2-41 転送
-1-
ここは何処だ?
目の前には竜の紋章が描かれた台座。台座の上には何も無い。
部屋の広さは10メートル四方くらいか。周りの壁は石で出来ているようだ。振り向くと狭い通路へと続く道が見える。しかし、それをふさぐように石壁を壊し木の根が伸びていた。
うーん、ここは何処だ。もう一度、台座の竜の紋章に触れてみると台座の上に映像が浮かび上がる。……これ、さっき居た場所だよな。
も、もしかしてテレポーター? 中継地点か何かだったのか? ということは……?
俺は後ろを振り返る。道を塞ぐ木の根。
俺は木の根に近寄り木の質を確認し鉄の槍を構える。
――<スパイラルチャージ>――
木の根が少し削られる。よっし、いける。
――<スパイラルチャージ>――
――<スパイラルチャージ>――
どんどん削られていく木の根。何度か<スパイラルチャージ>を叩き込み、なんとか自分が通れるくらいの隙間を作る。
さあ、進もう。
しばらく進むと道は行き止まりになっていた。が、俺は慌てない。だって、目の前に隠し扉って線が見えているんだもん。
俺が隠し扉に触れると『ふぉん』という音と共に扉が消えた。扉が消えると共に外から陽光が差し込んでくる。うっし、予想通り。
俺は外に出て現在地を確認する。世界樹の迷宮の入り口近く、沢山うねっている根の一つに隠された通路だったようだ。これ、ショートカットが開通したって事だよなぁ。
根の這っている具合から他の冒険者が来ていた可能性は低い。他の人は毎回律儀に登っていたのかなぁ。にしても、他の冒険者は、こんな簡単な仕掛けに気付かないモノなのか?
まぁ、いいや。とりあえず一旦帰ることにしよう。多分、あそこからが中層か。中層と上層の情報もちびっ娘から仕入れておくか。ギルドに居ると良いなぁ。
――<転移>――
―2―
里に帰ってきました。
今回も色々とゲットしたものが多いし、換金が楽しみだな。
まずは冒険者ギルドをのぞいてみるか。冒険者ギルドをのぞいてみると――中に居たのは眼帯のおっさんだった。ちびっ娘じゃないのか。これは明日だな、明日。このおっさんから有益な情報が得られるとは思えないもん。
そのまま、目の前の建物、換金所へ。
『換金を頼みたいのだが』
いつものように森人族のお姉さんが対応してくれる。ホント、休み無しですね。
「はい、換金ですね」
そうだ、換金の待ち時間の間、ちょっと聞いてみよう。
『商人をしているのは普人族の方が多いと思うのだが、換金所は森人族の方が多いな』
「そうですねー。森人族はお金に興味が無い人も多いですし、細かいことに向いてないんですよね。あ、お嬢は例外ですけどね」
お姉さんは律儀に答えてくれる。
「私たちは狩人のクラス持ちが多いので解体が得意なんですよ。生活サイクルも普人族より長いので休み無く働けますしね。そういうこともあって換金所でお手伝いをしているんです。まぁ、探求士になった変わり種のお嬢もいますけどね」
ふーむ、探求士ってクラスかな。にしても変わり種のお嬢様か……。森人族にもお嬢様とか居るんだな。
しばらくして換金結果が出た。
ヴァインの種子:640円(銅貨1枚)×6=3840円(銅貨6枚)
金色の粘液:5120円(銀貨1枚)×4=20480円(銀貨4枚)
ポイズンワームの魔石:10280円(銀貨2枚)×4=41120円(小金貨1枚)
合計:65440円(小金貨1枚、銀貨4枚、銅貨6枚)
うーむ。ポイズンワームの魔石の換金額が知りたくて売ってみたけど悩む金額だなぁ。今回、マイコニドとヴァインの魔石は砕くことにしたけど銀貨2枚で売れるのは悩むなぁ。
よっし、現状、お金に困っていないし(欲しいものが高すぎるッ!)次からは砕くか。もうちょっとで弓技の100に届くもんね。
あ、そうだ。ポイズンワームの肉の換金額とヒールポーションの換金額も聞いてみよう。
「ポイズンワームの肉ですか?」
お姉さんはすっごく嫌そうな顔をしているが、それでも答えてくれる。
「8円(潰銭1枚)ですね」
やっす。無茶苦茶安い。持って帰らなくて良かった。すっごい嵩張る量になっていたもんなぁ。
「ポイズンワームの肉は一応食べられますし、頑張れば調理も出来るんですけど、すっごく、すっごくっ! 不味いんです。あれならクリエイトフードの方がまだマシってくらいです」
そこまで力説するほどなら食べなくても良いんじゃないかなぁ。というか、食べ物の扱いにしなくても良いと思うんだけどなぁ。
「ヒールポーションは量にもよりますけど、一番小さな物なら5120円(銀貨1枚)で買い取りますよ。ただ、こちらで売るよりは魔法具屋に持っていくことをオススメします」
魔法具屋かぁ……。そういえば名前は聞いたけど一度も顔を出していないな。
よっし、行ってみるか。
お姉さんに聞いてみると鍛冶屋や服飾店のある通りにあるそうな。
……返して貰えなかった竹筒を鍛冶屋で補充して、その足で行ってみよう。金色の粘液を入れていた竹筒を返して貰えなかったからなッ!
―3―
魔法具屋は鍛冶屋から少し歩いただけで見つかった。木だけではなく土を使った土壁の建物で中には色々な色の小瓶が並べられていた。
中には店主であろう普人族の老婆がゴザの上に座っていた。猫でも膝に乗せてそうな感じの干物具合である。
『もし?』
俺は声をかけるが老婆に無視される。
『もし!』
「何か言いましたかな? あいにくと耳が遠くてのぉ」
いやいやいや、それは無理があるだろ。
『すまないが、念話なので聞こえていると思うのだが』
「そうじゃった、そうじゃった。晩ご飯かのう?」
う、うーん。話が通じない。もしかしてこのお婆ちゃん、お留守番役か何かなのだろうか。話が分かる人が居ないと何も出来ないなぁ。
魔法薬の説明や付与魔法のこととか聞きたかったし、相場次第では銀糸装備を買って付与を何かやって貰いたかったんだけどなぁ。
魔法具屋は後日だな。
仕方ないので鍛冶屋に寄って帰ることにする。
ということで鍛冶屋。
『竹筒を貰おう』
「はいはい、まいどまいど」
ホワイトさんは結構適当な感じの接客になっている気がする。
「いやだってよぉ。最初はこえぇ、魔獣かよって思ったけどよぉ。お前お馬鹿じゃねえか。怖がるだけ損だと思ってよぉ」
いや、あの……お馬鹿とか酷いと思います。というか、接客が適当になっている理由と関係無いよね、ソレ。
『後、槍の手入れもして貰いたい』
ホワイトさんに鉄の槍を渡す。
「うわ、またひでえな。お前、ホント、武器を大事にしないのな」
えー。そんなことないよ。今回、殆ど使った覚えがないし……って、スキルか。やっぱり予想していたとおり<スパイラルチャージ>が武器を痛めている原因だよなぁ。
『多分、それはスキルの影響だろう』
「はぁ、お前、武器を痛めるような強力なスキルが使えるのか? いや、それがあるから、か」
何やらホワイトさんが納得している。
「お前さんが世界樹に挑戦していることだよ。普通より早く挑戦しているのは、そういった強力な攻撃スキルがあるから、かと納得していたんだよぉ」
うーん、でも世界樹では殆ど使ってませんよ。殆ど遠くから弓でチクチク倒してますよー。まぁ、わざわざ言わないけどさ。
「まぁ、そうとわかりゃ、がんがん使ってがんがんウチの商品を買っていきな」
えー。
「終わったぞ。竹筒と合わせて1920円(銅貨3枚)だ」
俺はホワイトさんに銅貨3枚を渡し、新品同様になった鉄の槍を受け取る。うーむ、相変わらず謎の技術。
さあ、明日も世界樹かな。
朝一で冒険者ギルドをのぞいてちびっ娘が居たら情報を入手して……魔法具屋は帰りかな。
さあ、明日も頑張るぞー。
4月12日
サブタイトル
転移 → 転送




