6-44 地下世界の先
―1―
翌日、迷宮として使えるかを確認するためにユエと共に地下世界へと向かうことになった。
俺がいつも水を作っている場所に地下世界への入り口はある。
俺たちはフルールが作った豪華な扉を開け、中に入る――ふむ、さすがに魔獣は居ないな。
長い、長い階段を降りていくと、やがて周囲の壁が透明になっていく。透明な壁の向こうには沢山の建築物が見える。目につくのは一際大きな3つの神殿のような建物。一番左の建物が一番大きく、隣二つの建物は少し小さめだ。何の建物なんだろうなぁ。
と、俺の視界前方から何かが凄い勢いで駆けてきた。な、何者だ!
「マスター、暇つぶしですか? マスターは寝ていてご存じなかったでしょうが、今、非常に忙しい時期なのです。そんな時期でも遊びを忘れないマスターはさすがですね」
ツインテールをふりふりしながら現れたのはメイド服姿の14型だった。さすがと言われても、凄く嬉しくないです。べ、別に遊んでいるワケじゃないんだからね!
『いや、ここが女神の休息日の時に使えるかの確認に来たのだ』
そうなのだ。
「マスター、さすがです。私も、それを思い付き、ここに荷物を移動しているところだったのです」
あ、そうなのね。14型が準備しているということは大丈夫かな。
『大丈夫そうなのだな?』
俺の天啓に14型が頷く。
「元々はアレが住んでいた場所です。問題があるはずがないのです」
アレ? アレって何だ?
『アレとは何だ?』
俺の天啓に14型が首を傾げる。
「アレとは何でしょう?」
いやいや、聞いているのは俺だからな。
「ここが使えるんですね……」
ユエが周囲を、透明な壁に手をつけて外を見回している。そうだな。って、流されないぞ。
『で、14型、アレとは何だ?』
しかし14型は首を傾げるばかりだ。自分が言ったことなのに自覚していないのか? まぁ、ポンコツな14型だからなぁ。メモリー部分が故障しているのかもしれんな。
はぁ、仕方ない。
俺たちは門の前まで降りて使えそうか、その状態を確認する。やはり、門は閉まっているか。って、アレ?
門にくっついている玉の数が5つになっている。青、緑、黄、赤、それに黒? アレ? 以前は黒い玉って無かったよな?
……。
コレは、アレか。も、もしかしないでもアレか?
いや、そんな、でも、そうだよな。
もう、俺の中では、そうとしか考えられなくなっている。
俺1人の行動が世界に影響を及ぼすとか、考えにくいけど、これはそうとしか思えない。
俺が『名も無き王の墳墓』を攻略したから黒い玉が増えたんじゃないか? そうだよな、どう考えてもそうだよな。
青は水属性、そして『世界の壁』
緑は木属性、そして『世界樹』
黄は金属性、そして『空舞う聖院』
赤は……多分、神国の攻略済みの八大迷宮、風属性の『空中庭園』
黒は闇属性、そして『名も無き王の墳墓』
そういうことだよな。となると後3つ、3つで全ての玉が揃うんじゃないか? その時、この扉が開くんじゃないか?
もしかして、迷宮王の言っていた『この世界の本当の意味』ってここのことか?
いや、あくまで俺の想像で間違っている可能性もあるけどさ、どうしても、そうとしか思えないよなぁ。この先に、この世界の真実があるってか。
うーむ。これは、やはり八大迷宮を早く攻略すべきだな。俺は答えを知るべきだ。
―2―
ユエが門の周囲を見て回っている。14型も何やら家具を置いたり、食事の準備を始めようとしたり(まだ諦めていなかったのか!)好き放題している。
「ラン様、これなら使えそうです」
そうか、それはよかった。
「そこで提案なのですが、窮屈な思いをすることになりますが、近辺の住人も受け入れてはダメでしょうか?」
あ、そうか。うちの会社の従業員だけの問題じゃないもんな。でも深淵の魔獣が出るような危険な場所だしなぁ。いや、でも、女神の休息日の間は魔獣が消えるんだったか?
ふむ。
ま、いいか。
『構わぬ』
構わないのだ。
「ラン様の寛大な処置に感謝します」
うんうん。俺は懐が深いんだぜー。
『ところで、何故、『女王の黎明』が使えなくなったのだ?』
そうそう、それも聞いておきたかったんだよな。
「ノアルジー商会をよく思っていない方々がいます」
む。むむむ。
「あ、いえ、ノアルジー商会はラン様が常日頃から言われているように真面目な商売しかしていません……」
いやいや、俺も不正とか癒着とか疑ってないよ。ま、まぁ、冒険者ギルドのスカイくんとは癒着していると言えそうだけど……、うん、許容範囲、許容範囲。
「良くも悪くも大きくなりすぎ、儲けすぎ、他の国々と交流が深いのが問題なのだと思います……」
なるほど、妬まれているのか。
「帝国の力を使って、それを丸ごと手に入れようとしている方々が……、いえ、なんでもありません……」
ユエの言葉は小さい。なるほどなー。
あの八常侍とやらかな。悪そうな面をしていたもんなぁ。お姉ちゃんをはべらして贅沢しているようなヤツらは絶対、悪だ。
まぁ、何にせよ、これで女神の休息日は乗り切れそうだ。