにしているが、その数に押されているようだった。
蜥蜴が騎士の一人へと飛びかかる。
「真紅妃、頼む」
俺は真紅妃を投げ飛ばす。真紅妃が騎士へと飛びかかろうとしていた蜥蜴を貫く。
そのまま駆け、スターダストを振り払い、剣の形態から槍の形態へと変化させる。
――《百花繚乱》――
スターダストから高速の突きが放たれる。そのまま《飛翔》スキルを使い、連続の突きを放ちながら旋回する。無数の蜥蜴を貫き、吹き飛ばし、騎士たちの前に降りる。
「ここは任せて下がれ」
俺の言葉に騎士たちが頷き、駆けていく。
――《剣の瞳》――
真紅妃を回収し、《剣の瞳》を周囲に飛ばして魔獣と騎士の位置関係を把握する。
そして、右の赤い瞳で騎士たちをロックしていく。
――[エルキュアライト・ダブル]――
ロックした騎士たちの上に拡大された癒やしの光が降り注ぐ。これで負傷した人は大丈夫かな。
『飛竜を操っている竜騎士に告げる。地上の騎士を回収し、下がらせてくれ』
俺の天啓を受け、戦っていた飛竜が動く。
さっき倒したスライムはコアがあったし、犬の魔獣や蜥蜴の魔獣も魔石があるようだ。となると、復活するのは――魔石が体内に無いのはオークたちか。
右の赤い瞳でオークの線を調べ、ロックしていく。数が多いな。100、200か? それでも、頑張るぜ!
――[エルスリープ・ダブル]――
範囲を広げ、ロックしたオークを眠らせていく。一気に行くぜ!
――[エルナイトメア・ダブル]――
俺から無数の黒い手が伸び、眠っているオークたちの何処かにあるであろう魔石を掴む。
そして、そのまま、その魔石を握りつぶす。
眠っていたオークたちが、うめき声を上げ、そのまま動かなくなった。後は、普通の魔獣退治か。って、うん?
死んでいないオークが一人、居るぞ。
生き延びたオークが周囲の魔獣を襲い、魔石を取り出し、喰らい始めた。共食い? いや、種族が違うから共食いでは無いか。でも、仲間同士じゃないのか?
オークが魔石を喰らう度にサイズが大きくなっていく。お、おい進化しているのか?
やばい、ヤバいぞ、何かヤバい感じがするぞ。
すぐに叩くべきだ。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、オークの元へ飛ぶ。しかし、その俺を邪魔するかのように生き延びた魔獣たちが集まり壁を作る。犬の魔獣やらアクアスライムやらを真紅妃とスターダストで貫き、蹴散らし、サイドアームでコアを引き抜き、飛ぶ。
魔獣の集団を抜け、俺がオークの前に立った時には、オークの姿が別のモノになっていた。赤い右目がオークの情報を読み取る。
【名前:暴災の蝗帝】
【種族:ディザスターオーク(オークキング亜種)】
1匹のオークが名前付きへと進化した。初めて見たが、こんな感じで名前付きは生まれるのか?
ディザスターオークが犬型の魔獣の毛皮を剥ぎ、結び、服のように体に巻き付ける。そして蜥蜴型の魔獣の尻尾を持ち、地面に叩き付け、鞭のようにしならせていた。おいおい、武器のつもりかよ。無茶苦茶するヤツだな。
ディザスターオークが蜥蜴型の魔獣を恐ろしいスピードで振り回し、こちらへと襲いかかって来る。ひゅー、当たったら、今の俺ならミンチ確定だな。
が!
相手が悪かったな!
――[エルアイスウォール]――
――[エルアイスウォール]――
――[エルアイスウォール]――
巨大な分厚い氷の壁がディザスターオークの周囲を取り囲む。ディザスターオークは突然、現れた氷の壁に拳を叩き付け、頭突きを繰り返し、その中から脱出しようとしているようだ。させるかよッ!
――[エルアイスストーム]――
氷の壁の中に氷と風の嵐が巻き起こる。氷の礫に体を打ち砕かれ、砕け、吹き飛んでいく。
氷の壁が砕け散り、氷の嵐が止んだ後にはひき肉と化したディザスターオークが居た。俺の最強の攻撃魔法だからな、当然だぜ。
しかし、ひき肉が逆再生するかのように元の姿へと戻っていく。あ、ああ! そうだった、そうだったよ。
って、これ、どうするんだよ。スリープは無効化されたみたいだし、今から魔石を探すなんて無理じゃん。何処にあるのかも分からないのにさ。
うん? 待てよ?
再生したディザスターオークが醜悪な笑みを浮かべ、こちらへと殴りかかってくる。視界の左上に赤い点が灯る。空気が震え、周囲を吹き飛ばすかのような一撃だ。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルの勢いを借り、真紅妃とスターダストを交差させ、その拳を受け止め、そのまま弾き返す。
「俺の知り合いにハイオークが居るんだけどさ、そいつの一撃に比べたら軽すぎるぜ!」
キングの名が泣くぜ。
ディザスターオークが驚き、こちらを見ている。俺はディザスターオークを指差す。終わりだ。
――[エルアイスコフィン]――
ディザスターオークを囲むように透き通った氷の壁が生まれる。そしてそれはどんどん小さくなっていき、ディザスターオークを閉じ込めていく。ディザスターオークが氷の壁を叩き必死に壊そうとするが、壁はどんどん小さく、狭くなっていく。
そして、氷の棺が閉じる。
氷の棺が小さく、小さく閉じた後には何も残らなかった。
完全、消滅!
ま、再生する元が無くなれば、魔石が残っていようが終わりだな。