6-36 緊急事態発生
―1―
えーっと、これ、どう見ても剣だよね。槍じゃないよね。
あれれ、おっかしいなぁ。
俺ってば、槍を作って欲しいって頼んだ気がしたんだけど、もしかして頼んでなかったのかなぁ。最強の槍を作って欲しいって天啓を授けた覚えがあるんだけどなぁ。
あれれ、おっかしいなぁ。
これ、どう見ても剣だよなぁ。
ちょっと形状は変わっているけどさ、剣だよなぁ。何というかナックルガード部分が大きいというか刃に握りがついているというか、いや、でも、これ、剣だよなぁ。
『剣に見えるのだが』
見えるのだ。
俺の体型だとさ、剣を扱うのは難しいんだって。そりゃまぁ、今ならサイドアームが二つもあるからさ、剣も持てないことないよ、《変身》すれば普通に持てるよ、最近、剣の奥義ぽいのも手に入れたよ。でも、俺が欲しかったのは槍だったんだよ。
フルールを見ると、得意気にこちらを見ていた。アレは、褒めて褒めてって顔だよなぁ。
『剣に見えるのだが』
見えるのだ。
「にゃ」
頭の上の羽猫も見えると言っているのだ。
「そうなのですわぁ」
そうなのか。
「これが真銀の槍フルールカスタムの生まれ変わった姿、スターダストですわぁ」
スターダストって、この剣の名前か。特にフルールカスタムとか付けてないんだな。
ま、鑑定してみるか。
【鑑定に失敗しました】
へ?
いやいやいや、なんで失敗したんだ? も、もう1回だ。
【鑑定に失敗しました】
な、なんだと……。もしかして中級鑑定では鑑定出来ない武器だというのか。となると《変身》状態の時に調べるしかないか……。
『この剣の名前はスターダストと言うのか?』
俺の天啓にフルールが頷く。
「ラン様専用の最強の武器ですわ。これ以上の武器は存在しないと思いますわぁ。そう、師匠の作ったラン様の槍よりも最強ですわ!」
えーっと、本当にぃ? 最強って軽々しく使っていいの? 本当? 真紅妃より強いとか考えにくいんですけど。ま、まぁ、縦しんば本当に最強だとしても、だ、剣かぁ、剣だよなぁ。
「ふっふっふっふ」
そこで何故かフルールが気持ち悪く笑い始めた。
「さあ、ラン様、持ってみて欲しいですわぁ」
何を企んでいるんだ?
まぁ、とりあえず持ってみるか。
サイドアーム・ナラカでスターダストを持ってみる。うん、ちょっと変わった形状だけど普通に剣だよな。凄い高そうだしさ、凄い切れ味が良さそうだけど、剣だよな。格好いいけど剣だよな。
「そのスターダストには秘密があるのですわぁ」
へー、そうなんだ。
って、何を隠してやがる。余り焦らさずキリキリ全てを白状するんだぜー。
「にゃ!」
俺が無理矢理フルールに全てを白状させようかと考えている時だった。何かに反応したのか羽猫が頭の上で大きな鳴き声を上げる。
俺が振り返ると、そこには……。
「ちゃんぷー」
何やら焦って駆けてきたと思われる犬頭のスカイが居た。
―2―
あー、スカイじゃん。何だよ、また冒険者ギルドをサボって遊びに来たのか。
『どうしたのだ?』
俺がスカイの方に天啓を飛ばすが、スカイはそれを無視して何やらぶつぶつと呟いていた。何々……?
「これ、言っていいんだろうか」
「いや、たぶん、大丈夫っしょ」
「いや、でも、不味い気が、冒険者ギルドが誰かに肩入れするのは不味いって」
そんな感じの独り言だ。
『言いにくいことか?』
俺の天啓に犬頭のスカイがハッと気付いたようにこちらを見た。そして、首を振る。
「いや、たいしたことじゃないんだけどさ、ノアルジー商会が最近手に入れた砂漠の採掘場にかなり強力な魔獣が現れて大変なことになってるって情報がまわってきたんだよ」
うん? いやいやいや、それ大事件じゃないのか? たいしたことじゃないことないでしょ。
「ここから迷宮都市までは距離もあるしさー、もうすぐ女神の休息日じゃん。オーナーに伝えても不安を煽るだけになるしさ、それに向こうの冒険者ギルドが動いているから……」
『フルール、ユエを呼んで来て貰ってもいいか?』
「へ? フルールが、ですのぉ?」
そうです、フルールです。意味が分かってないのか、なかなか動こうとしないフルールに、俺がもう一度天啓を飛ばそうとする――が、それよりも早く、羽猫が飛び上がった。
羽猫が凄い勢いで鍛冶工房から飛んでいく。
「なんですのぉ」
そしてすぐにユエを連れてきた。
「にゃ!」
羽猫は羽をばたばたと動かしながら得意気だ。エミリオはフルールよりも随分と優秀だなぁ。
「ラン様、急ぎの用件と……」
『ユエ、砂漠の採掘場の場所はわかるか?』
俺の天啓にユエが頷く。よし、これで向かうことは出来るな。と言ってもユエを連れて行くのは不味いか。
『急ぎ、教えてくれ。そこに強力な魔獣が現れたらしい』
「ま、まさか、ラン様自ら行かれるのですか?」
そのまさか、さ。
「え、ちょ、オーナー、ばらさないで……」
スカイが何事か言っているが気にしている場合じゃない。
「迷宮都市の門より南西に半日、荒野に大きな大木が見えてくる、その先の砂漠と聞いています」
俺の固い意志を感じ取ったのか、ユエがすぐに教えてくれた。う、結構、ぼんやりとした位置説明ですね。にしても半日か。まぁ、《飛翔》スキルを使えば、なんとかなるか。
『分かった、行ってくる』
俺はサイドアーム・ナラカにスターダストを持たせたまま鍛冶工房を出ようとする。
「にゃ!」
羽猫も俺の横を飛び、並ぶ。一緒についてくる気のようだ。
「オーナー、俺がばらしたって内緒、内緒にしてー」
そして、犬頭のスカイがそんなことを言っていた。
ふっふっふっふ。困っている人は助けないとなー。しかも、それが俺の商会とあっては当然だぜ!
……というのは建前で。本当は、このスターダストの試し切りがしたいだけなんだけどね。
じゃ、サクサクッと片付けますかッ!