6-10 ユエとの相談
―1―
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、試練の迷宮まで飛ぶ。うん、誰も居ないな。
――《転移》――
そこから《転移》スキルを使い、本社の中庭に降り立つ。本社ー、本社だぜー。さて、と。
「14型は居るか?」
中庭から14型を呼ぶ。
「こちらに」
どうやって感知したのか、すぐさま14型が現れる。ホント、忍者みたいだよなぁ。
「14型、ユエを呼んで欲しい。自分は最初の時に使った、円卓のある広間――会議室か、に居るから、そちらへと来るように伝えて貰えるか?」
「了解です」
そう言うが早いか、ぱっと14型の姿が消える。うーむ、1年経って、忍術スキルに磨きが掛かっている気がする。いや、ホント、忍者みたい。
さてと。
俺はそのまま本社の建物の中へ入る。
「ただいま」
俺は、入り口にある受付に立っていた鬼人族のお姉さんに挨拶をする。
「オーナー、お帰りなさいませ」
鬼人族のお姉さんがこちらに綺麗なお辞儀を返してくれる。うーむ、何だろう、こういうのって教育が行き届いているって言うのかな。一流企業みたい。
俺はそのまま、2階へと上がり、近くに居た力持ちそうなオークさんに会議室の扉を開けて貰い中に入る。そのまま奥の、俺専用の席に座る。どすんとな。さあて、ユエを待ちますか。
しばらく待っていると羽猫を抱えたユエがやって来た。あー、そう言えば、羽猫の存在をすっかり忘れていた。
ユエに抱きかかえられた羽猫が何やら身振り手振りでおかしなダンスを始める。
「にゃ、にゃ、にゃあ!」
意味がわからん。
何かを伝えたかったのか、ひとしきり踊った後、ユエから飛び降り、俺の方へふわふわと飛びながら近寄ってくる。そのまま俺の膝の上に座り丸くなった。何がしたかったんだ、コイツ。
「えーっと、ラン様がお呼びとのコトでしたが、だ、誰でしょう?」
ありゃ。ユエはこの姿のコトを知らないんだったか。
「オーナーのラン・ノアルジだ。こちらの姿では初めましてだな」
ユエが一瞬、驚いたように大きく口を開け、すぐに口を閉ざす。そして、片眼がねをクイッと直した。
「信じられないようならステータスプレートを見せるけど?」
俺の言葉にユエは首を振る。
「いえ、大丈夫です。そちらが本当のお姿ですか?」
「いや、こちらが仮の姿さ」
ま、この姿は残念ながら仮初めの姿だからな。仕方ない、仕方ない。
「そう、ですか……。ラン様、私をお呼びと言うことですが……」
「この姿の時はノアルジで頼む」
一応、使い分けるんだぜー。なぜなら、その方が面白そうだからだ!
「分かりました、ノアルジー様」
ユエが頷く。
―2―
「ユエ、忙しい所を呼んで済まない。ちょっと相談したいことがあってな」
「はい」
ユエに迷宮都市でのノアルジ商会の食堂の状況、以前、行ったことのある食堂の現状を伝える。
「と言うわけだ。薄利多売は他を潰したり、他の恨みを買ったりするんじゃないか?」
俺の言葉にユエは顎に手を当て、目を閉じ、少し考え込む。そして、ユエが喋り始める。
「伝達ミスですね。迷宮都市と帝都では距離がありすぎます。いくら、道を整備したとしても距離が縮まるわけではありません。こちらの指示が上手く伝わっていなかったようです」
む? どういうこと?
「それにしても、この短時間で迷宮都市に……。さすがはノアルジー様です」
そこ、納得するトコロなのか……。
「話を続けてくれ」
ユエが頷き、話を続ける。
「まず、ラン様が……いえ、ノアルジー様が心配されている問題は大丈夫です。向こうの商業ギルドとは話がついています」
ふえ?
「ただ、本来は冒険者ギルド内の冒険者専用の食堂になっているはずでした。向こうの商業ギルドにも、それなら食い合わないということで許可を貰っています」
いやいや、それなら大丈夫って言葉に繋がらないよ。
「まさか、一般に開放されているとは思いませんでした」
な、なるほど。いや、それだと大丈夫じゃないよね。向こうの商業ギルドと揉めるよね。
「いや、それならば向こうの商業ギルドと揉めるのでは?」
「いえ、商業ギルドは大丈夫です。営業許可は、営業許可ですから。ただ、現地の、ラン様、……ノアルジー様がお話しされた食堂を運営している商会には、話が違う、と良い顔をされないでしょうね」
商業ギルドは大丈夫だけど、商会の方が問題ってコトか。いや、やっぱり大丈夫じゃないじゃん。
「ただ、あくまで冒険者が多い、迷宮都市の中でも冒険者ギルド周辺だけでのお話です。他にも沢山の食堂があるはずですから、ノアルジー様が心配されるようなコトにはなりません」
うん? 何やら話がかみ合ってないような、かみ合っているような。
「その食堂も多くの冒険者を目当てに場所を取って経営していたと思うんですが、酒場などをやって需要を高めることは出来るはずです」
いや、まさにそういう状況だよね。
「ユエ、どうするのが一番だ?」
「どうやっても、その食堂の大元の商会とは揉めると思います。現地に行って話し合いが出来れば一番なんですが……」
ふむ……。
「ならば、ユエ。現地に行っちゃうか」
「へ?」
ユエが大きく猫目を見開きこちらを見る。
「ユエ、パーティは組めるな?」
「は、はい」
冒険者しかパーティは組めないかと思ったが、そういうわけでもないのか。ならば、行っちゃおうか。
「では、行くぞ」
―3―
「ひ、ひえぇぇぇぇ」
ユエの悲鳴が空を舞う。結構、ジェットコースターみたいで楽しいと思うんだけどな。こっちの人たちには不評だよなぁ。
そのまま城内、西側の中庭に降り立つ。よし、バーン君たちは消えているな。さて、と。
「にゃ!」
一緒に降り立った羽猫が騒がしい。何やらクルクルと廻っている。
ユエは青い顔のまま座り込んでいる。そして、何やらお腹をさすっていた。どうしたのかね、吐きそうなのか。
あ!
しまった。
とりあえず何も考えずに王城の中庭に降りたけど、ここから冒険者ギルドがある通りまで結構な距離があるぞ。俺は《飛翔》スキルを使えば一瞬だけど、ユエはどうするんだ? しまったなぁ、何も考えてなかった。
すると何故か羽猫が両手をばんばんと地面に叩き付けていた。いや、だから、さっきから何?
「にゃ、にゃー!」
羽猫が鳴くと、どうやったのか、その姿が、みるみる大きくなっていった。うお、虎猫が羽のついた虎になった。
そして、肉球のついた猫手をユエの方に向け、そのまま自分の背中に向け直す。うん? ユエを乗せろってコト? ああ、運んでくれるのか。
座り込んでいるユエを持ち上げる。おー、軽い軽い。猫人族は小っこいから、持ち上げるのも楽勝だなぁ。
「え、ノアルジー様?」
そのまま羽虎の上に乗せる。
「冒険者ギルドまで飛ぶ」
じゃ、改めて出発っと。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い飛ぶ。その後を追うように羽虎が飛んでくる。ほう、結構、早いな。ま、俺の《飛翔》スキルほどじゃないがね。
「にゃ、にゃあ、にゃあ!」
羽虎が身振り手振りで背中のユエを指差す。お前、猫手で指差すとか、意外に器用だな。で、あれか、ユエを運んでいる安全速度だから、この程度だって言いたいのか。はいはい、そうだよね。
今度、暇を見て、速度競争するか?
『ユエ、迷宮都市の商業ギルドの場所は分かるか?』
《飛翔》スキルでの移動中なので、ユエへと天啓を飛ばして確認する。
「も、申し訳ありません。場所までは」
そりゃそうか。仕方ない、冒険者ギルドで聞いてみるか。
さあて、商業ギルドでの話し合い。どうなることやら。
2016年5月7日修正
現地に言って → 現地に行って