6-34 ヤズ卿と会談
―1―
――《転移》――
羽猫とともに《転移》スキルを使い迷宮都市の王城に降り立つ。とりあえずお土産に俺が作った水と魚介類の干物を持ったけど、コレで良かったのかなぁ。
まぁ、いいや。とりあえず会って話を聞いてみよう。
王城の中に入り、2階に上がる。そして2階を歩いていたちょっと豪華な服を着た太ったおっさんに話しかける。
『すまない、ヤズ卿は居られるか?』
俺は下手に出て失礼のないように聞くのだ。
「噂の芋虫冒険者か? ヤズ卿はお忙しい方だ、ヤズ卿からの約束が無い限り、会うのは無理だろう」
何故かかわいそうな者でも見るような目で見られた。いやいや、ちょっと待ってくださいよー、今日は冒険者として来てないんすよー。
『いや、ノアルジ商会のオーナーとして会いに来たのだが』
「な、なんだと」
いやまぁ、俺がノアルジ商会のオーナーだと証明する物は何も無いんだけどさ。
「しかし……」
目の前の太ったおっさんはため息を吐き、しゃべり出した。
「ヤズ卿は外出されている。行き先は不明だ」
な、なんだと。うーむ、仕方ないなぁ。ユエから聞いたように門番のイルックさん? に聞いてみるか。
『分かった。こちらで探してみよう』
うーむ、急がないなら、こちらのノアルジ商会支社の人間に頼んでアポを取るように頼んだ方が良かったのかなぁ。回り道でもそっちの方が早かったかもしれないな。
ま、まぁ、今日探してみて見つからなかったら、そうしよう。
俺はそのまま城を飛び出し、迷宮都市の入り口まで駆けていく。ハイスピードの魔法と《軽業》スキルの併用だぜー。
ぴょんぴょんと飛び跳ねていると、俺の横から大きくなった羽猫が羽ばたきながら現れた。アレ? 頭の上に乗っていたんじゃないのか?
何やら羽猫は前足をふりふりと動かし、怒っているようだ。
……。
うーむ、もしかして振り落とされたのか?
ハイスピードと《軽業》を併用した場合、羽猫は速度に耐えきれず振り落とされるというワケだな! はっはっはっは、どうだ、俺の速度は凄かろう。お前もついに俺の頭装備を卒業か?
まぁ、大きくなったら、ついてこられるなら、そのまま大きいままでついてくればいいじゃん。え? 疲れるからダメ?
仕方ない、速度を落として駆けるか。
羽猫が小さくなり、俺の頭の上に乗っかる。うーむ、自分の羽で飛べばいいのに。
しばらく駆けていると橋が見えてきた。確か、この先だよな。
橋を渡り、門の壁側に作られている建物の中に入る。たのもー。
建物の中では門番と思われる人たちが食事をしていた。もう、そんな時間か? いや、この世界だと朝と夜がメインだったか?
「なんだ、なんだ?」
「例の下水の芋虫か、久しぶりに見たな」
ふむ、さすがは俺、有名人じゃん。
『イルック殿は居るかな?』
俺が天啓を飛ばすと1人の門番が反応した。
「今の時間なら外の方で指導っすよー」
外か。
『かたじけない』
じゃあ、そのまま外に出ますか。
―2―
門の外に出ると荒野の中で酒樽のような姿のイルックが武装した10人ほどの一団を指揮していた。おー、訓練かな。門番というか、迷宮都市の軍隊って感じだなぁ。
しばらく訓練を眺めて時間を潰す。
「おめぇ、見てて楽しいのかよ」
眺めている俺が気になってしょうがないのか髭もじゃ酒樽姿のイルックが話しかけてきた。
『いや、イルック殿にヤズ卿の居場所を聞こうと思ったのだが、訓練中のようだからな。眺めて待っていたのだ』
そうなのだ。
「それならすぐに声をかけてくれば良いだろうにな。今日は新米も混ざっているから、おめぇの姿に驚いて訓練に集中できてないヤツもいるじゃねえか」
そ、そうか。俺はこんなにも無害な姿をしているというのに、臆病なモノもいるんだな。
「ヤズ様なら、今日なら下町にある砂漠の潤い亭か商業ギルドの方だろうな」
イルックさんはすぐに教えてくれる。
「姫さんの友人のお前だから教えたんだからな、ヤズ様には内緒にしてくれよ」
あ、はい。
食堂か商業ギルドか……。うーん、食堂の場所は分かんないから、商業ギルドの方で待つか。
というわけで商業ギルドに行ってみよう!
ぴょんぴょんと飛び跳ね、迷宮都市を駆けていく。商業ギルドまで結構、距離があるよなぁ。よし、飛ぶか。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、迷宮都市の上空を飛んでいく。
砂漠の港にある灯台に着くと、ちょうどヤズ卿の姿が見えた。お、ナイスタイミングじゃん。
ヤズ卿の前に降り立つ。
「む。空から、芋虫が」
ヤズ卿って護衛とかつけないんだな。1人で出歩いて大丈夫なのかなぁ。
『ヤズ卿、話を聞いてほしい』
俺の天啓を受け、獅子頭のヤズ卿は片眼を閉じ、あごひげをさする。
「ふむふむ。俺も忙しいんだがなぁ」
『お土産も用意している。ノアルジ商会のオーナーのランとして会って欲しい』
俺の天啓にヤズ卿が目を見開く。
「ほーう。それは商売の話かな?」
えーっと、違います。違うけど、ヤズ卿が確認しないと大変なことになるかもしれない話なんだぜ。
俺が黙っているとヤズ卿が俺の上の腕の辺りを叩いた。
「まぁよい。中で話を聞こう」
と、とりあえず、話を聞いてくれるか。
―3―
以前も使ったことのある商談用の部屋にヤズ卿と2人で入る。
「ふむふむ。さてお土産は?」
そこかよ!
とりあえず魔法のウェストポーチXLに入れていた、水と魚介類の干物を取り出す。謎の魚と平たいエイ? 烏賊みたいなモノの干物だ。
それを見たヤズ卿がむむむと唸る。
「さすがは、ノアルジー商会、か。俺の欲しい物を理解していると見える」
よ、よく分からないが、成功だったのか。
「どれくらいの……いや、それは後で煮詰める話か。よかろう、ノアルジー商会は、このヤズが力になろう」
えーっと、よく分からないが、商談成立? って、そうじゃない、そうじゃない。
『それでヤズ卿、聞きたいのだが』
「ほうほう、何かな?」
ヤズ卿が俺の作った水を飲み、干物をかぷりと噛み契り味わっている。焼いた方が美味そうだけどなぁ。
『この迷宮都市では、病を治すために人の体内の魔石を入れ替えるようなことをしているのか?』
俺の天啓を受け、ヤズ卿の雰囲気が変わった。こちらを試すような、睨むような視線を送ってくる。
「人の体内に魔石があることを、それを何処で知った?」
む、それって隠された事実的な感じなのか?
『この迷宮都市の診療所で、だ』
俺の天啓を受けたヤズ卿は両目を閉じ上を向き、なにやら考え込む。
「なるほど。それは調べる必要があるな」
『そして、その診療所にあった治癒術士の石碑も女神教団の本部に送られてしまっているようだ』
ヤズ卿に話して大丈夫な内容かわかんないけどさ、一応、この迷宮都市のトップだからな。
「女神教団か……」
『それを取り返す為に、オアシスから蜥蜴人の若者が迷宮都市に乗り込んでくるようだ。そちらを穏やかに止めて貰えると助かる』
ヤズ卿が口を開く。
「ランよ、そちらの内容は城にいる者にでも伝えればよかっただろうに……」
城の者?
「太ったのがおっただろう?」
ああ、居た居た。結構偉い人だったのか。
「まぁ、商談の内容、魔石の件、それは俺に話して間違いなかったがな」
ヤズ卿があごひげをすく。
「わかった。蜥蜴人の若者の件、診療所の件、俺がなんとかしよう」
そうか。これでオアシスで頼まれた内容は大丈夫だな。後日、蜥蜴人のお爺ちゃんのところへ確認に行こう。
解決、解決っと。