6-23 暗殺者ギルド
―1―
「クラスの獲得は出来たようだな」
厳ついおっちゃんがニヤリと笑う。おうさ。
『ところでクラスについての説明を聞いてもよいかな?』
俺の天啓を受け、厳ついおっちゃんが面倒そうに手を振る。
「そういうのはキャッツルガにでも聞くといい。あいつは若いが優れた探求士だぜ」
厳ついおっちゃんは腰の短剣を抜き、クルクルと回して遊んでいる。そうだよなぁ、探求士のことならそうなのかもな。
『この暗殺者というクラスについて聞きたかったんだがな』
俺が天啓を飛ばした瞬間、厳ついおっちゃんが吹き出し、手から短剣を落とした。厳ついおっちゃんはすぐに短剣を蹴り上げ、そのまま空中で受け取り、腰に戻した。
そして、字幕でしか見えないほど小さく呟いた。
「やはり、魔獣だからか、いや、色が、そう言えば帝国の貴族だったか……」
どういうことだ?
「わかった。俺が説明しよう」
厳ついおっちゃんが腕を組み、壁に寄りかかる。
「その前に、お前、剣の血族に入らないか?」
剣の血族?
『何のことだ?』
「要は、探求士ギルドの裏の顔、暗殺者ギルドに入らないか、と言っているんだぜ」
厳ついおっちゃんがニヤリと笑う。
『入るメリットは?』
「剣の血族は各地に支部や同士が居る。情報の共有や旅をする上での援助なども受けることが出来るだろう。希望すればクラスの手ほどきもしてやることが出来るぜ」
『デメリットは?』
「特にないと思うがな」
いやいや、絶対に、そんなこと無いからな。絶対何かあるはずだ。
「ただ、たまに仕事をしてもらうことがあるくらいだ」
ちょっと待て、ちょっと待て。暗殺者ギルドで仕事と言ったら1つしか無いだろ。お断りです、無理です。
『人を殺す、か』
俺の天啓に厳ついおっちゃんは首を横に振る。
「この世の中には、な――殺しても良い人間が居るんだぜ」
いやいや、何を言い出すの?
「ま、論より証拠だ。MSPの余りはあるか? 何か適当に暗殺者のスキルを取って見るんだぜ」
う、うーん。ま、まぁ、言うとおりに何か取ってみるか。無難なのは、隠形かなぁ。
【《隠形》スキルを獲得しました】
【《隠形》スキル:気配を消し、周囲と同化する】
うむ、予想していた通りのスキルだな。多分、スキルレベルが上がれば上がるほど見つかりにくくなるのか、効果時間が延びるのかって感じか。まぁ、正しい所は目の前のおっちゃんに聞けば分かるか。
【暗殺者系スキルの取得に伴い《剣の瞳》スキルが発生します】
へ? 追加でスキルが獲得出来たけど、何だ、このスキル?
「獲得出来たようだな。お前が本当に、暗殺者のクラスを取得しているなら、そのスキルを使ってみるんだぜ」
そのスキルって、この《剣の瞳》ってスキルのことだよな? まぁ、使ってみるか。
――《剣の瞳》――
スキルが発動した瞬間だった。音波ソナーを映像で見ているかのように波紋が周囲に広がった。何だ? 何が起きた?
「ちっ、本当に暗殺者のクラスを取得したようだな。待ってやるから、次は俺を見ながらスキルを使ってみるんだぜ」
ふむふむ。
再度、スキルが発動出来るようになるまで待ち、もう一度《剣の瞳》スキルを発動させる。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》スキルが発動した瞬間、俺を中心に波紋が広がった。そして目の前の厳ついおっちゃんの体の上を抜け、そのまま飛んでいく。うん? 厳ついおっちゃんの体を抜ける時、体が青くなった?
「俺は何色だ?」
『青だ』
俺の天啓を受け、厳ついおっちゃんが頷く。
「《剣の瞳》は周囲に居る魔獣や人を探知するスキルだ。それこそ、壁すら越えてな。そして、これが重要なんだがな――青は安全、赤は殺して良い生き物だ」
は?
「隠形スキルを使われると探知出来なくなるから過信するな」
いやいや、今、何と言いました?
『赤は、殺して良いだと?』
「そうだ。赤はこの世に災いをもたらす者だと思えばいい」
『それは誰が決めたことだ?』
「さあな。この世界を作った女神あたりが決めてるんじゃねえか」
どどど、どういうことですか。
「話は戻るが、暗殺者ギルドは人殺しのギルドではない。この世に災いをもたらす者を狩るギルドだ」
う、うーん。
「お前、見るからに魔獣の姿なのに、普通に話しかけられたことがないか? そいつはな、もしかしたら暗殺者かもしれんぞ。《剣の瞳》を使えば悪意ある存在かどうかは一発でわかるからな」
う、うーん。
「魔獣や魔人族、魔族は赤く反応する。俺が剣の瞳を使ってもお前は青だ。だから、こうして安心して喋ってられるんだがな」
う、うーん。
「暗殺者ギルドと言っても、殆どが魔獣や魔人族、魔族を狩ることになる。普通の人が赤くなるようなことはまず無い――貴族や王様連中でも黄色だから、な」
な、なるほど。
「俺らの仕事は人の世に隠れて潜む魔人族を剣の瞳で見つけ出し狩ることが殆どだ。その仕事を頼む場合があるって感じなんだぜ」
うーむ。
「まぁ、と言ってもはぐれた連中や俺たちから離反し、普通の人を殺すために暗殺者のスキルを使う奴らもいる。そういった連中に制裁を下すこともあるんだがな」
あ、やっぱり、普通に言葉通りの暗殺者として生きている人も居るんですね。
―2―
「隠形スキルはお前という存在を消すスキルだ。レベルが上がれば効果時間が延び、使えば使うほど精度は上がる。常に使い続けるようにしろ」
ふむふむ。
「軽業スキルは身が軽くなる。お前、キャッツルガと競争したんだろ? アイツが器用に建物を飛び跳ねながら移動していたのを見ていただろう? レベルが上がれば上がるほど柔らかく、高く、器用に動けるようになる」
ふむふむ。でも、この体で器用に動けるか? すっごい無理な感じがする。にしても、あの短髪少女も暗殺者のクラスを持っているのかよ、怖いなぁ。
「双手スキルは両手で器用に武器を扱えるようになる。ただ短剣と剣にしか効果が無い。他の武器では、何故か同じように器用に扱うことは出来ない。だから、双手スキルを上げるなら剣か短剣を使うといいと思うぜ」
スキルが武器を選ぶのか? ますますゲームじみた感じだな。
「そして、暗殺スキルだな。SPは知っているな?」
ああ。MPを使って作る防護膜みたいな物だよな。体の部位によって厚かったり、薄かったり、これが有るから魔獣は鎧とかを着込まなくても硬いって感じだよな。
「暗殺スキルはSPを無視して中に刃を通すことが出来る」
ほほう。それは便利かもしれないな。
「スキルレベルを上げれば発動しやすくなるが、それでも必ず発動するわけじゃない。ただ、相手が気付いていない不意打ちの時などは殆ど発動するから、狙っていくといいと思うぜ」
ふむふむ。
「さあ、ここまで説明したんだ。剣の血族に入るんだぜ」
よし、ありがとう。
『分かった。暗殺者というクラスについて充分理解出来た。剣の血族については考えておこう』
考えるだけ考えるんだぜー。
「お前……たく。俺の説明損じゃねえか」
そうですね。説明してくれたら加入しますとは言ってないからな。
「まぁいい。気が向いたら入れ。恩恵は多いはずだ」
無理です。魔人族や魔族を殺すことが多いって言っても、普通の人を殺すこともあるんだろ? そんなもんに加入出来ないって。無理無理。
さあて、次は治癒術士の獲得かなぁ。って、暗殺者の説明に衝撃を受けて、忘れていたけど探求士も取得していたんだった。こっちはキャッツルガ? あの短髪少女に教えて貰うか。