2-43 世界樹下層
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やって来ました。世界樹。お弁当の準備も万端です。
昨日の隠し通路を通り台座の前に。
竜の紋章に触れると台座の上に画像が表示される。うーん、コレ、多分、何カ所かあって通過したところだけ行けるようになる感じだよね。
とりあえず今、表示されている中層を選ぶ。
台座を中心に円を描くように周りが光り初め、そのうち風景が変わる。
俺は一瞬にして世界樹の中層に移動していた。うーむ、謎装置である。
ということで世界樹の中層だな。猫耳さんには会えるかなー。
道幅は割と広いので歩くのに困ることは無い。ちびっ娘が言っていたように外周から円を描くように中心部に歩かされている感じだな。壁があり窓も無い為、比較対象が無く『それぽい』位の感覚なんだけどね。
少し歩くと目の前にラージマイコニドとマイコニドの線が見えた。おや? 普通のマイコニドも現れるのか……。
まぁ、いいや、とりあえずマイコニドから倒そう。
ぽんぽんぽんと矢を放ち、矢が5本当たったところでマイコニドはこけるように倒れ込んだ。良し倒した。後はラージマイコニドだな。
現れたラージマイコニドはマイコニドを一回り大きくした感じだった。歩くエリンギだな。普通のマイコニドと同じように苦悶の表情を浮かべた空洞があり、そこから胞子が漏れていた。そして大きな違いは体から裂けるように腕のような物が付いていたことだった。なんだアレ?
とりあえず矢で射ろう。大きなサイズなので外すことも無く普通に命中。
そして矢の刺さったラージマイコニドは「ぼあぁ」と叫び、こちらに突進してきた。余りの早さに矢を番えるのが遅れたくらいだ。はぁ? マイコニドはゆっくりとしか歩けなかったのに、何、その全力ダッシュ。
もう一射。矢は普通に命中するが勢いは衰えない。うわ、不味い。
――<魔法糸>――
俺は魔法糸を飛ばし、高速回避する。俺が居た場所をでんでん太鼓のように腕と体を揺らしたラージマイコニドが通過する。そのまま腕を壁に叩き付けるように衝突する。ズドンと大きな音と共に木の壁に大きな衝撃が走る。おいおい、あんな勢いで殴られたらミンチより酷い状態になるぞ。
俺はコンポジットボウから鉄の槍に持ち替えスキルを発動する。
――<スパイラルチャージ>――
槍がうなりを上げて螺旋を描き壁にぶち当たり動きを止めたラージマイコニドに突き刺さる。少しは効いたのかラージマイコニドは「ぼあぁ」と大きな叫びを上げる。しかし体を削る事は出来なかった。そして吹き出す胞子。
――<魔法糸>――
俺は魔法糸を使い距離を取る。まぁ、マイコニドで学習したからな、喰らいはせんよッ!
しかしまぁ、マイコニドも固かったけど、それに輪をかけて固そうだなぁ。
ラージマイコニドはゆらりとこちらに向き直り、また突進してくる。ワンパターンかよ。最初はびっくりしたが、距離があれば喰らうことも無い。敏捷補正を上げた俺の体はラージマイコニドの突進を難なく回避する。
ラージマイコニドは、またも壁にぶつかり動きを止める。
――<スパイラルチャージ>――
槍技をぶちかまし、魔法糸で吹き出た胞子を回避する。
ラージマイコニドの攻撃は腕を振り回した突進しか無いようだった。コレ、当たったら怖いけど、こんな大振りが今の俺のステータスで当たるかよ。
それからは単純作業だった。
突進を回避しては槍技を当て、魔法糸で吹き出た胞子を回避。繰り返すこと4度ほど。ラージマイコニドは壁に寄りかかったままずり落ちるように倒れ込み、そのまま動かなくなった。
うーん、コレ、矢の方が楽勝かなぁ。しかしスパイラルチャージ6回分と鉄の矢2本ってことは倒すまで14発必要って事だよね。ぎっりぎっりだなぁ。1匹だったから楽勝だったけど2、3匹出たらやばいなぁ。大振りとはいえ、喰らったら即死級の攻撃だもん。複数匹から突進して来られたら回避しきれないかも知れない。そう考えると強敵か。線が見える利点を生かして必ず1匹になるように相手すべきだな。
マイコニドとラージマイコニドから鉄の矢を回収し、魔石と素材を取り出す。ラージマイコニドからは大量の金色の粘液が溢れ、それは竹筒4本分にもなった。しまったなぁ、コレ、竹筒が足りないぞ。仕方ない、竹筒が無くなったら魔法のポーチS(1)にそのまま入れるか……。
―2―
その後、すぐにラージマイコニドの線を見つける。近くにもう一匹の線が見えたので、一匹だけ鉄の矢を当ておびき寄せる。近くで攻撃を受けてもリンクしたりはしないようだ。つまり、こっちの姿が気付かれない限りは複数匹戦になるって事は無いわけだ。
時間はかかるがコンポジットボウでチマチマと攻撃していく。倒せたのは予想通り、鉄の矢が14本当たった時点だった。
その後、もう一匹もおびき寄せ、難なく撃破。回収した金色の粘液はサイドアーム・ナラカで掬い魔法のポーチS(1)へ、そのまま入れる。汚れることは無いとは言え、余り気持ちの良い物でも無いな。
しかしまぁ、火力不足が酷いな。鉄の矢を回収しているときに襲われたらひとたまりも無いしな。レベル不足にスキル不足なんだろうなぁ。特に弓スキルが無いのが痛いんだと思う。早くMSPを100貯めないとな。
あ、そうだ、経験値とMSPを確認しないと。ラージマイコニドは経験値が112、MSPが3か……。うーん、微妙。魔獣の強さによる経験値の増え方が分からないけど、コレ、戦い易さを考えたらヴァインを腐るほど狩った方が良いような……。まぁ、ヴァインの生息数にも限りがあるし、一概には言えないか。ゲームならぽんぽん沸く楽勝な雑魚を狩った方が時間効率は良いんだけどなぁ。現実だと数の限りって問題があるのがネックだよな。
そのまま歩いていると木の瘡蓋を発見した。お、中層も瘡蓋なんだ。瘡蓋を開けようとすると、上からポイズンワームが振ってきた。またかよッ!
俺にのしかかるように振ってきたポイズンワームはそのまま俺の背中にとりつき齧り付く。背中に走る激痛……痛ぇ。
俺はサイドアーム・ナラカに鉄の槍を持ったせ背中のポイズンワームを突き刺す。ポイズンワームは少し怯むが背中から動かない。く……、うん、そうだ。そういえばサイドアーム・ナラカでもスキルって発動出来るのか?
――<スパイラルチャージ>――
キュイキュイという悲鳴。背中の状況は見えないけど、鉄の槍がうなりを上げて螺旋を描き貫いているはずだ。よっし、問題なく発動した……こ、これって、ひ、閃いてしまった。って、今はそんな状態じゃなかった。もう一発!
――<スパイラルチャージ>――
背中に居たポイズンワームは吹っ飛び、動きを止めた。良し。
ふぅ……。宝箱の近くには魔獣が居ることって多いのかなぁ。次からは注意しよう。
そして、戻ったら鉄の槍をもう一本買おう。コレ、予想通りなら凄いこと出来るよね。と、それよりもまずは魔石の回収と瘡蓋を剥がさないとね。
中に入っていたのは一本の木の枝だった。は? 枝? ……っと、落ち着け、まずは鑑定だ。
【世界樹の枝】
【加工されていない世界樹の枝。わずかばかりだが魔法使用の触媒にもなる】
ふ、ふーん。反応に困るアイテムだなぁ。そういえばちびっ娘が冒険者ギルドに持ってくればGPに変えてくれるって言っていたな。取り合えず皮の背負い袋に入れておこう。
はぁ、疲れた。とりあえず、一旦休憩して、ご飯を食べて、それからもう少し歩いて見ますか。しかし、喉が渇いたな。って、あ、今日も水袋を買い忘れた。
俺、ホント、馬鹿じゃん。この年で痴呆が始まったか……。いやいや、大丈夫だ。まだ30の大台には上がっていない、大丈夫なはずだ。大台に上がる前日に転生したもんねー。気持ちは20代です。
と、とりあえずアクアポンドで作った水を掬って飲むことにしよう。はぁ……、何やっているんだか。