6-42 氷の棺に眠る
―1―
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、落ちていく魔族の男を捕まえる。そのまま崩れ落ちた採掘場へと降りる。
魔族の男は気絶しているようだが、まだ息があった。ふむ、竜に変身した状態での負傷は本体には還元されないのかな? 死にそうになると元の体に戻るとか、そんな感じなんだろうか。そういえば、俺の《変身》スキルも変身する前の負傷を全部無かったことにして変身するよな。同じような原理なんだろうか? 体を作り替えるとか、うーむ。
まぁ、でもさ、生きていてよかったよ。さすがに《フェイトブレイカー》を使ったのはやり過ぎたかなって思ったからさ。
いやぁ、でもさ、魔族で、竜で、この程度の強さ……か。俺は本当に強くなりすぎてしまったのか? そこまで強くなった気はしていなかったんだが、これは確実に、この世界でもトップクラスの強さになったんじゃないか? まぁ、単純に武器と魔法、それにスキルが強いってだけで、俺自身が強いってワケじゃあ無いけどさ。
「う、くっ……」
《魔法糸》でぐるぐる巻きにした魔族の男が目を覚ましたようだ。
天井の――空が見える崩壊した採掘場。崩れ落ちた天井によって、巨大なサンドワームとぶよぶよと蠢いていた肉の塊は埋もれてしまったようだ。と言うかだね、俺の採掘場が完全に形を成していないんですが、どうしてくれるんだよ。ここの資源って水……なんだろ? もう水が取れそうに無いじゃん。
ホント、どうしてくれるんだよ!
『目が覚めたようだな』
俺が天啓を飛ばすと、魔族の男は悲鳴を上げ、逃げようとした。そして、自分の体がどういう状態になっているか把握し、観念したかのようにうなだれた。
『教えて貰うぞ、魔族のことをッ!』
「なんなんです、なんなんですかっ! この力、その姿。まさか、甦った? いや、そんな……」
魔族の男が呟く。そして、震えながらも何かを決意したかのように顔を上げる。
「私は、私の役目を!」
お、おい、何をするつもりだ?
魔族の男の周囲の魔素が揺らめき始める。おい、ホント、何をするつもりだ。
『お前たちは、ここで何をするつもりだったんだ』
俺の天啓に魔族の男が笑う。
「死ね、壊れろ」
魔族の男の周囲に魔素が集まっていく。崩れ落ちた瓦礫が分解し、魔素へと還元されていく。その下に埋もれていたサンドワームの死骸、肉の塊、全てが輝く虹色の魔素へと変換され渦巻いていく。お、おい、本当に何をするつもりだ。
魔族の男を中心として輝く粒子の渦が生まれ立ち上っていく。そして、それが一瞬にして凝縮される。小さく、小さくなるように光が魔族の男の中に、その体を依り代として集まっていく。
ま、まさか自爆するつもりか?
『おい、自爆するつもりか!』
俺の天啓を受け、魔族の男が勝ち誇った笑みを浮かべる。やばい、本当に自爆するつもりみたいだ。なんなんだよ、こいつら、なんなんだよッ!
「私たちの悲願を!」
そして、魔族の男を中心として閃光が走った。
《超知覚》スキルの力によって光の波がゆっくりと広がっていくのが――爆発するのが俺には見えていた。やばい、やばい。爆発が広がるまで何秒だ? 一秒もないんじゃないか?
魔族の男が光に溶け、波が少しずつ広がっていく。封じ込めろ、封じ込めろ。思考を高速で回転させろ。光よりも早く考えろ。
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
光を包み込むように氷の壁を張る。光が強化されているはずの氷の壁を砕き、広がる。ダメだ、三枚では足りない。もっとだ、もっと強い力で押さえ込まないと。でも、時間が。
もっと強く、固く、それこそ棺のように抑えて、閉じ込める。
氷の棺をイメージする。
考えろ。
イメージしろ。
氷を、
封じ込める形を、
力を抑え、
封印する、
棺をッ!
【[アイスコフィン]の魔法が発現しました】
――[アイスコフィン]――
俺のイメージが魔法として発現する。
氷の棺が光を押さえ込み、そのまま小さく、小さく、閉じていく。そして爆発の光は消えた。
出来た、出来たよ! 出来ちゃったよ! 何だよ、随分と俺に優しい世界じゃないか。そういえば、以前、ちびっ娘が魔法はイメージだって言ってたよな。俺のイメージ力ってば、凄いんじゃないか。
……。
ま、まぁ、何にせよ、これで爆発は防げたか。
氷の棺が砕け消える。中に収まっていた爆発エネルギーは無事、何処かに消えたようだ。元の魔素に戻って分解されたのかな。
にしても酷い有様だ。天井はなく、砂漠の砂と太陽が降り注いでいる。水と風の合成魔法である氷の魔法が使えたんだから、まだ水源は残っているんだろうけどさ、それも時間の問題だろうな。
とりあえず羽猫たちを迎えに行くか。
―2―
一度、《飛翔》スキルで地上に戻り、採掘場の入口側から中に入る。そして、羽猫たちと合流する。
『無事だったか?』
俺の天啓にアンリと名乗っていた現場監督が立ち上がる。
「え、ええ。一度、アンデッドの集団に襲われたのですが、その……助けて貰いました」
羽猫が俺の顔の前まで飛んできて、その背中の羽をばっさばっさと得意気に動かしている。あー、そうか、頑張ったな。にしても、アンデッドか。
『ここはアンデッドが出るような場所なのか?』
俺の天啓にアンリは首を横に振る。
「作業員が亡くなってから時間が経っています」
えーっと、どういうこと? そういえば、この世界って死んで埋めないとアンデッドになるんだったか? 確か、そんな感じだったよな。つまり、それだけ死人が沢山出たってコトか? 恐ろしい世界だな。
「あの……」
「が、う」
猫人族と大柄の作業員が、こちらを何かを言いたそうにみている。えーっと、そうだよな。ああ、分かっているけど、分かっているけどさ。
『すまない。魔族の襲撃を受け……助けられなかった』
これは、なぁ……。
「う、嘘だ、あいつは新人だっただ。これから、なのに」
猫人族の作業員が地面に拳を叩き付けている。
「あんただ、そんな姿だ、あんたが殺したんじゃないだか!」
「うが、違う、ダメ」
俺にくってかかろうとした猫人族を大柄な男が止める。
「やつあたり、ダメ」
まぁ、助けられなかったのは事実だしな。この程度、言われるのは甘んじて受けよう。
にしても、侵蝕魔石に、魔石核……。他にも、魔族の実験になった人は居そうだしさ、何とかならないモノか? 何か方法は無いんだろうか。まずは魔石が入れ替えられた人間を見つける方法、そして助ける方法だな。
次は、次は……!