6-54 よくあるお話
―1―
『いや、どうやって、この姿で潜入するのだ?』
素直に聞いてみる。いや、だって、どう考えても無理でしょ。
「ラン、セシリーがお前を頼ったと言うことは、何かお前ならば出来る方法があるのではないか?」
方法……だと。えーっと何か思いつくことは、思いつくのは……あった。あったよ、あったけど、あったけどさ。いやいや、無理が無いか。
「その顔、思いつくことがあったのですね」
第一王女の言葉。
「大伯母さま、この者の顔の変化なんて区別がつきません」
「あら? わかるじゃない」
えーっと、どう考えても《変身》スキルを使えってコトだよな。いやいや、姫さまは確かに俺の《変身》スキルのことを知っているけどさ、でも、アレ、制限が凄いんだぜ。さすがの姫さまも《変身》スキルの制限のことは知らないだろうし……マジか。あー、でも今は《分身》スキルが使えるから、上手く併用すれば日中くらいは何とかなるか? いやいや、でも、見つかった時のリスクが大きすぎないか。
『一応、あるにはある』
俺の天啓に辺境伯と第一王女が手を叩き大喜びだ。面白く無さそうにしている女騎士とは対照的だな。
『その学校に入学するための条件はなんだろうか?』
そうそう、それ次第では無理かもしれないからな。
「魔法の才能溢れる少女であることですわね」
『少女限定なのか?』
「ええ、魔法使いのクラスは女性専用クラスですから。それに教えるならば、若いうちでないと才能を伸ばせませんもの」
な、なるほど。そういえば迷宮都市でも何故か魔法使いはお姉さんばかりだったな。女性専用クラスとかもあるのかー。
『教師枠は?』
「そちらも魔法を教える必要があるのですもの、女性専用ですわ」
「いや、一応、臨時の講師ならば男でも入り込めるのだがな。しかし、年に数回しか入り込めぬ」
なるほど。となると、生徒として入り込むのが一番か。
『いつでも生徒として入学できるのか?』
俺の天啓に2人は首を横に振る。あ、ダメなのか。
「だが、今は時が良い」
「ええ、紫炎の魔女が弟子を連れて戻ってくるという話ですの」
それと何の関係が?
「それに合わせて生徒枠が拡張されるらしいのだ」
あ、そうなんだ。となれば、それに合わせて生徒として入り込めば……。
「うちのシリアもちょうど良い年齢なんだがな、なにぶんにも魔法の才能が無くてな」
「伯父上! 私は魔法の才能が無いのではありません! ただ、騎士になりたい、騎士学校の方に進みたいのです!」
ふむ。このシリアって女騎士はやはり若かったのか。何だろう、反抗期中って感じだもんな。というか、まだ騎士じゃなかったのかよ。じゃあ、今は鎧を着た女の子だな。
「して、ラン、どういう手段を取るのだ?」
『生徒の枠を確保して欲しい。方法については後日、教えよう』
今すぐ《変身》は使えないからね。
「ああ、それは頼もしいな。入学は二月先になる。それまで剣の方は手ほどきしよう」
辺境伯がニヤリと笑う。
『二ヶ月も先なのか? 姫は大丈夫なのか?』
そうそう、時間が無いんじゃないの?
「あら、私も姫ですわ」
第一王女がおほほほと笑う。いや、そうじゃなくてだな。まぁ、あなたは大丈夫では無さそうだけどさ。
「そこを何とかするのが私たちですわ」
と、急に真剣な顔になって、そんなことを言った。
「引き延ばしなら得意だからな!」
「ええ、そうやって国王の座から逃げたと聞いてますから」
第一王女の言葉に辺境伯は苦い顔をしていた。
―2―
「ランよ、何故、スキルに頼らぬ剣技を教えるかわかるかな?」
辺境伯の問い。いや、分からんよ。
「まずは試しに何か剣技のスキルが使えるなら使ってみるといい」
ふむ。剣技のスキルなんて《ゲイルスラスト》と《フェイトブレイカー》しか持ってないからな。さすがに《フェイトブレイカー》を使うのは不味いか。
『では、行くぞ』
スターダストを構える。
――《ゲイルスラスト》――
構えたスターダストから高速の突きが放たれる。
それを辺境伯が手に持った剣で簡単に弾き飛ばした。ほう、さすがは……やるな。
「わかったか?」
へ? どういうこと?
「スキルは、な。スキルで返すことが出来る。今のは《パリィ》を使ったが、その他にも反撃を受けるスキルもあるのだよ」
へ? いや、でもさ、通常の攻撃でも返す技があるんだから、同じじゃないの?
「スキルは決まった動きしか出来ぬ、さらに発動すれば途中で止めるのが困難だ。要は自由がないのだな。それならば、スキルと同じようになるまで自身の手で技を習得した方が便利だろう?」
その理屈はおかしい。いや、まぁ、うーん。誰でも熟練の技が簡単に使えるようにしたのが《スキル》だとすれば、まぁ、確かにそうなのかもしれないけどさ。やっぱり簡単に使えるのは大きなメリットだと思うけどなぁ。
それからの数日は辺境伯、それと城に在籍している騎士たちと共に剣の練習を続けた。俺の姿が城の騎士たちに受け入れられたのは少し意外だった。これも辺境伯の人徳なのだろうか。まぁ、鎧を着た女の子は、すっごい俺に絡んでくるんだけどな。すぐに「その姿で剣が持てるのか」とか「動きの悪そうな姿で」とか、どれも、それが思い違いだと教えてあげたけどね。
そんなある日の出来事だった。
「領内に大量の魔獣が発生したようです。中心には名前付きの姿も見えるとのことです」
騎士の一人が練習場に駆け込んできた。辺境伯が剣を止め、腕を組み考え込む。
「この時期に、か」
時期的におかしいのか?
「ウドゥン帝国が何かやったのかもしれません」
「ああ、あの国ならやりかねん」
騎士たちが口々に話し始める。帝国のイメージって悪いんだなぁ。
「まぁ、良い。蹴散らすのみだ」
辺境伯が手を挙げる。それにあわせて騎士たちも手を挙げ声を上げる。ここは脳筋の国だ。
「伯父上、私に任せて下さい!」
鎧を着た女の子がそんなことを言った。
「いや、お前は城で待機だ」
辺境伯の言葉に鎧を着た女の子はショックを受けた顔をし、そして何故か、こちらを睨んできた。えーっと、俺、関係無いよね。
「場所は?」
辺境伯が控えていた騎士に問いかける。
「はっ! ルーセ村近くの森になります」
騎士の言葉に辺境伯が頷く。
「すぐに準備せよ。飛竜に乗って出るぞ!」
騎士たちはすぐに出発するようだ。そんなに遠くないのかな? まぁ、俺には関係ないか。俺は一人黙々と剣の練習をしていよう。
2016年6月25日修正
大叔母 → 大伯母
叔父上 → 伯父上