6-13 ここにあった
―1―
まぁ、分かったことは、俺はでーんっと構えて、方針だけ決めて、後はユエたちに任せれば問題無いってコトだな。
「ラン様、買い取った食堂はどうされるつもりですか?」
『儲けが出ることは余り期待していないが、普通に営業を続けるべきだろうな』
俺の天啓を受け、ユエが首を傾げる。
「採算が合わないのに、ですか?」
そうだよなぁ。でもさ、俺は思うんだよ。
『冒険者ギルド周辺にはうちの食堂と買い取った食堂しかないからな。今は安さと量でうちの店の方が売れている――が、3種だけでは飽きるだろ』
いくら牛丼が安くても毎日、毎日、牛丼だけだったら飽きちゃうもんね。3食毎日牛丼で一ヶ月も続けたら、牛丼を見るのも嫌になっちゃうもんね。同じ、同じ。
「飽きた時に来る程度では、やはり採算が合わないと思います」
ふむ。
『冒険者限定で、何か割り引きをするか?』
「それはノアルジー商会が損をするだけだと思います。それに今営業している食堂の方にも悪い影響が出ると思います」
む。
やっぱりさ、昼は、今のノアルジー商会の食堂で食べて貰って、夜に、新しい食堂でご馳走や酒に金を落として貰う方がうまく行くよなぁ。でも、それだと現状と変わらないし、それを実行していたはずのミラン商会で採算が合ってなかったんだから――うーん、難しいなぁ。
まぁ、難しく考えるのはよそう。
『ユエ、買い取った食堂の者達には、俺の食堂が出来る前と同じように普通にやれと通達を。まぁ、それでうまく行くと思うぞ』
何にも根拠はないが、酒場と食堂のおっちゃんの頑張りに期待しよう。信じて任せるって重要だよね。それに何かいいアイディアが出てきたら、それを取り入れるってことで。こう、いざ、自分がその立場になってみると分かるけどさ、現代知識を活かしたチート的なのってパッとは浮かばないんだな。こうスラスラと「さすが、ラン様!」みたいな知識を披露できたら格好良かったんだけどなぁ。
「わかりました。そのようにします」
ユエが頷く。はい、任せた。
『では、ユエ、戻るか』
俺が天啓を飛ばすとユエの顔が一瞬で青ざめた。
「ひぇ、まさか、ま、ま、ま、待って下さい」
うん?
「せめて明日の夕方まで待って下さい。せっかく迷宮都市に来たので、こちらで出来ることをやっておきたいんです」
ふむ。
『分かった。明日の夕方、迎えに来るが、泊まる所などは大丈夫か?』
ユエが頷く。
「視察を兼ねて、ノアルジー商会の支店に泊まります」
そうか。じゃ、俺は自宅に戻るかな。と、このまま《転移》スキルを使ったらユエまで帝都に戻っちゃうか。
『ユエ、一度パーティを解散する。明日は何処に迎えに行けばいい?』
「明日の18時くらいに商業ギルドに来ていただけたら有り難いです」
『分かった』
そのままパーティを解散する。さあて、と。と、その前に、さすがに異境の地に女の子を1人残すのは心配か。猫だけど、猫の姿だけど。
『エミリオ』
頭の上に乗っているエミリオに天啓を飛ばす。
「にゃ?」
『ユエを守ってやれ』
「にゃあ!」
羽猫が大きく鳴き、俺の頭の上から飛び降りる。よし、任せたぞ。
『では、また明日』
――《転移》――
俺は《転移》スキルを使い空高く舞い上がる。
―2―
本社の中庭に降り立つ。
さあて、もう今日は夜も遅いし、寝るかな。
その場で少し待ってみるが何も起こらない。
ふむ、珍しく14型が現れないな。あいつも寝ているのかな。仕方ない、1人で帰るか。幸い、本社の方はまだ明かりが灯っている。中に人が居るだろうからな。
本社の建物の大きな扉を押し開ける。
「何か、ご用でしょうか? あ、あら」
そこには昼前に居た鬼人族の女性とは別の、鳥が服を着たような女性が居た。おー、以前に貧民窟でたまに見かけた羽の生えた人だね。
『一応、ここのオーナーのランだが、初めましてかな』
俺の天啓に女性的で柔らかい感じのする梟顔の女性がお辞儀をする。
「ラン様ですね、お帰りなさいませ」
『ああ。遅くまでご苦労』
俺の天啓に梟顔の女性が苦笑する。
「私たちは夜に起きているのが普通ですから」
ほー、そうなんだ。
『そうか、すまない。変なコトを言ってしまった。では、自分は部屋まで戻る』
「ラン様、ご案内しましょうか?」
『いや、大丈夫だ』
梟顔の女性の好意だけを受け取り、部屋へと戻る。まぁ、階段を上るのはやっぱりキツいんだけどね。俺用にスロープみたいなのを作って欲しいなぁ。自室が3階って、無駄に遠いよな。
自分の部屋の前に戻り、扉を開け、中に入る。扉は廊下側に開くようになっているため、俺の体格だと非常に開けづらい。魔法糸をくっつけて引っ張るのが一番簡単かもしれないな。
部屋の中に入る。そこで気付いた。あれ? 一段高くなっている。それに、その一段高い場所にあるのって、以前のマイハウスの時にもあったクリーンの魔法が封じられた真銀のプレートじゃん。あー、ちゃんと、残っていたのか。
そう言えば、今朝も一昨日も14型の案内でバタバタしていたもんなぁ。全然、気付かなかったよ。これでフルールと揉めたこともあったよな。何だろ、凄い懐かしい気がする。
クリーンのプレートを踏み、汚れを落とした俺は、そのまま部屋のベッドまで進み、芋虫スタイルで乗っかる。はーい、おやすみなさい。
あ、今日もステータスプレートの確認を忘れていた。あー、でも、今から起き出して確認するのも面倒いなぁ。
まぁ、明日、明日。何だか、すっごく平和だし、焦るようなこともないだろう。
明日、確認だー。




