6-22 三姉妹探求士
―1―
重そうな金属の扉の先にはバンダナを巻いたおっさんが居た。
「なんだよ、なんだよ。キャッツルガ、お前かよ。何の用なんだぜ」
バンダナのおっさんの問いに短髪少女はニヤリと笑う。
「そこに居る芋虫ちゃんを探求士ギルドに加えるんだぜー」
バンダナのおっさんがこちらを見て、一瞬、動きが止まり、そのまま扉を閉めた。
「おい、こら、閉めてるなよー」
短髪少女が金属の扉を叩く。それこそ金属の扉を壊しそうなくらいの勢いで、叩く、叩く、叩く。
「う、うるせぇ」
ガチャリと金属の扉が開き、中から再びバンダナを巻いたおっさんが出てくる。
「こちらの芋虫ちゃんを探求士ギルドに加えるんだぜー」
短髪少女の言葉を聞いてバンダナを巻いたおっさんが頭を掻き、はぁと大きなため息を吐く。
「噂の芋虫冒険者か」
うむ。
「私の動きにもついて来たんだから優秀、優秀、優秀なんだぜー」
迷宮都市が広いからって色々、変な方向に走らされたもんなぁ。
「ジャイアントクロウラーは動作の鈍い魔獣って聞いているんだがなぁ、別物ってことか」
バンダナのおっさんがこちらを見定めるようにジロジロと眺めてくる。いやん。
「わーったよ、入るんだぜ」
バンダナのおっさんが手招きする。
「ありがとうなんだぜー」
短髪少女が片手を上げてにししと笑っている。
「で、表の方か? 裏の方か?」
バンダナのおっちゃんが字幕でしか読み取れないほどの小さな言葉で短髪少女に確認をとっている。何だ、何だ?
「もちろん表なんだぜー」
表とか裏ってどういうことだ? 内緒話みたいだけど気になるなぁ。
短髪少女とともに探求士ギルドの中に入る。明かりの無い薄暗く狭い通路を黙々と歩いて行く。あー、こう暗いと明かりが欲しくなるな。羽猫を置いてきたのは失敗だったか。最近、アイツはアイツで行動するようになってるからなぁ。アイツも成長したってことだろうか。
そして通路の先には1つの扉が。バンダナのおっさんが狭い通路の中、端っこに避ける。
「ここが探求士ギルドだぜ」
バンダナのおっさんが扉を開ける。すると扉の先から明かりがあふれ出した。うぉ、眩しッ! いやまぁ、眩しいって言うほど明るくないけどさ。
「ギルドマスター、探求士になりたい新人を連れてきたんだぜー」
中は酒場のようになっていた。薄暗く、何個か有る丸テーブルの上に置かれたカンテラのみが明かりを主張している。奥にあるカウンターの向こうには髭を生やした厳ついおっさんが腰に2本の短剣を差し、腕を組んで立っていた。
「キャッツルガか。余り騒がしくするな」
その厳ついおっさんが口を開く。カウンターまでは距離が結構あるのに、不思議と声がこちらまで届いている。何だろう、念話みたいな感じだな。
「あ、お姉ちゃん!」
カウンターに座っていた2人の少女がこちらに気付き、振り返って手を振っている。えーっと、赤髪の冒険者とバーン君のトコロに居た少女たちかな。
「おー、ウリュアスにゼロターじゃん。何でギルドに?」
「裏の方でー」
「ウリュアスお姉ちゃん、ダメだってー」
何やら3姉妹が俺を無視して会話を始めている。3姉妹が揃ったな。会話の内容は良く分からないが、揃ったな。
『何を話しているのだ?』
「最近、迷宮都市は物騒だって話なんだぜー」
「だよだよ。ノアルジー商会とやらが暗殺者に襲撃をされたって話しだしさー」
「返り討ちなんて間抜けだよー」
へ、へぇ。って、うちの商会じゃん。暗殺者を仕向けられるとか、恨まれてるのか。やっぱり地元とは仲良くやらないとなぁ、よほど無茶なことをしていたんだろうか。怖いなぁ。
「と、私たちが情報交換をしている場合じゃないんだぜー」
「そうなのー?」
「おー、芋虫冒険者ちゃんじゃんよー」
3姉妹は好き放題に喋っている。って、今、気付いたのかよ。
「ギルドマスター、以前、噂になっていた芋虫冒険者なんだぜー。下水の芋虫なんだぜー。スカウトしてきた」
短髪少女がふふん、って感じで鼻を鳴らしている。余り鼻を膨らませると可愛い顔が台無しですよ。
「本当にお前らは揉め事しか持ってこないんだな」
ギルドマスターと呼ばれた厳ついおっちゃんがため息を吐いている。
「そこの芋虫冒険者、言葉は通じるか?」
『もちろんだ』
もちろんなんだぜー。
「ついてこい」
ギルドマスターがカウンターの奥の薄暗い通路を指差す。あ、はい。
「じゃあねー、芋虫ちゃん」
「ばいばーい」
「またー」
3姉妹が手を振っている。はいはい、じゃあ、行ってきますか。
―2―
「ついてきているな?」
目の前の厳ついおっちゃんが前を向いたまま喋る。ホント、薄暗くて大変だよ。
「探求士は器用さと敏捷に優れたクラスだ。迷宮のお宝を手に入れるには必須のクラスと言えるだろう」
ふむふむ。
「魔獣に見つからないよう音を立てずに動いたり、先行して罠の確認をしたりする以上、軽装な装備が求められる。つまり戦闘は割とキツいってことだ」
まぁ、そうか。
『ちなみに派生クラスや上位クラスはあるのだろうか?』
一応、聞いておかないとね。狩人なんてさ、弓士より役に立つもんなぁ。
「派生クラスは表街道を歩いている冒険者には必要無いものだな」
へ、へぇ。
「ついたぞ」
厳ついおっちゃんが案内してくれた先には見覚えのあるクラスモノリスが置かれていた。ただ、俺が今まで見たモノよりは少しだけサイズが小さいようだ。
「触れ」
あ、ああ。
クラスモノリスに手を伸ばす。
俺が触れるとモノリスに文字が浮かび上がる。
【基本クラスの探求士を取得しますか? Y/N】
もちろんイエスで。
【探求士を取得しました。内容はステータスプレートをご確認ください】
ステータスプレートを確認するとクラスの項目に探求士が追加されていた。って、アレ? 探求士だけじゃないぞ、暗殺者ってクラスが増えてる。もしかして派生クラスか? 探求士の派生が暗殺者かよ。怖いなぁ。
クラス:探求士LV1
クラススキル:初級鑑定LV0(0/100) 探知LV0(0/20) 探索LV0(0/20) 暗視LV0(0/40)
うむ、聞いていたそのままだな。中級鑑定が使えるのに初級鑑定を覚える意味ってあるのかなぁ。探知か探索のどちらかが宝箱の罠を外すようなスキルなんだろうか。
って、暗視スキルがあるじゃん。これが有れば羽猫のライトが無くても安心だな。迷宮は暗いことが多いから、これは取得しておこう。
で、次は暗殺者か。
クラス:暗殺者LV1
クラススキル:暗殺LV0(0/40) 隠形LV0(0/20) 軽業LV0(0/20) 双手LV0(0/100)
暗殺って、そのままズバリなスキル名があるよ……。誰を暗殺するんだよ。
隠形は相手に気付かれないようになるとか、かなぁ。でもさ、俺、潜入ミッションとかしませんよ。
軽業はひょいひょい飛び跳ねたり出来るようになるんだろうか。
で、双手? 両手がなんだろう?
うーん、俺には必要になりそうなスキルが無さそうだなぁ。にしても、この世界ってさ、技術を取得するとかじゃ無くて、何でもスキルなんだな。まぁ、スキルが代用するなら技術を磨く必要は無いか。その方が楽だもんな。