6-16 お弁当を売る
―1―
『フルール、小さな蓋が付いた木の箱を作ることは可能か?』
俺の天啓にフルールが更に首を傾げる。そのまま犬頭がねじ切れそうだな。
「可能ですわぁ?」
まぁ、何に使うか分からないから困っているんだろうな。
『サイズは小さく、薄く、コストをかけず大量に作りたい』
俺は小さな手でサイズを指定する。そう、弁当箱くらいのサイズだ。
「この帝都なら木が余ってますから……可能ですわぁ。ほぼタダ同然で作れると思いますわぁ」
余ってるのか。最悪、ナハン大森林から輸入しようかと思ったけど……そう言えば、帝都って木造建築が多いもんな。
『ポン、それに食べ物を入れて売りたい』
俺の天啓にポンちゃんが面白そうにこちらを見る。いや、ホント、弁当を売り出そうかなっと、そう思ったわけですよ。
「へぇ、似たようなことはやってますけどよ、それは面白いですね」
そうそう、持ち運べる料理ってあんまり無いんだよなぁ。串焼きとか、そんな感じだもん。冒険者のお昼事情って、ちょっと苦しいんじゃないかな、と。
『それを迷宮都市で売り出す』
「商売のことはユエ任せですが、いいと思いますよ」
食堂で販売すれば、客入りも改善するかな、とさ。ついでにお昼を食べる人も増えるかもしれないし、そういうのも有りぽいでしょ。まぁ、ユエと相談してだけどさ。
「でも、こちらで作って迷宮都市に運ぶのは無理ですわぁ」
いやいや、誰も弁当を運ぶとか考えてないからね。
『こちらで作るのは箱だけだ。それを向こうに運び、現地で料理して詰める』
「箱をタダでつけるのは勿体ない気もしますわぁ」
いや、でもさ、タダ同然なんだろ? まぁ、作る作業と迷宮都市までの運搬にかかる費用を考えたらタダとは言えないか。
となると最初は少し高めに売り出すことになるのかな。軌道に乗ってくれば値段を下げていく方向でさ。まぁ、後はユエに相談っと。何というか、うちの商会って、ユエに相談する部分が多くてヤバいな。でもさ、商売部分は全部、任せっきりだからなぁ。
よし、一応、考えていたコトはまとまったかな。さて、と。
『ポン、水を作ろうと思うんだが、何処で作ればいい?』
そそ、日課再開だね。
「おう、オーナー。案内するぜ」
「じゃ、フルールは仕事に戻りますわぁ」
はいはい、フルール、呼びつけて悪かったな。
―2―
ポンちゃんの案内で本社、1階の奥へと歩いて行く。そこには更に下へと降りる階段があり、ポンちゃんが迷わず降りていく。
何処だろう、これ。
階段を降りた先には見覚えのある扉があった。あれ? これ、フルールに作って貰った地下世界と、こちらを隔てている扉じゃん。こんなトコロにあったのか――いや、残っていたのか。
「ここに氷室を置いているんだけどよ、その近くに水があると助かる」
ふむ。そう言えば氷室も買ったんだよな。あ、そうだ。せっかくだから、魔法のウェストポーチXLに入れっぱなしにしていたワイン樽も、ここで出してしまうか。邪魔になるもんな。
ぽぽぽーんっとな。12個のワイン樽を積み上げる。1個1個は結構、重量があるから、14型にでも運んで貰いたい所だな。って、あれ? 普通に持てそう。いや、重いんだけど、普通に持てそう。俺、筋力が上がっている? 寝ている間に何かトレーニング的なコトが起こったんだろうか。超回復とか。いや、まぁ、短い腕だと、結局持ちにくくて持てないんだけどさ。
「オーナー、それは?」
『ワイン樽、中は、お酒だ。好きに使うといい』
まぁ、ワインの管理なら地下室だよな。
と、それで水だよな。
「オーナー、ここに作れるかい?」
地下室の一角に四角い木枠が作られていた。うーむ、これ、発動するかな。まぁ、ものは試し、やってみますか。
――[アクアポンド]――
木枠の中に池が作られていく。お、発動した。うーん、発動条件がわからん。竹筒がダメなのに木枠はオッケーなのか。竹だからダメだったとか? 今度、木の箱で試してみるか。
今度から、ここで水を作るのが日課になりそうだな。ま、水魔法の練習、練習。
―3―
そのまま夕方まで本社の探索をし、ユエを迎えに行く。
――《転移》――
まずは王城の西側に降り立つ。よし、誰も居ないな。
――《飛翔》――
そのまま《飛翔》スキルを使い、商業ギルドのある灯台まで飛ぶ。空を高速で飛べるのはホント、便利です。他に使っている人が居ない所を見ると、これも凄いレアなスキルなんだろうなぁ。
灯台下に降り立ち、しばらく待っていると、遠くからユエと羽猫が歩いてきた。羽猫はユエの隣をふわふわと飛んでいる。
「ラン様、遅くなりました」
いや、そうでもないでしょ。あれ? 羽猫の羽の部分、何か赤いゴミが。
『エミリオ、羽にゴミがついているぞ』
俺の天啓を受け、羽猫が必死に羽をパタパタと動かす。ゴミじゃない、赤い染みか?
――[クリーン]――
羽猫にクリーンの魔法を使うと赤い染みは消えた。おー、汚れだったか。
『何事も無かったか?』
俺の天啓にユエが口の端を上げて笑う。あれ? 凄い邪悪な笑みです。
「ええ、問題は無いです」
そ、そうか。
とりあえず本社に戻りますか。
『帝都に戻るが大丈夫か』
俺が天啓を授けるとユエが顔を青ざめた。
「ええ、ええ。問題……ないです」
そ、そうか。
じゃあ、パーティを組んで、と。ふわふわ飛んでいた羽猫も俺の頭の上に装備される。いや、だから、お前は俺の頭装備なのか。
――《転移》――
そのままユエと俺の体が空高く舞い上がる。
さあて、帝都に戻ったらユエに色々と確認だな。