6-21 探求士取得へ
―1―
さてと、お腹も一杯になったから冒険者ギルドに行きますか。さすがに冒険者ギルドで俺の存在が忘れられている、何てことは無いよな。
そのままトテトテと歩き冒険者ギルドに入る。すると凄い勢いで羊角のお姉さんが駆けてきた。
「お帰りなさいませ、リ・カイン冒険者ギルドへ!」
お、おう。
「本日はどういったご用件でしょうか? 下水のクエストですか?」
ち、違います。
『クラスを取得したいのだが、迷宮都市だと、どういったクラスが取得出来るのだろうか?』
「そうですね……」
羊角のお姉さんが考え込みながらカウンターへと歩いて行く。俺はその後をついていく。そのままカウンターに用意されていた椅子を、俺の小さな手でひょいと退かし、その場に立って待つ。うん? 椅子を軽く退かしたけど、俺、こんなに力持ちだったかな? うーむ。
「有名な所だと、探求士と治癒術士ですね。神国まで足を延ばせば魔法使いもありますね……ですが、その、ランさまには難しいかと思います」
神国は普人族以外はころころしちゃうようなトコなんだよな? うーむ、さすがに、そこに行くのは難しいなぁ。となると探求士と治癒術士か。
『その2つは何処に行けば良いだろうか?』
俺の天啓を受け、羊角のお姉さんが頷く。
「探求士は迷宮都市に入ってすぐの橋を右手側に王城方向へ向かうと宿場街があります。そこにある一際小さく薄暗い小屋が探求士ギルドです」
ふむふむ。右手側に進むと迷路のような住宅街になっていたけど、そこから宿場街に行けるのか? 《飛翔》スキルで飛んで探してみるかな。
「探求士のクラスを取得するにはギルドマスターの出すクエストを達成するか、他の探求士からの推薦があれば可能です」
ふむふむ。俺は探求士の知り合いがいないから――いや、今は居ないから、普通にクエストを受ける感じになりそうだな。
「治癒術士のクラスは同じく宿場街にある、この冒険者ギルドと同じ白い建物の診療所になります。初めて迷宮都市に来た冒険者の方が間違えて、そちらに行ってしまうこともあるそうです。そこで薬草の納品をすればクラスは取得出来ますね」
ふむふむ。薬草の納品か。この荒野と砂漠が続く迷宮都市では薬草を探すのも一苦労だろうな。俺の場合はナハン大森林まで飛んで、サクサクと薬草を集めて納品って手もあるな。うん、その方が早そうだ。
と、どっちから取得しようかな。まずは探求士か。
『わかった。まずは探求士のクラスが取得出来るように探求士ギルドに行ってみることにしよう。助かった』
さあて、どんなクエストかな。
と、その時だった。
「下水の芋虫ちゃん、ちょっと待つんだぜー」
俺が羊角のお姉さんとの話を終え、カウンターから離れようとしたトコロで呼び止められた。
「おひさー」
そこに居たのは短髪の元気が有り余ってそうな少女だった。
『ああ、久しぶり』
小迷宮『異界の呼び声』で出会った短髪少女――探求士3姉妹の1人だよな。
「芋虫ちゃん、探求士のギルドに行くなら案内するよ。それに良かったら私がギルドマスターに紹介してもいいんだぜー」
短髪少女がうっしっしって感じで笑っている。な、何を企んでいるんだ?
―2―
短髪少女の案内で迷宮都市を歩いて行く。この子、結構歩くのが速いな。油断すると置いてかれそうだ。
短髪少女が振り返り、俺がついてきているのを確認すると、どんどん歩く速度を上げていった。結構、いや、無茶苦茶歩くのが速いな。
がッ!
俺の方がもっと早いぜ。普段、敏捷補正しか上げてないのは伊達じゃ無いぜッ!
歩いていた短髪少女が、そのうち走り出す。まだまだ速度があがるのかよ。いや、でも、まだまだ、まだ追いつけるぜ。
短髪少女がさらに速度を上げ、飛び、建物の屋根の上を駆けていく。ぱるくーる、ぱるくーる。
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、更に《浮遊》スキルも併用して短髪少女を追いかけていく。ほんと、ぴょんぴょん飛び跳ねていくな。
そのまま短髪少女は建物を駆け上がり、迷宮都市で一番高い尖塔の上に立った。そして、こちらへと振り返り、俺がついてきているのを確認すると、ニヤリと笑った。えーっと、本当に案内してくれているんでしょうか。
そして、短髪少女は、尖塔の縁から、一歩踏み出し、そのまま落下した。え? お、おいッ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、飛び降りた短髪少女を追い越す。
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、そのまま短髪少女を回収する。
「え、え?」
――《浮遊》――
そのまま空中で停止する。《魔法糸》でぐるぐる巻きになってぶら下がっている短髪少女はこちらを見て驚いていた。いやいや、いきなり飛び降りるとか、こっちの方が驚きだよ。
《浮遊》スキルを加減し《魔法糸》を飛ばし、地面に降り立つ。
「お、おうおう」
何やら短髪少女が嬉しそうに飛び跳ねながらクルクルと廻っていた。って、俺の《魔法糸》をいつの間にか切断していやがる。さすがは上位冒険者ってことか?
「いやあ、芋虫ちゃん、やるなぁ」
『何がしたい?』
俺の天啓に短髪少女が不敵に微笑む。
「あそこに藁が積んであるのが見えるかなぁ? あそこに落ちる予定だったから、そのままでも大丈夫だったんだぜー」
いやいや、藁の上に落ちようが、高所から落ちたら死ぬからね、危険だからね。藁で衝撃が殺せるワケ無いじゃん。無理だってばさ。
「ここまで、ちゃんとついてきたのは、妹たちを除いたら芋虫ちゃんが初だよー。凄いんだぜー」
あ、はい。
「じゃ、改めて探求士ギルドに案内するね。サクサクッと行くよー」
俺の返事を待たず短髪少女は駆け出していた。相変わらず素早いなぁ。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、追い越さないように気をつけながら短髪少女の後をついていく。やがて、人通りの多い通路に出た。
「ここの路地の裏にあるのが探求士ギルドなんだぜー」
短髪少女が頭の後ろに手を組んで笑っている。そうなのかー。大通りではなく、路地裏にあるとか、案内して貰わないと気付かないっての。
にしても、この王城近く側もお店とか多いんだな。人も多い。ただ武装している姿は余り見えないから、こちらは冒険者向けでは無く、迷宮都市に住んでいる人や商人向けなんだろうか。
下町って感じだよね。
短髪少女の案内で路地裏に建てられた小さな薄汚い小屋の中に入る。中はすぐに降りる階段になっており、そのまま短髪少女とともに降りていく。
何だか、探求士ギルドって言うよりは盗賊ギルドのアジトに向かっている気分だ。
階段の先には金属の扉が取り付けられていた。短髪少女が金属の扉をノックする。
「合い言葉は?」
扉の向こうから字幕でしか読み取れないほどの小さな声が発せられる。
「迷宮探索、お宝ざっくざっく、全て私の物」
その言葉に少女が応える。
……。
しばしの沈黙。
「そんな合い言葉ねええよっ!」
その言葉とともに金属の扉が開け放たれた。