6-18 フウキョウへ
―1―
さてと、後は弁当箱の話だな。
『ユエ、小さな蓋付きの木箱に食べ物を詰めて販売したい』
俺の天啓にユエが首を傾げる。
「用途がわかりません」
『旅先や冒険者がクエストの途中でご飯を食べられるように、だ』
そうそう、あったら便利だと思うんだよね。
「ラン様、それって必要か?」
犬頭のスカイが否定的だ。
「冒険者ならその日の食料は倒した魔獣を食べたりさー、干し肉なんかを食べたりすればいいと思うけどなー」
むぅ。そこにお金を使おうとはしないのかなぁ。お弁当があると便利って発想は俺だけなのか? まぁ、数日持つようなお弁当は作れないから、結局さ、その日の分だけになるから、遠出するならスカイの言うようになっちゃうしなぁ。うーん、浅はかな考えだったんだろうか。
『帝都は木材が余っていると聞いた。安価に作れる木箱で試してみたい』
ユエは顎に手を当て考え込んでいる。
「ま、いいんじゃねーかよ。試してみればいいと思うぜー」
そこで何故か豹のような猫頭のファット君がフォローしてくれた。
「そこの馬鹿猫は黙ってて下さい」
ユエさん、ファットにはキツいね。
「ば、ば、馬鹿猫って、お前も俺と同じ猫人族じゃねえかよ!」
確かに、その通りだ。
『まずは迷宮都市で売り出してみよう』
「この帝都ではないのですか?」
ユエの疑問は当然だと思うけどさ。冒険者の数は迷宮都市の方が多いし、そっちで試したいんだよなぁ。
『新しい食堂で売り出すのだ』
そうしたいのだ。
「しかし、いくら帝都の木材が安いと言っても流通するまでに日数と経費が……」
『そこは自分が何とかしよう』
最初のうちは俺が《転移》スキルでぴょーんと飛んで運べばコストは掛からないからね。そこから少しずつ、一般の交易路で行き来するようにしていけば良いと思うんだ。
「ラン様が、そこまでされるというなら……分かりました。何とかしてみます」
すまないねぇ。
「試作品の箱ならフルールが作りますわぁ」
「なら、俺が詰める食材を吟味だな」
ポンちゃんとフルールが心強い。まぁ、失敗しても痛くもかゆくもないから、試しにやってみてもいいじゃん。
「では、次は自分の番ですね」
ユエが席に座り、クニエさんが立ち上がる。そして、そのまま、こちらにお辞儀をする。
「ラン様、ありがとうございます。こちらも人が増え、大分、作業が進んでいます。今、手伝って貰っている冒険者の方達の中には、うちで働きたいという者もいます。何とか軌道に乗りそうです」
そうか。それは良かった。
「帝都は東側が経済の中心で西側は掃き溜めみたいな所があったからさー、冒険者が集まるか不安だったんだけど、意外と集まったんだよー」
何故かスカイが得意気だ。犬頭のスカイのくせに、東側が経済の中心とか、よく難しいことが分かったね。
「え、ええ。スカイさんには助かりました」
クニエさんがスカイにもお礼を言っている。
「いいよー。俺のところは下が優秀だもん」
いやまぁ、スカイは何もしてなさそうだもんな。
―2―
――[アクアポンド]――
今日も今日とて水を作るのです。
さあて、まずは《転移》スキルを使って、フウキョウの里に行きますか。侍のクラスを再取得しないとね。
大柄な鬼人族のお姉さんに挨拶をして本社の外に出る。あー、そう言えば、この人の名前を聞いてないや。今度、聞いてみよう。
――《転移》――
《転移》スキルを使いフウキョウの里の近くに降り立つ。すっごい久しぶりだ。《転移》スキルを入れ替える時に来たけどさ、ホント、久しぶりだよなぁ。
久しぶりに来たフウキョウの里は遠目から見る限り完全に復興していた。ま、中に入ってみないと分からないけどさ。
俺がフウキョウの里を囲っているお堀に近づくと武者鎧に武装した猫人族が手に持っている刀を構えた。
『以前、この里に来たこともある冒険者だ』
俺は首から提げたステータスプレート(螺旋)をかざす。それを見て猫武者が構えた刀を降ろした。
「星獣様ですか」
そうなのだ。
『中に入っても良いか?』
俺の天啓に猫武者が頷く。
「星獣様なら歓迎です」
さあて、さあて、中はどうかな。
お堀に掛かっている橋を渡り、フウキョウの里の中へと入る。そこは以前見たのと同じ風景だった。和風の――江戸時代のセットのような建物たち。そして道を歩く和装の猫たち。完全復興しているじゃん。1年前に燃えて、跡形も無くなっていたのが嘘のようだ。
と、まずは道場に向かうか。
俺は周囲の猫人族たちからの視線を感じながら道場へと歩いて行く。ま、俺の姿は珍しいだろうからな。
うろ覚えの中、道場があったと思われる方向へと歩いていると大きな平屋の建物が見えてきた。以前と形は違うが、アレだよな。
俺が道場の中へ入ると視界の中央に赤い点が灯った。な、なんだと。俺はとっさにサイドアーム・アマラに持たせた真紅妃を中央に構える。持ってきて良かった真紅妃! 赤い点をなぞるように、俺が構えた真紅妃目掛けて木刀での突きが飛んできた。
――《払い突き》――
真紅妃で放たれた突きを木刀ごと打ち払い、そのまま一回転。
――《飛翔》――
回転する途中、真紅妃を逆向きに持ち替える。そして《飛翔》スキルを使い相手へと飛び、真紅妃の石突きを打ち当てる。しかし相手は俺の真紅妃の石突きを手で受け、そのままふわりと飛び上がり、後方に着地した。
「ひょひょ、やりおるのう」
そこに居たのは毛むくじゃらなお爺ちゃん猫だった。いやいや、よく回避したな。俺の石突きからの突きって完全に当てるつもりだったんだけどなぁ。
俺とお爺ちゃん猫の一瞬の攻防を道場内の他の猫人族たちがぽけーっとした顔で見ていた。
『久しぶりだ』
俺の天啓を受け、お爺ちゃん猫が笑う。
「侍のクラスは成長しましたかな」
あ、すいません。あっさり捨てちゃってます。
『すまぬ。侍のクラスは訳あって捨ててしまった。その為、再度取得に来た』
「さ、さようですか」
お爺ちゃん猫が驚いた声を上げる。ごめんなー。
『試験は必要か?』
俺の天啓にお爺ちゃん猫が首を横にふる。
「案内しましょう」




