6-41 青竜との戦い
―1―
俺は神官服の男へと歩いて行く。魔族がここに居た。診療所の実験、女神教団のヤツが言っていた青って名前、今、ここで起きた出来事。
俺でも分かる。こいつらが、この魔族たちが人を使って、魔石を入れ替えて、化け物を作る実験をしていた。それも迷宮都市の中で、だ!
女神教団は魔族の巣窟なのか? それとも幹部に魔族が潜伏しているのか? どちらにせよ、許せんよな。
そりゃあさ、俺の知っている人でもなければ、ちょっと会話したくらいだけどさ、でもさ、人をおもちゃにしていいわけが無いよなぁ。俺は無いと思うぜ。
俺は一歩、一歩、神官服の男へと歩いて行く。
「な、なん、なんなんですか! お前は、何者なんですか、その姿、魔獣にしか見えぬのに、なんで、どうやって!」
サイドアーム・アマラに持たせた真紅妃とサイドアーム・ナラカに持たせたスターダストを構える。
『自分は氷嵐の主、ランだッ!』
そして、そのまま駆ける。今の俺の速度なら一瞬で間合いを詰められるッ!
槍形態のスターダストを振りかぶり、そのまま振り下ろ……ッ!
神官服の男がいつの間にか手に長い針を持っていた。そして、それをこちらに飛ばしてくる。躱すか? いや、この程度の針、そのまま振り下ろしてくれるッ!
神官服の男がニヤリと笑う。
いや、ダメだッ!
俺は振り下ろそうとしたスターダストを無理矢理止め、そのまま体を捻り、針を回避しようとする。
しかし、回避しきれず、俺の顔部分の下側を針が掠める。ちっ。でも、この程度のかすり傷で……。
……。
いや、待てよ。
何で、この神官服の男は、この程度の攻撃で……ッ!
俺はとっさにスターダストを使い、針が掠めたかすり傷部分、顔の下部分の肉を抉り切り取る。痛ぇ、痛てぇぇ、ちょう痛い。こそげ落ちた肉が地面に落ちる。そして、そこから体液が溢れ出る。痛い、痛いよ。
――[キュアライト]――
癒やしの光を呼び出し、えぐり取った傷跡を再生させていく。はぁ、はぁ、我ながら無茶苦茶やってるな。
見れば落ちた俺の肉片が石化していくところだった。ど、毒かと思ったら石化かよ。いやいや、危なかったんじゃね? コレ、油断してたら、ホントやばかったんじゃね。
「な、なぜ、なぜ、なぜ、なぜなぜなぜなぜ!」
神官服の男が喚いている。ふん、知ってたもんね、俺、知ってたもんね。今、気付いたワケじゃないからね、知ってた、そう、知ってたんだよ、うん。いやぁ、途中で石化した死体があったのに、サンドワームは石化攻撃をしてきそうになかったし、うん、そうそう、実は知ってたのだ!
神官服の男が後方へと大きく飛び、そして懐から無数の針を取り出す。両手の指の隙間に8本の長い針を挟み込み、そのまま、こちらへと飛ばしてくる。
攻撃が見えていれば防ぐのなんて楽勝なんだよッ!
真紅妃とスターダストで針を撃ち落とす。撃ち落としきれなかった針を白竜輪がたたき落としていた。
『もう終わりか?』
あ、あぶね。白竜輪がなかったら喰らっていたぞ……。セーフ、セーフ、ぎりぎりセーフだよ。
「お前は、なんなんだ。なんなんです! 何故、私たちの邪魔をっ! するのです!」
神官服の男がうずくまる。おや、観念したのかな?
そして神官服の男が光り、大きく姿を変えていく。いや、ちょっと待て、ちょっと待て。
光が消えた後には青く巨大な竜が居た。蝙蝠のような形をした大きな翼に全てを引き裂く鋭いかぎ爪、蜥蜴に牙が生えたかのような厳つい顔……。
おいおい、竜に変身する魔法か何かなのか?
さっき倒したサンドワームと同じくらいのサイズだな。超巨大ってほどじゃない。俺が倒した、あの超巨大だった赤竜の子どもって言っても通じるようなサイズだ。まぁ、そうは言っても異常に大きいけどさ。
青い竜が大きな咆哮を上げる。それに合わせ周囲が震え、天井が崩れる。いやいや、何してくれやがる。お前自身も潰されかねないぞッ!
降ってきた鋭く尖った鍾乳石たちを回避し竜を見る。巨大な竜もこちらを見る。なるほど、コレが俺の奥の手だ、どうだって感じだろうか。だから、どうした、だよな!
俺がドラゴンスレイヤーだってことを教えてやるぜ!
―2―
竜が大きく羽ばたき口から身も凍るような輝く息を吐き出す。ま、寒さに強い俺には無駄だけどなッ!
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
凍える息を防ごうと氷の壁を張ると通常の倍の硬さはありそうな氷の壁が生まれた。それを三枚張る。
氷の息が俺の張った氷の壁を打ち砕いていく。しかし、2枚目の壁を壊した所で勢いがなくなった。ははん、その程度か?
――[ファイアランス]――
炎の槍を生み出し青い竜へと飛ばす。竜が慌てて、横に飛び回避しようとするが、その羽に当たり羽が燃えた。竜は翼をはためかせ、絡みついた炎の槍を振り払う。まぁ、普段とは違う姿だからな、回避したつもりで普段使っていない器官の羽に当たったんだろうな。
竜が怒りに満ちた瞳でこちらを睨み付けてくる。俺もにらみ返す。へへーん、怖くないぜ。
竜が両手を掲げ、何か大きな渦巻く水流を空中に作り出していく。魔法か? よし、来なさい。待ち構えてやるよ。
竜が両手を合わせ、こちらへと巨大な水流を放出する。
――[ウォーターミラー]――
水の鏡が竜の魔法を受け止め反射する。俺に魔法は効かんよ。
竜は自分が生み出した水流に翻弄されのたうち回る。
――《ファイアウェポン》――
槍形態のスターダストが紫の炎に包まれる。行くぜッ!
――《W飛翔撃》――
大きく飛び上がり、その勢いのまま、二つの槍と共に竜の眉間に迫る。竜が慌てて両手で顔を防ぐ。
竜の手の平に二つの槍が刺さり、その左手を爆散させる。その勢いのまま後方へと飛び、地面に着地する。どうした? もう終わりか?
竜が、驚き、慌てたようにこちらを見ていた。そして、竜は翼をたたみ、その中に包まる。何だ? 何をするつもりだ?
竜が翼に包まれた、そのまま飛び上がった。ドリルのように回転し、天井を壊し、突き抜け、飛んでいく。ま、まさか、逃げるつもりか? 逃がすかよッ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルで飛び上がり、落ちてくる瓦礫を避け、逃げる竜を追いかける。
竜が天井を突き抜け、地上へ、空へと飛び上がる。空中にて回転を止め、羽を広げる。
そして、広げた羽の正面に俺が居ることに気付いて悲鳴を上げた。空を飛べるのはお前だけじゃないんだぜ?
竜がいやいやをするように巨大な右手を振り回す。
――《W払い突き》――
スターダストと真紅妃を交差させるよう振り払い、竜の巨大な右手を打ち払う。そのまま空中で一回転、竜の元へと駆け、突きを放つ。真紅妃と槍形態のスターダストが巨大な竜の腹に突き刺さる。
真紅妃、力を借りるぜ。
槍形態のスターダストを引き抜き、そのまま真紅妃の上に乗る。そして《軽業》スキルを使い、飛び上がり、竜の体を駆け上がる。
竜の体を駆け上がりつつ、スターダストを振り払い剣形態に姿を変えさせる。
そして竜の眉間に立つ。喰らえッ!
――《フェイトブレイカー》――
竜の顔に横の線を描き、斜めの線を引き、星を描いていく。星が完成するにしたがい竜の顔が血みどろに変わっていく。そして、俺は、自身の小さな左手を前に伸ばし、サイドアーム・ナラカに持たせたスターダストを大きく引き絞る。そして全てを壊す――相手の運命を壊す一撃を放つ。
竜の眉間にスターダストが刺さり、その動きを止めた。
竜が空から落ちていく。
『真紅妃ッ!』
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い空中で真紅妃を回収する。
竜が光を放ちながら落ちていく。そして、その姿が人型に戻っていく。し、死んでないよな? まだ聞くことは、聞きたいことは沢山あるんだからな!
俺は《飛翔》スキルで落下していく魔族の男を追いかける。
2016年6月8日修正
鋭く尖ったつららたち → 鋭く尖った鍾乳石たち