6-27 砂漠探索開始
―1―
――[アクアポンド]――
さあて、今日の日課も終わったし、何をしようかな。俺が拾ってきた暗殺者の尋問はまだ終わってないみたいだからなぁ。何故、俺が狙われたのか早く情報が欲しいよな。
治癒術士のクラスを得るのは無理ぽいし、せっかく《変身》したのも宴会で潰れたし、うーん。
とりあえず迷宮都市に行って、八大迷宮の一つ『二つの塔』を探すかな。フルールに頼んでいた武器もまだ完成していないから、本格的な冒険は、また後日だな。軽ーく、探索開始ってコトで。にしても、今回は作成にとても日数がかかっているよなぁ。それだけ凄い武器になりそうってコトなんだろうか? ま、真紅妃や金剛鞭に水天一碧の弓ならあるしね、軽くなら、何とかなるだろう。うん、そうしよう。
俺が、受け付けに居る鬼人族のお姉さんに挨拶をして、本社から外に出た所で、羽猫が飛んできた。おうおう、夜遊びでもしていたのか?
羽猫はそのまま俺の頭の上に乗っかり、寝息を立て始めた。うーん、完全に俺の頭をベッドか何かだと思っているな。まぁ、いいけどさ。
では、改めて迷宮都市に向かいますかッ!
「ラン様ーー!」
と、そこで呼び止められた。むぅ、何というか出鼻をくじかれたな。がーんだよ。
振り返ると猫人族のユエがこちらに肉球の見える手を振りながら走ってきていた。もう一方の手には巻物? が見えるな。何だ?
「ら、ラン様、お、おま、お待ちくださ……」
そんな息を切らさなくても、焦らずゆっくり喋ればいいのに……。
「ラン様は、これから迷宮都市に向かわれるところですか?」
ところです。
「ラン様の言われていた木箱の試作品が出来ています。もし良ければ、向こうの支社に渡して貰えないでしょうか?」
なんと、オーナーを足代わりに使うのか! 仕方ないなぁ、仕方ないから引き受けるんだぜー。
『分かった。物は何処にある?』
俺の天啓を受け、ユエが頷く。
「はい、フルールの工房にあります。一緒にこの手紙を渡して貰えると助かります」
了解だぜ。って、俺、迷宮都市のノアルジ商会の支社の場所、知らないんですけど……。食堂で渡したら、ダメだよな?
『ちなみに支社の場所は、何処になる?』
ユエに確認しながら工房へと歩いて行く。すると、俺の天啓を受け、ユエが1枚の地図を取り出した。
「用意しておきました。ただ、難しいようであれば商業ギルドに居るであろう、うちの従業員に渡しても大丈夫だと思います」
ふむ。ユエの手書きの地図か。ぐにゃぐにゃしていて余り綺麗な地図じゃないな。一応、場所的には商業ギルドの近くって感じか。ま、あの辺って港と倉庫があるくらいだもんな。土地が余っていたのかもな。
『分かった』
ま、何とかなるなる。
そのまま工房へと入り、木の箱を受け取る。
「ラン様、これですわぁ」
サイズはまさに弁当箱といった感じだ。もの凄く薄く、余り力を入れすぎると簡単に壊れてしまいそうだ。それが80個ほど。よし、魔法のリュックに入れておくか。
ちなみに俺の新武器はどうかね?
「ラン様、まだ作成中ですわぁ。最高で最強な1本にするためにじっくりと時間をかけて作っていますわぁ」
そ、そうか。期待しているんだからね!
じゃ、迷宮都市に向かいますか。
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い、王城の西の中庭に降り立つ。よし、今日も誰も居ないな。じゃ、まずは商業ギルドに向かいますか。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い商業ギルドに向かう。空を飛べば地形を無視出来るんだぜー。ま、せっかくレベルを上げたんだから、《軽業》スキルの力で建物の上を駆けていくってのも有りだとは思うけどさ。
《飛翔》スキルを使って飛んでいるとやがて砂漠の港と灯台が見えてきた。そのまま灯台の中へ――商業ギルドに入り、受付でノアルジ商会の人間を呼ぶ。
しかし、アレだな、俺がノアルジ商会の人間であるとか、オーナーだって証明する物が無いけど信じて貰えるのかな。それを証明する物を何か作って通達しておいた方がいいのかなぁ。
しばらく待っていると1人の猫人族の若者がやって来た。
「オーナーのラン様ですか?」
『ああ。君は?』
俺の天啓を受け、猫人族の若者が嬉しそうに答える。
「自分はナゴシって言います。ラン様のノアルジー商会は自分のような猫人族も雇ってくれたので本当に感謝しています」
ふむ。猫人族だと余り就職には有利じゃないのかな。
『道案内を頼む』
ナゴシくんの案内でノアルジ商会の支社に向かう。場所は灯台方面から住宅区に入ってすぐの場所だった。建物は俺が思っていたよりも大きかった。何だろう、町工場って感じだ。
「新しい商会が迷宮都市で、こんな港に近い場所に建物を作れるのは滅多に無いことなんですよ。そんな力を持った商会で働けて嬉しいです」
へ、へぇー。ま、まぁ、これで場所を覚えたから、次は1人で来ることが出来るな。うん、ユエの地図、意味が無かったー。
『これをユエから預かっている』
俺はノアルジ商会迷宮都市支部に入り、そのままナゴシくんに手紙と木箱を渡す。
「た、確かに受け取りました」
さて、これで商会の用件は終わり、と。まぁ、俺がアレコレ指示を出さなくても、ユエの手紙に上手くやるよう指示が書いてあるだろうからな。俺はでーんと構えていればいいんだぜー。
次は冒険者ギルドに向かって、八大迷宮の一つ、『二つの塔』の情報を聞きますか。
―3―
俺が冒険者ギルドに入ると羊角のお姉さんがこちらへと挨拶をしてきた。
「お帰りなさいませ、リ・カイン冒険者ギルドへ」
お、おうさ。
「下水のラン様、本日のご用件は何でしょうか?」
羊角のお姉さんが聞いてくる。下水の芋虫って呼び方も酷いと思うが、下水のラン様って言われると俺が下水に住んでいるみたいで、もっと酷いと思います。と、そういえば猫人族のお姉さんの姿を見ないな。
『そういえば以前居た猫人族の女性を見ないな』
俺が天啓を飛ばすと羊角のお姉さんは凄く嫌そうな顔で答えてくれた。
「あの子は結婚して退職しました」
へ、へぇ。この世界でも寿退社みたいなのってあるんだ。にしても、結婚して退職か。まぁ、人と接することが多い職場だしな、そういうこともあるか。
『そうか。ところで八大迷宮の一つ『二つの塔』についての情報を知りたいのだが、教えて貰っても良いだろうか?』
まぁ、前にも聞いたんだけどさ、もう一度確認をね。
「分かりました。どうぞ、こちらへ」
羊角のお姉さんがカウンターに案内してくれる。そして、そのままカウンターの上に1枚の大きな地図を広げる。ふむ、この周辺の地図かな? といっても簡単で大雑把な地図すぎて、位置関係の把握くらしか出来そうにないな。
「この迷宮都市の西側には広大な砂漠が広がっています」
ふむふむ。
「その中央、やや西側にオアシスがあります。砂竜船で移動する時の中継地点ですね」
あるな。
「そのオアシスの南側にあるのでは? と言われています」
へ、へぇ。結構、場所が特定されてるじゃん。
「まずはオアシスに向かい、そこで情報を集めるのが良いと思います」
なるほどなぁ。よし、まずはオアシスに向かいますか。
『ちなみに、この情報の情報料は?』
俺が天啓を飛ばすと、羊角のお姉さんが小さく笑った。
「下水のラン様、私たちは冒険者をサポートするのが仕事です。この程度のことでは情報料を取らないですよ」
へ、へぇ。そうなんだ。何処かの冒険者ギルドの、何処かのちびっ娘は、俺から散々、情報料を搾り取っていたんだけどなぁ。
……あんにゃろ。やっぱりじゃん、ここでもそうじゃないか。俺が知らないと思ってお金を巻き上げていたのか? ま、まぁ、気にしたら負けか。そうそう、あの時は手に入った情報に、それだけの価値があると思っていたわけだしさ。
ま、まぁ、いい。
さあて、砂漠の探索を開始しますか!