6-56 敵を蹴散らす
―1―
「飛竜を頼む」
鎧を着た女の子ことシリアが騎士の一人に命令をしている。この子、若いのに命令しなれているなぁ。この子も王族だからか?
城の上層にある中庭には大型の飛竜が並んでいる。3匹か。飛竜の頭の部分に竜騎士? が乗り、手綱を握っている。そして背の部分に大きな籠が付けられており、そこへ騎士が乗り込んでいく。シリアが乗り込む飛竜は一人乗りみたいだな。何だろう、指揮飛竜って感じなんだろうか。飛竜のくせに鎧兜を着けて豪華な感じだもんな。
『自分はどうすればいい?』
シリアに天啓を飛ばす。そうだよ。俺は、どうすればいいの?
「お前は城の防備でもしているがいい。大伯母さまの手前、協力を許可したが、これは私たちの問題だ。よそ者が出てくる場面ではない」
シリアは、ふんっとでも言いたげに顔を背ける。えーっと、こう言っちゃあなんだがね、俺、すっごい強いんだぜー。役に立つんだぜー。ホントにいいの? いいの?
「それに、だ。領民がお前の姿を見て要らぬ混乱を起こすとも限らない。お前の姿を敵の魔獣と間違える者がいるとも限らない」
ふ、ふーん。少しは考えているんだ。
騎士数人を乗せた2匹の大型飛竜と、シリアだけを乗せた豪華な装いの飛竜が飛び立っていく。
うーん。
ま、まぁ、このまま手をこまねいて、この城が陥落したら、セシリア姫を助けるどころじゃなくなるしさ、俺は俺で頑張りますか。
『14型』
「ここに」
俺が天啓を飛ばすと、しゅたっと14型が現れた。もうね、この子、忍者みたいだよね。戦闘メイドじゃないよ、忍者メイドだよ!
『14型は領民の動きを把握し、騒ぎが起こっているようなら、その混乱を沈めろ。そして手が空くようなら騎士の手助けを。城壁内は広いが可能か?』
「城壁内は騎士の家族や貴族が中心とのことです。難しくないです」
あ、そうなんだ。
『任せた』
俺の天啓を受け、14型の姿が消える。ホント、大丈夫かなぁ。
『エミリオは自分と来い』
「にゃ!」
羽猫が片手を上げて、そのまま俺の頭の上に乗っかる。だから、俺の頭はお前の指定席じゃないっての。
さて、まずは空を飛びながら《剣の瞳》スキルを使うか。赤い反応があれば、城壁内に侵入してきた魔獣ってコトだからね。その後、余裕があるようならシリアたちの様子を見に行くか。飛竜の数も騎士の数も少ないからな。今回、どれくらいの数の魔獣が攻めてきているかも分かんないしさ。強力な魔獣が居たら大変だもんな。
―2―
銀のローブを深くかぶり《飛翔》スキルで城壁内を飛ぶ。まぁ、これなら、夜中だしさ、魔獣と間違えられることもないだろう。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》を使い、魔獣の有無を確認していく。うーん、まだ、潜入している魔獣とかは居ないか。こう、こっそり潜入している魔獣を俺が発見してさ、格好良く倒して、あのくっそ小生意気なシリアに勝ち誇って見たかったんだけどなぁ。
騎士や貴族の家族だからか、混乱も少ないみたいだしさ。普通に城内への避難誘導が上手く機能している。これなら早い段階で籠城も出来そうだ。
そろそろ城壁の外のシリアたちの様子を見に行きますか。
《飛翔》と《浮遊》を使い分け、城壁の外へと飛んでいく。
そこでは激しい戦いが繰り広げられていた。
大型の飛竜から降りた騎士たちが槍を持ち、水のブレスを吐く大型の犬や豚頭のオークたちと戦いを繰り広げている。
騎士を降ろした飛竜が空を飛び、騎士では戦うのが難しそうなスライムのような魔獣に火のブレスを吐きかけている。
シリアを乗せた豪華な飛竜は空中で制止し、各所へ指示を飛ばしていた。何だろう、《念話》か? 確かに《念話》で指示を飛ばせば、分かりやすいもんな。
あー、コレ、勝ったかなぁ。確かに魔獣の数は多いけどさ、こっちの方が強いもん。そのうち魔獣の数が減って終わりだな。
なんだよ、俺の出番、なかったじゃん。
シリアの元まで《飛翔》スキルで飛び《浮遊》で浮かぶ。
『勝てそうだな』
「な!」
シリアが驚いたようにこちらへと振り返る。
「何だ、お前か」
「にゃ!」
フードの上に乗っかった羽猫が返事をする。
「帝国からの侵略を防ぐために配備された精鋭だ。魔獣などに遅れを取るものか」
ふーん。
まぁ、なんというか、若いのに、すっごい若いのに、しっかり指揮してさ、凄いんじゃないかなー。まぁ、これなら大丈夫か。
俺はシリアの隣で戦況を見守っていた。後は殲滅するだけだねー。
しかし、急にシリアの表情が苦いものへと変わっていく。
「おかしい!」
『どうしたのだ?』
「魔獣、気付かないのか!」
うん? どういうこと?
「魔獣の数が一向に減らない。倒しているのに、減らない……」
え? そ、そういえば、結構、倒しているはずだよな? こっちの方が強いから、後は殲滅するだけだーって状況のはずなのに、それが続くっておかしいよな?
《暗視》スキルと《遠視》スキルを使い、目をこらして戦況を見る。よく見れば、倒したはずの魔獣が、逆再生でも見るかのように、元の状態に戻って、また戦線に復帰していた。
コレは……。俺は見たことがあるぞ。
迷宮都市を攻めていたゴブリンキングの集団と同じだ。
「何故だ、何故……」
戦い続けた騎士たちも疲労がピークに達したのか、槍を振るう速度が落ち、魔獣からの反撃を受け始める者が出始めていた。
崩れ始めてからは早かった。
「そ、そんな……」
シリアはどうしたら良いのかわからなくなったのか、年相応の顔に戻り、震えている。
「と、とつげ……」
『待て!』
自殺行為とも思える突撃命令を出そうとしたシリアを止める。
『迷宮都市で見たことがある。別の場所に魔石を保管した無限に再生する魔族の実験体だ』
「それが、それが、なんだ!」
『任せてくれ』
「お前に、お前に何が出来る!」
こういう時は素直に任せるんだぜー。
真打ち登場だな。戦線が崩れたとはいえ、まだ死人は出ていない。うん、急ぐべきだ。俺の目の前で死人は出したくないもんな。城内では俺を、俺の姿を受け入れてくれた騎士たちだしさ。
『任せろ!』
――《変身》――
羽猫が俺の頭から飛び退き、空中に浮かんだ俺の体を無数の糸が包んでいく。
そして孵る。
繭から手を伸ばし、引き裂き、体をだす。と、こんな衆人環視の中で全裸は恥ずかしいな。
――《換装》――
《換装》スキルを使い、装備を整えていく。てぶくろを、赤竜の鱗衣を、フェザーブーツを……。
「真紅妃!」
俺の言葉を受けてか、城の方から真紅妃が恐ろしい勢いで飛んでくる。
「そ、そ、その姿……」
シリアがこちらを見て驚いた表情のまま固まっている。
「後は任せろ」
俺は背から光の翼を伸ばし《飛翔》スキルで魔獣の集団へと飛ぶ。
2016年6月25日修正
大叔母 → 大伯母