6-55 よくないお話
―1―
辺境伯と主な騎士たちが飛竜に乗って飛び立っていく。結構、大部隊で行動するんだな。それだけ名前付きを警戒しているってコトか。
俺は練習場に戻り剣の練習に戻った。浮いているスターダストがフラフラ動くぜー。それを羽猫が楽しそうに眺めている。14型は、第一王女に侍女としての務めを習得させると言われ、彼女の侍女に付き従ってお勉強中だ。これで、少しはマシなメイドになってくれるといいなぁ。
俺が練習場でスターダストを振り回していると鎧を着た女の子もやって来た。そして無言で剣を取り、素振りを始める。へ、へぇ。
「何を見ている!」
俺が見ていたコトに気付いたのか剣を止め、こちらを睨んでくる。だから、なんで、そうも喧嘩腰なんだよ。
『いや、意外だなと思ってな』
「何が言いたい」
ホント、喧嘩腰だな。もうちょっと余裕を持てばいいのにさ。
『君の性格なら辺境伯を追って飛び出すと思っていたのでな』
俺の言葉に鎧を着た女の子は剣を地面に突き刺した。おー、凄い威力だ。
「魔獣が馬鹿にするな!」
おいおい、14型が居なくて良かったな。14型が居たら大変なコトになってるぜ。
「伯父上に待機を命じられたのだ、不服でも、それを守る。全力で、この城を守る!」
何というか、根は悪い子じゃないのかなぁ。
『ルーセ村は近いのか?』
俺が天啓を飛ばすと鎧を着た女の子は剣の手を止め、嫌そうな顔でこちらを睨んだ。
「飛竜なら1日もかからないだろう」
あ、でも答えてくれるんだ。
その日の食事は俺と14型、第一王女と鎧を着た女の子で取ることになった。第一王女の娘はもう就寝だ。しかし、こっちはホント、立って食べるのが主流なんだな。まぁ、椅子に座るのが難しい俺としては有り難いけどさ。
14型が、テーブルの上から小麦パンを取り、ちぎってくれる。
「マスター、どうぞ」
いや、だからね、俺は赤ん坊じゃないんだから、自分で出来るんだからね。ニコニコと笑っている第一王女と睨むような鎧を着た女の子の視線が怖いです。
にしてもさ、食事が凄い質素だよなぁ、今日もパンと果実酒だけだぜ。こんなのじゃあ、栄養が取れないよ! などと、考えていると追加の料理が運ばれてきた。魚の干物を焼いたモノか。そういえば、うちの商会でも扱っていたな。
「あら、これは?」
第一王女が首を傾げて料理を運んできた侍女に聞いていた。
「ノアルジー商会からです」
俺は思わず食べ物を吐き出しそうになった。うちんとこじゃん!
「あら、確か、小麦をやり取りしている商会さんね。こんな橋が架かってない時期にも来てくれるなんて」
「迷宮都市では、かなり大手の商会と聞いています」
何故か鎧を着た女の子も乗っかった。確かに、確かにそうだけども。
「はい、この辺境伯領と優先的に取引したいとのことです」
侍女がそういうことを言うのか。侍女というか秘書って感じだなぁ。仕事量が大変そうだ。にしても、ここと優先的にやり取りしたいって、まだ俺がこっちに来ていることなんて迷宮都市の商会には伝わってないだろうし、たまたま、だよな? いくらユエが有能でも日数的にたまたまだよな?
第一王女が焼いた魚の干物をナイフで切り分け口に入れる。
「あら、これは優先的に取り引きしたくなるわね」
「大伯母さま、私も賛成です。ノアルジー商会のオーナーは天竜族とうり二つの姿をしているという噂を聞いたことがあります。もしかすると出奔した王族の誰かが……是非、会ってみたいです」
鎧を着た女の子が夢見るような表情でそんなことを言っている。えーっと、何でしょう。
『会いたいのか?』
俺が天啓を飛ばすと鎧を着た女の子は一気に不機嫌そうな顔になって、こちらを見た。
「窮屈な王宮を出て、自身の力のみで大商会のオーナーになってるのだ、憧れて悪いか」
いや、あの、えーっと、うん。俺、王宮住まいだったこと無いです。コレは夢を壊さないように俺がオーナーです、って言わない方がいいのかなぁ。
―2―
微妙に和やかな食事が終わろうとした時だった。騎士の一人が部屋に駆け込んできた。
「お食事中、申し訳ありません」
騎士の態度をとがめようと口を開きかけた鎧を着た女の子を、第一王女が手で制止し、口を開く。
「かまいません。どうしたのです?」
「は、はい! 夜陰に紛れて魔獣の集団がこの城へと進行中。まもなく城壁に到達されます!」
「何故、気付かなかったのだ!」
鎧を着た女の子がテーブルに拳を叩き付けていた。
「シリア、今はそんなことを言っている時ではありません。つまり、ルーセ村の魔獣は陽動だったのですね」
「ですが、魔獣にそのような知恵が!」
第一王女は首を横に振る。
「裏で操っている者がいるのでしょう。それは辺境伯と、この私が邪魔な何者かでしょうね」
魔獣を操る、か。魔獣を操るっていうと魔族ってイメージだけどさ。魔族が何で辺境伯や第一王女を狙うんだって話になるから、別口かなぁ。
「打って出ましょう!」
鎧を着た女の子が第一王女に進言する。
「そうね、本当は辺境伯が戻るまで守り続けたいところですけど、城壁に迫っている状況ではそれも難しいでしょうね」
難しいの? 準備が間に合わないとか、そういう感じなのかな。
「私が出ます!」
鎧を着た女の子が決意を秘めた目で第一王女を見る。
「え、ええ。わかりました。ですが、余り無茶はしないでください。あなたに何かあれば妹に……」
「あれを親だと思ったことはありません。私の親は伯父上だけです!」
「そうね、そうね。無茶だけはしないでくださいね」
えーっと、アレだ。こんな経験値が、戦闘経験が無さそうな女の子に任せるのか? さすがに無茶じゃないか?
『良いのか?』
俺が天啓を飛ばすと、鎧を着た女の子がこちらを睨んできた。いや、別に君の能力不足を指摘しているワケじゃないよ。ちょっと不安なだけだよ。
「仕方ないのです。現状、城に残っている者で指揮権を持っているのは私かシリア、そして私の小さな娘のアニエスだけですもの。相手の狙いが私と思われる以上、シリアに頼むしかないのです」
指揮系統とか、そういう問題なのか。神国ってさ、結構上下の関係が厳しい国なのかな。となると、しゃあない。
『自分も手助けしよう』
俺の天啓を受けて第一王女は大喜びだ、それに対して鎧を着た女の子は渋い顔である。
「まぁ、頼もしいです」
「足手まといにはなるなよ!」
はいはい。この子は、ホント、なんだろうね。
2016年6月23日追加
『こんな橋が架かってない時期にも来てくれるなんて』の一文を追加
2016年6月25日修正
叔父上 → 伯父上
大叔母 → 大伯母