6-47 白くなる世界
―1―
『ユエ、自分が持っている魔法のウェストポーチXLはサイズを気にせず、モノを入れるコトが出来る。食料品を、なるべく同じ種類で数を揃えてくれ』
俺の天啓を受け、ユエが大きく驚き、そしてすぐに頷く。
「急ぎ、用意します……」
ユエがそのまま本社の中を駆けていく。
余り、時間は無いよな。でも、これである程度は食糧問題も解決出来るか? もっと早く気付いていれば、こんなギリギリではなく、ゆっくりと用意が出来たのにな。
ホント、ダメだよなぁ。広さ、場所が限られていて、そして人が多い。食料の問題が起きるのは想像出来たはずなのに、さ。勝手にユエたちがなんとかするだろうと思い込んでいたよ。確かに準備して、何とかなるようにしてくれていたけどさ、俺ならもっと良く出来たワケじゃん。
俺は、もうちょっと考えないとダメだな。
しばらく待ち、ユエたちが用意した大量の小麦パンや肉類、魚の干物などを魔法のウェストポーチXLに入れていく。どんどん入るぜ。果物や野菜がないのは、食材の乏しい帝都だから、なのかな。
『野菜類が無いようだが、大丈夫か?』
「保存がきかないと思ってよ、使い切ってしまったぜ」
ポンちゃんが教えてくれる。あー、そうか。それなら仕方ないか。まぁ、一週間程度なら野菜を食べなくても大丈夫だよな? 死なないよな?
ま、大丈夫か。
次々と運ばれてくる食料を魔法のウェストポーチXLに入れる。ちゃんと俺が指示したとおりに同じモノを中心として集めているようだ。俺の商会のメンバーは優秀だなぁ。
「これくらいで終わりだぜ」
ポンちゃんたちが運んでくれた食料を全て魔法のウェストポーチXLに入れ終える。じゃ、女神の休息日に備えて地下世界に行きますかッ!
―2―
女神の休息日が始まった。
特に開始しまーすみたいなアナウンスもなく、それは始まった。
最初、二つある月の一つが消えた。それに伴い、空が白くなっていく。そして空から、白い膜が落ちてくる――いや、空が消え、そこから全てが白に染まっていく。
「マスター、お急ぎを!」
ああ、ゆっくり見ている場合じゃないな。
14型と共に本社に入り、地下世界の入り口へと走る。
「にゃ!」
扉の前で待っていた羽猫を回収し、そのまま中に入る。扉の先は――人でひしめいていた。多いなぁ。まぁ、近隣の住人全てだもんな。
階段に、壁に寄り添うようにじっと座り、祈り続けている人々。これが女神の休息日か。
「ラン様、ギリギリまで女神の休息日の変化を見たい、なんて、そんな無茶は止めて下さい……」
俺の行動がユエに窘められる。いや、でもさ、どんなモノか見てみたいじゃん。
と、待てよッ!
《分身》スキルで分身体を作れば、地上の様子が安全に確認出来たんじゃないか? そうだよ!
なんで気付かなかったんだ……。
よし、人目はあるが、《分身》スキルを使おう。まぁ、皆、伏して祈り続けているし、バレない、バレない。
よし、行くぞ、分身だー。
……。
……。
スキルが発動しない。
アレ?
何でだ?
試しに魔法を使ってみる。
サモンアクアだ。
……。
やはり発動しない。魔法も使えないぞ。イメージ力が落ちているのか?
いや、待てよ。女神の休息日の間は魔法やスキルが使えないって言われていたよな。ま、マジかよ。
俺さ、この避難した人たちの中に危険人物が居ないか、《剣の瞳》スキルで確認するつもりだったんだぞ。
マジか……。
ま、まさか、魔法の袋も使えないとか、な、ないよな。大量に入れた食料が全部無駄になるとか、洒落にならないんですけど。
よ、よし、試してみよう。
魔法のウェストポーチXLから小麦パンを取り出す。ほっ、こっちは大丈夫か。って、《換装》スキルと《スイッチ》スキルが使えないから武器や装備品が取り出せないじゃん!
何だかなぁ。
まぁ、武器は真紅妃を手に持っているから、これで大丈夫か。それに、この女神の休息日の間に何か問題が起こるとも考えにくいしね。
人々が端に避け祈りを捧げている階段を降りていく。そして、そのまま門の前に到着する。何だかなぁ。
ま、俺も大人しくしてますか。
そして、初日は何事も無く過ぎていった。
―3―
『ところで女神の休息日が終わったかどうかは、どう判断するのだ?』
俺が天啓を飛ばすと何故かスカイくんが答えてくれた。
「なんだよ、オーナー、知らないのかよ。終わったら外に出ても大丈夫なんだぜ」
……。ダメだコイツ。
「外に物でも投げれば判断出来る」
フエが教えてくれた。へー、そうなんだ。でも、毎回毎回、物を外に投げるのか?
「外が見えるタイプの迷宮なら、外の景色を見ているだけでも判断出来ますよ」
クニエさんが補足してくれる。
なるほど。確かに世界が白くなっていっていたもんな。それが元に戻っていけば終わったってコトか。
にしても不思議な現象だよな。何というか、世界を作り直しているというか、綺麗にしているというか……。
俺の世界の大洪水で世界を洗い流した神話みたいな、そんな感じだよな。まぁ、女神が行っているんだから、神の所業ってコトで同じか。
にしても女神ねぇ。この世界には女神が実在するのか? でも姿も形も見たことがないしなぁ。ホント、分かんないことだらけだ。