6-15 帝都の水事情
―1―
さあて、今日は当初考えていた通りの予定に従って動きますか。まぁ、ユエを迎えに行かないとダメだから、余り出歩くのも、って感じだもんな。
とりあえずのんきに眠っている14型を起こすか。
立ったまま眠っている14型のツインテールを引っ張る。
「ひゃわぁ」
何だか、凄い叫び声とともに14型が起動する。何だろう、この髪ぽいツインテールって14型の弱点とかなんだろうか。弱点なら余り掴むのは止めようかな。
「マスターご無事でしたか!」
ご無事も何も、何も起きてませんが。しいて言えば14型が俺の近くで眠っていたくらいです。
『14型、忙しくないようなら、だが、ポンとフルールを呼んで貰ってもいいか? 俺は下の会議室にて座って待っている』
俺の天啓を受け、14型が優雅にお辞儀をし、そのまま消える。だから、何処に消えたんだよ。やっぱり、忍者か、忍者なのか。
と、俺も会議室に向かわないとな。
扉を押し開け、外に出る。そのまま外周をぐるりと廻り階段へ。階段を降りてまっすぐ進み、会議室の前に到着。
会議室の前に居たオークさんが大きな扉を開けてくれる。このオークさんは、この会議室の扉を開ける専属スタッフなのかなぁ。凄い無駄じゃね? ま、まぁ、さすがの俺でも、その無駄を省くとか、そんな無粋なことは言い出さないけどさ。
会議室の中に入り、作られた円卓の奥、俺専用の椅子に座る。うーむ、このマッサージチェアみたいな椅子、他の場所にも作って欲しいよなぁ。
と、そうだ。ポンちゃんたちが来る前に色々、実験をしよう。
――[アクアポンド]――
空間に水を出そうとするが発動しない。
――[サモンアクア]――
今度は俺の手の上に水の塊が現れる。こっちは発動する、と。
――[アクアポンド]――
今度は会議室の床を指定して魔法を使う。しかし、魔法は発動しない。うーん、そう言えば、竹筒の中にも作れなかったよな。地面じゃないと発動しないのか? いや、でもさ、それだと何を持って地面とするかの定義的な問題が、ががが。
高さ的な問題なんだろうか? いや、それだと標高の高い山岳地帯でも発動したのがおかしくなるし、それにさ、迷宮内では普通に発動するもんな。うーん、発動条件の違いが分からん。これが分かれば、色々と思いつくことがあるんだけどなぁ。
しばらく色々と試していると、すっかり禿げ上がったポンちゃんがやってきた。相変わらずテカテカだなぁ。
「オーナー、俺に用って、どうしたよ?」
ああ、そうそう、ポンちゃんを呼んだのは他でもない。
『水は大丈夫かな?』
そうなんだよな。1年間眠っていたワケだからさ、俺の日課が滞っていたワケで、その間の飲み水は大丈夫だったのかって、心配だったワケよ。
「そうそう、それよ」
ポンちゃんが手をぽんと叩く。
「フルールが水を綺麗にする道具を作ってくれたから、何とかなっているけどよ、この帝都の周りは泥水ばかりだからな。オーナーの作った水を待っていたのよ」
そうか、そうか。って、今、何と言いました? フルールが水を綺麗にする装置を作ったと? アイツはフルールえもんとか、そんな感じなのか。不思議道具を作る係なのか?
「普通は魔法で作った水は飲めたもんじゃないんだけどよ、オーナーの魔法だけは違うんだよな。何が違うのか全然、分からんぜ」
そう言えば、サモンアクアの魔法って飲み水にはならないんだったか? いや、一応飲めるけど渇きが癒えないんだったか? そう考えるとアクアポンドの魔法って不思議な魔法だよな。俺以外に使えるヤツが居なさそうだし、うーむ。
「ラン様ー、フルールは幹部なのでお忙しいんですわぁ」
俺が考え込んでいるとフルールもやって来た。お前、いつ幹部になったんだよ。と、そうだ、まずは聞きたかったことの前に、水を綺麗にする道具ってのを聞いてみるか。
『水を綺麗にする道具を作ったと言うことだが、どんな装置なんだ?』
フルールが「そんな用件なんですのぉ」と言いながらも教えてくれる。
「鍛冶をやっている者なら、誰でも知っていることの応用ですわぁ。水を燃やすと綺麗になって落ちてくるんですわぁ。それを簡単に集められる装置ですわ」
水を漉す的な感じでは無く、蒸発させるのかー。意外と大掛かりな装置を作ったんじゃないか? と、そうじゃない、そうじゃない。フルールを呼んだ用件はまた別だ。
「ラン様、頼まれていた武器なら、まだまだですわぁ」
そりゃあ、昨日の今日だもん、俺も完成するとは思っていません。そうじゃなくて、だな。
『自分の部屋に、以前、フルールが作った真銀のプレートにクリーンが込められている魔法具があった。それと似たような物を作ることは可能か?』
「似たような?」
『例えば水を作る魔法を込めるとか、だ。そういったモノを量産したい』
俺の天啓を受け、フルールの犬頭が横に振られる。うわ、その何も知らないんですねぇ的な顔、なんか、ムカつくわぁ。
「無理ですわぁ。込められる魔法は種類が決まってますし、あれは真銀が余ったから作れたような――真銀は、普通は高級品ですわぁ」
知ってます。真銀が高級品ってコトは知ってますぅ。にしても込められる魔法って決まってるのか。そう言えば、真銀の槍に魔法を込めた時も決まったのしか出来なさそうだったもんなぁ。
「それに、ですわ。付与魔法は発動する場所としない場所があって、しかも無理に発動しようとするとMPを吸われることもあるんですわぁ」
おいおい、そんな危険なモノを俺の部屋に置いているのかよ。いや、まぁ、置いてあるってコトは普通に発動する、危険の無い場所なんだろうけどさ。
うーん、でも、これだと俺の考えていたコトが出来なさそうだなぁ。
あ!
いやいや、ちょっと待て、ちょっと待て。
俺は魔法のリュックから封印の魔石を取り出す。
――[アクアポンド]――
アクアポンドの魔法を込めてみる。よし、入った。アクアポンド、便利な魔法なのに下級魔法扱いなのか。
『フルール、封印の魔石を集めることは可能か?』
俺の天啓にフルールが首を傾げる。
「わかんないですわぁ」
あー、フルールに分かるわけが無いか。こういうのはスカイか……いや、ユエに相談するべきか。大量に集められるようならアクアポンドの魔法を詰めれば――うん、イケるイケる。まぁ、俺が居なくなったら出来ない作業だけど、俺が居なくなった後のコトなんて考えても仕方ないしね。よし、これは、イケそうだ。
「で、用件はそれですかい?」
ポンちゃんが聞いてくる。いやいや、そうじゃないんですよ。ポンちゃんとフルールを呼んだ用件はそれじゃありません。