6-35 武器完成です
―1―
いやあ、思ったよりも早く解決してしまったなぁ。今日は、これからどうしようかな。うん、一応、オアシスの蜥蜴人のお爺ちゃんに報告しておくか。
ヤズ卿と別れ、商業ギルドの外に出る。
――《転移》――
人の居なさそうな場所を探し、《転移》スキルを発動させる。にしても、ヤズ卿は商業ギルドに何の用があったんだろうな。都市のトップが来る用件なんて想像がつかないんだけどさ。うーむ。前回も来ていたし、イルックさんの話しぶりだと特定の日には来ているって感じなんだろ? うーむ、謎が深まるなぁ。
オアシスに到着し、そのまま蜥蜴人のお爺ちゃんを探す。えーっと、確か、この辺の建物だったよな? 以前、お爺ちゃんが出てきたと思われる建物の周辺でうろうろしていると、建物の中から声がかけられた。
「もし……」
現れたのは蜥蜴人のお爺ちゃんだった。
「やはり、お断りということですかナ」
そして、蜥蜴人のお爺ちゃんがしょんぼりとした口調で、そう言った。いやいや、そうじゃない、そうじゃないよ。そ、そうか、結局、1日で戻ってきたから、追いつけなくて戻ってきたと思われたか?
『いや、頼まれた内容は迷宮都市のヤズ卿に頼んできた。ヤズ卿なら彼らの思いを無下に扱うこともないだろう』
なんだよ。ま、まぁ、丸投げとも言うけどさ。
「な、なんと、昨日の今日で、そのようナ!」
とってつけたような方言だな、おい。
『ああ、信じて貰えると嬉しい』
「信じますナ、姫さまの騎士なら、信じますヨ」
姫さまへの信頼の高さに驚きです。姫さま凄いなぁ。
「ヤズ卿の人となりは、このオアシスにも響いておりますナ。これで、安心ですヨ!」
蜥蜴人のお爺ちゃんが舌をちょろちょろと覗かせながら喜んでいた。う、うむ。何というか、ここまで喜ばれると、ぎゃ、逆に、ちょっと心苦しいな。
う、うーむぅ、クラスモノリスの欠片がすでに女神教団の本部に持ち去られたことも言ってしまうか? いやいや、それは伝えたらダメだろ。騒動が大きくなるだけだよな。放り投げるつもりなら伝えるのも有りだと思うけどさ、俺は、ちゃんと、それを取り戻すつもりだからね。都市のトップで権力を持っているヤズ卿に伝えるのとは違うからなぁ。
「芋虫騎士様は八大迷宮『二つの塔』のコトが知りたい、で間違いないですナ」
それで間違いないですヨ。
「『二つの塔』はこの砂漠の何処かに存在すると言われてますナ」
そうそう、それは知っているんだよなぁ。
「辿り着くためには妖精の鐘が必要と言われておりますナ」
妖精の鐘?
「妖精の鐘の音が『二つの塔』の場所に導くのですナ」
うーむ。これはそれが無いと到達出来ない系なんだろうか。そんなことがあるのか? 空から虱潰しに探せば鐘がなくても見つけることは出来そうな気はするんだけどなぁ。
『ちなみにその話は何処から?』
オアシスの長老にだけ伝わる伝承とか、そんな感じなのか?
「ちょっと待って欲しいですナ」
そう言うが早いか蜥蜴人のお爺ちゃんが建物の中に消える。そして、何かの石版を持って戻ってきた。
「一週間ほど前に遺跡から発掘された石版ですナ。古代言語で書かれているから、まだ解読途中ですがナ、ここに書いてあったのですヨ」
って、そんな最近の話なのかよ! なんちゅうタイミングや。狙ったかのように見つかりやがって。にしても、解読途中ねぇ。って、よ、読めるじゃん。異能言語理解スキルの効果か、俺、しっかり読めるじゃん。
えーっと、何々。
やあ、元気しているかい?
糞虫さんたちは、一つでも迷宮が攻略出来たのかな?
今回の迷宮、二つの塔は妖精の鐘がないと見つからないようにしたよ。
だってさ、簡単に攻略されたら、それはそれでイラっと来るしね。
うんうん、砂漠と言ったら妖精、それにチャイムだよね。
……なんだコレ。誰に宛てた文章か分からないけどさ、ふざけた文章だな。意味が分からない。俺の異能言語理解スキルの変換がおかしいのかなぁ。
ま、まぁ、とりあえず妖精の鐘がないとダメだって覚えておこう。となると、『二つの塔』の攻略は後回しになるのか?
うーん。またしても予定が完全に狂ったなぁ。とりあえず、ノアルジ商会の方でも妖精の鐘の情報を調べるように頼んでおくか。至る所に支社が出来ている利点を活用するぜ!
……。
で、どうしよう。
他の八大迷宮って言うと『神国』と『地球のへそ』と『ナハン大森林』か。俺が知っている場所っていうとナハン大森林だよなぁ。
スイロウの里で何か情報が手に入らないか、調べてみるか? 冒険者ギルドのちびっ娘なら物知りだしさ、銀貨1枚で聞いてみるのもいいだろう。今なら、銀貨1枚なんてはした金だぜ!
―2―
――[アクアポンド]――
翌朝、いつものように水を作る。なんと、うちの商会では、この水の輸出を始めるらしい。こんな適当に作れる水を輸出するとか、大丈夫なんだろうか。凄い心配だ。う、うちはクーリングオフは受け付けてないんだからね!
「ラン様ーー」
そんなことをやっていると犬頭のフルールが息を切らせながら駆けてきた。
「ぜ、はぁ、ぜー、ら、ランしゃま……です……わぁ」
はいはい、落ち着こうね。
「きゃ、かん、完成しましたわぁ!」
ふむ。
何が完成したのかね。そこ、重要だよね。
まさかモヒカン頭2号か? 作り直させたの、あれから持ってきていないよな? それとも何か? 頼んでいた弁当箱の新型か?
『何が完成したのかね』
俺が天啓を授けると、犬頭のフルールは額の汗をふくような仕草をし、そのまま小憎たらしい、その口についた鋭い牙を見せた笑顔を作る。
「もちろん例の武器ですわぁ」
例の武器が何か分からないんですが。
……。
「見れば分かりますわぁ」
もったいぶるなぁ。
って、まぁ、例の武器って、頼んでいた槍だよな。
真銀の槍2号だよな。
間違いないよな。
そうか、ついに完成したのか!
にしてもフルールの、この小憎たらしい顔を見るに、相当の自信作みたいだな。まぁ、結構な日数がかかっているもんなぁ。今までで最長じゃないか?
『分かった。武器は何処にある?』
「こちらですわぁ」
フルールの案内で本社に隣接して作られている鍛冶工房に向かう。そして、そのまま鍛冶工房の中へと入る。
それは、そこにあった。
うっすらと光輝く見る者を魅了してやまない刀身、そこから伸び、美麗な装飾が施され、そして大きな刃のようになっているナックルガード……。
えーっと、アレ?
そこに有ったのは全長が1メートル40センチほどの剣だった。
えーっと、アレ?