6-45 1人が2人に
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ユエが本社へ――地上へと戻った後も、俺は地下世界に居た。
「マスター、作業の邪魔ですが? もしかして、私の作業を邪魔することで何かのメリットが! 私には思い浮かばない何か重要なメリットがあるのですね!」
別に14型の行動が心配で――それで残ったってワケじゃないんだけどさ。まぁ、門の前に何やら食器やらベッドなどの家具を配置している14型を見ると凄く不安を感じるけどさ。それにそれが邪魔で魔法の練習も出来ないから、残る意味なんて余りないんだけどな。
……。
ま、ここに残っても何かが変わるわけでもなし、戻るか。戻って、今日の分の水を作らないとな。
……。
ああ、そうだ。
忘れる所だった。
《二重》系のスキルが有能だったから、《換装》系スキルも上げるつもりだったんだ。せっかくだから、ここで上げてしまおう。
……うん、MSPは足りそうだな。
よし、ガンガン上げよう。
【《換装》スキルがレベルアップ】
【《換装》スキル:指定ヶ所の装備を入れ替えることが可能】
【最大箇所数8】
結局、8が最大か。にしても、8箇所も装備を変更する場所があるか? うーん、微妙。ま、まぁ、所詮は通過スキルって事かな。
次は《パージ》か。コレもMSPの消費は10ずつ増える感じだな。
【《パージ》スキルを獲得しました】
【《パージ》スキル:装備が外れるごとに敏捷補正が上昇する】
【該当箇所数1】
うん? 俺が想像していたスキルと違う。こう、ぽーんと装備を外すことが出来るスキルかと思っていたんだけど――あ! そうか、外したり、交換したりは《換装》スキルで出来るもんな。って、コトは、これも上げていけば……。
【《パージ》スキルがレベルアップ】
【《パージ》スキル:装備が外れるごとに敏捷補正が上昇する】
【該当箇所数8】
なるほど、なるほど。どれくらい上昇するか分かんないけど、8箇所の装備を外せばすんごい素早くなれるって感じなのかな。
えーっと、つまり、全裸推奨スキルですか。しかも、着込んでからじゃないと発動出来ないなんて、何て変態なスキルなんだ。《換装》スキルで一気に8箇所装備して、《パージ》スキルを発動させて、おもむろに服を脱ぎ始めるとか……最低なスキルだ。
これ、芋虫姿の俺だからいいけどさ、普通の人型で人前では使えないスキルだよね。
……なんで、習得した!
次は、と。
【《分身》スキルを獲得しました】
【《分身》スキル:8時間ほど活動出来る自身の劣化品を作成する】
うん? MSPを800も使ったけど、何だ、コレ? 俺がもう一人増えるのか? え? 良くわかんないんですけど……。ま、まずは《全射出》を取得しよう。後、800だけど大丈夫だよな。狩ってて良かった蟻退治。いや、もうね、どれくらい殺したか分からない位に、この世界に蟻が居なくなるんじゃないかってくらいに蟻を狩ったからね。
【《全射出》スキルを獲得しました】
【《全射出》スキル:全身の装備を吹き飛ばし周囲に攻撃する】
……。何だ、コレ。アレか、使ったら全裸になるのか。吹き飛ばした装備は大丈夫なのか? それで攻撃とか狂気のスキルだよッ!
アレか、《換装》スキルで装備して《パージ》を発動して《全射出》スキルで全裸になって素早くなって、再度、《換装》スキルで装備する。そんな感じのコンボで使うのか。でもさ、途中、全裸になるとか最低なスキルだと思います。しかも、飛ばした装備品が壊れたら再起不能になるので使いたくないです。
これ、実験したくないなぁ。
まぁ、フルールに安物の鎧か何かを作って貰って、ノアルジ状態の時に使ってみるか……。何だかなぁ。
と、そうだ。《分身》スキルだけは面白そうだから、今、使ってみるか。
――《分身》――
《分身》スキルを発動させると、俺の目の前に安物ぽい服を着込んでいるが、それでもとても可愛らしい少女が生まれた。えーっと、俺の分身が何で女の子に。
でも、この少女の容姿、何処かで見覚えがあるような……。
長く延ばした青髪、赤と青の瞳……って、ノアルジ状態の俺じゃないかッ!
てっきり芋虫がもう1体生まれるのかと思ったら、そっちかよ、そっちなのかよッ! 何でだよ、おかしくね、おかしくね?
「マスターが2人……」
14型も驚いている。
「新しい遊びですか?」
いや、そうでもないか。
で、この分身、どうしたらいいんだ?
色々考えていると、視界が二つに分かれた。いや、元々6個の視界があるんだけどさ、それとは別にもう1個視界があるような感じになったんだけど、何だ、コレ。
あ、動く。
俺が俺を見ていて、俺も俺を見ている。で、動かせる。何だろう、ゲームキャラクターを動かしている感じだ。VRゲームとか、こんな感じだったのかなぁ。
まず胸を触ってみる、無いな。下の方も、無いな。やっぱり何も無いじゃ無いか。分身体も無性かよ。可愛らしい女の子みたいだけど、性別は無しっと。
「いきなり、何をし出すのですか、ついに狂ったのですか?」
あ、14型が居たんだった。狂ったんじゃないです、確認なんです。非常に重要な確認なんですよ!
「一応の確認だ」
お、分身の方でも喋れる。
『そう、確認なのだ』
これ、面白いな。
あれ? この分身体、ステータスプレートを持っているぞ。色は……黒、か。俺のステータスプレートが螺旋だから、一段階、落ちるって感じなのかな。
ちょっと、上に上がって2人で水を作ってみよう。性能実験だぜー。
しゅたたっと、階段を上がっていく。ある程度、階段を上がっていると、分身体との接続が切れた。アレ?
見ると、分身体は階段の遙か下の方を歩いているようだ。二足歩行なのに、俺よりも移動が遅いとか……。性能は悪そうだなぁ。
アレ? 接続が切れると自動操縦になるんだな。しっかりとついてきている。その辺は優秀だな。さすがは俺ッ!
でもさ、この程度の距離でも接続が切れるってなるとちょっと不便だなぁ。完全に別行動が取れるなら遠隔操作して楽しめそうなのにね。
分身体が俺に追いつく。
「命令を」
そして喋った。うお、そういうことも出来るのか。自動行動がどの程度か分からないけど、それによっては自動行動に任せるのも……有りか?
再度、分身体に接続し、今度はゆっくりと2人で上っていく。
そして、扉を抜け、いつも水を作っている地下室に戻る。
さあ、今日の分の水を作るぜッ!
まずは分身体でやってみよう。
――[アクアポンド]――
おー、発動した。って、量が少ない。さすがに、俺がアクアポンドを使えるようになった頃よりは随分と多いけどさ、今の俺が作れる量から考えると少ないよなぁ。
やはり劣化版なのか。
後は飲める水になるのかも重要だよな。
自身の小さな手で水を掬って飲んでみる。味は……普通だな。いつもの水と変わらない。なるほど、熟練度の部分が劣化しているって感じなのか。
まぁ、でもさ、このスキルも一週間に一度しか使えないとかじゃない限りは、結構使い道があるんじゃないか? 何より、ノアルジの姿をしているからな、色々と上手く誤魔化せそうだ。