ろくだいめのおはなし
「ほんと、君たちは無駄なことが好きだよね」
少女は――少女の姿をした化け物は語る。
「多くの犠牲の上に、友の、同胞の、家族たちの屍を超えて、辿り着いた。その思いの力を見せてやる」
少女は笑う。
「大変だね、同情するよ」
「お前が作った人形は壊した、後はお前だけだ」
少女は楽しそうに笑う。
「うんうん、猫や犬や植物、その他多くから作ったんだけど、不思議と心って宿らないんだよね。命令を聞くだけの人形にしかならないの。そう考えると人って凄いよね」
「お前のご託なんて聞きたくない」
ただ、ただ少女は笑う。
「10億対1なんだから、手加減して欲しいよ。それくらい差があるんだから、沢山人形を作ってもいいじゃないか」
「人が死んだんだぞ! お前の、お前が行ったことで、どれだけの人が死に、今も苦しんで!」
少女は、それこそ辛そうに笑う。
「本当に大変だよね。でも、多すぎたんだからちょうど良かったんじゃないかな?」
「話にならない」
男が吠える。獣の咆哮を、うねり叫ぶ。
「無駄だと思うけどね」
男が走り、その手に備わった大きなかぎ爪を振るう。大きな牙で噛みつく。
「人の姿を捨てて、まるで化け物だね」
「黙れ。数々の動物の利点、力を、人の知識でまとめ上げる。お前とは覚悟が違う」
振るわれた攻撃をすいすいと躱し、少女が蔑むように笑う。
「まるでキメラだ。本当に君たちは力の使い方が分かっていない」
巨大な鳥の翼で空を飛び、鋭い爪を持ち、力強い脚で地を駆ける。
「何故、人が、長い歴史の中、人の姿になったと思うんだい? それが一番優れた姿だからなんだよ」
「神の物語でも語るつもりか!」
少女はお腹を押さえて楽しそうに笑う。
「そうだね、神になったんだよ」
少女が手を振るうと男の翼が曲がり、空から落ちる。
「何をした!」
「力を、[魔法]を使ったんだよ」
少女は目を細め、何かを見極めるように笑う。
「君たちは面白いよね。変な名前を付けるのが大好きだよね」
翼を折られ地に伏せた男が口を開く。
「自分の、自分たち人の文化を忘れないためだ」
「単語だけ残しても意味が無いだろうにね。君は自分の名前が意味する物がどんな形でどういう用途で使う物か知っているのかい?」
「人としての生き方を捨てたお前には関係がないことだ!」
少女は男の言葉に不快そうな表情を浮かべるが、すぐに何かを閃いたように笑う。
「これ、なーんだ?」
少女の手の中に赤ん坊が生まれる。
「ま、まさか」
少女が赤ん坊を抱きかかえ、あやす。
「不用心だよね。戦える人たちが全員でこっちに来たら、守りがなくなっちゃうよね」
少女が赤ん坊の小さな手を取り、可愛らしく動かす。
「殺したのか! お前は殺したのか!」
少女は不機嫌そうに笑う。
「私は殺さないよ。私の人形が人に近付くために協力して貰っただけだよ」
男が叫ぶ。異形の姿になった男が狂い、猛る。
異形の男が飛びかかるよりも早く、一つの銃声が鳴り響いた。
銃声に驚き、少女が赤ん坊を取り落とす。それを異形の男が奪い取る。
「驚いたぁ」
少女が驚き笑う。
「まさか!」
異形の男が振り返ると、そこには1人の男が立っていた。
「先代からの約束だ。助けに来た」
突如現れた男の姿に少女は苦笑する。
「突然のことで驚いたけど、今更、そんなおもちゃでどうにかなるとでも思っているの? 核の炎にすら耐えたことがある私に?」
男が何度も何度も銃声を打ち鳴らす。
しかし、見えない壁でもあるかのように全てが弾かれ、飛んで行く。
「無駄、無駄。今更、そういう時代遅れの銃が通じるような世界じゃないんだよ」
「はっ! その身で受けるのが怖いから、そういう言葉を使うんだな!」
少女が肩を竦める。
「弾いているのは喰らうと危険だから、だとでも思ったの? おめでたいね」
「そうだ、あの悪魔に効くはずが無い。逃げろ!」
異形の男が叫ぶ。
男はそれに構わず銃を撃つ。
それを少女があざ笑い、その手で受け、
そして、弾けた。
少女の顔が驚きに染まる。
受け止めようとした少女の右手が、右腕が弾け飛び、無残な形でぶら下がっている。
「何を、何をしたっ!」
先程までの余裕のある表情が消え、怒気に染まる。
「お前が作った人形の核に使われている物を弾丸としたのさ」
それを聞いた少女は笑う。
狂ったように笑う。
「見事、お見事。素晴らしいよ」
軋むような笑顔で笑う。