6-9 ノアルジ食堂
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さあ、どうしよう。
俺が勝手におっちゃんは違うとか、あーだ、こうだ、考える前に、実際におっちゃんがどう思っているかを聞いてみるか。
「おっちゃんはどうしたいんだ?」
俺が聞くと、おっちゃんは腕を組んでニヤリと笑った。
「料理が好きだからな、料理が出来れば満足よ。ただ、夜の酒場をやって貰ってるアイツがどう思うか、俺も分からんな」
なるほどなー。夜の方はダンディなお髭のマスターだよな。マスターさんにはノアルジーって名乗っちゃってるからなぁ。今、居なくて良かったぜ――いや、良かったのか?
「おっちゃん、ノアルジー商会の食堂の場所を聞いてもいいかい?」
「ま、仕込みも出来ていないから、俺んとこでは食事を出すことも出来ないからよ。敵に塩を送るようだが、仕方ないんだぞ」
おっちゃんがノアルジー商会が経営している食堂の場所を教えてくれる。にしても、敵に塩を送るって、こっちでも使う言葉なのかよ! それとも、これも翻訳さんが頑張ってくれた結果なのか?
「そういえば、お嬢ちゃんもノアルジーって名前だったよな。帝国では多い名前なのか?」
ログハウスのような食堂を出ようとしたトコロでスキンヘッドのおっちゃんから声が掛かった。うへ、ばれてらー。
「いや、自分くらいだと思うぞ」
とりあえず素直に答えておく。
スキンヘッドのおっちゃんが頭を振り、それでも笑顔で手を振ってくれる。
さあて、うちの食堂に行ってみますか。視察、視察だよー。
そのままお店の並ぶ通りを冒険者ギルドへ向けて歩いて行く。
ノアルジー商会が経営している食堂は冒険者ギルドの隣にあった。そこに隣接するように――ただ、商店街方面ではなく、寂れた試練の迷宮方面への道だが――その建物は建っていた。
あんまり大きくないね。立ち食い蕎麦屋とか、そんな感じだ。
とりあえず中に入るか。
中に入るとすぐにカウンターがあり、そして椅子があった。うわ、ホント、中も、立ち食い蕎麦屋とか、そんな感じだ。
「はい、いらっしゃい」
コを描くようなカウンターの中に居たお兄ちゃんが声を掛けてくる。とりあえず座るか。
「何か食べたいのだが」
「うちは初めてで?」
はーい、俺の店だけど初めてです。
「ああ」
「メニューは余りないんで、うちはラーメンとサンドイッチに焼き肉だよ」
うん? ちょっと待て、ちょっと待て。今、何て言いました? ラーメンにサンドイッチだと。ま、ま、マジか。ここでラーメンが食えるのか。おいおい、この世界、ラーメンがあったのかよ、マジかよ。
「とりあえずラーメンとサンドイッチを貰おう」
「まいど。1,280円(銅貨2枚)になるよ」
へ? へぇ。
「随分と安いんだな」
とりあえずお兄ちゃんに銅貨2枚を渡す。うーむ、安すぎるよね。
「うちのオーナーのノアルジー様の方針でね。余り儲けは考えてないんだよ。ここがノアルジー商会のメインじゃないからね。冒険者に安くて美味しい物を提供したいってノアルジー様のありがたい考えさ」
えーっと、そのノアルジ様、今、目の前に居ます。俺、そんな方針、打ち立てた覚え、無いよ。
「そうそう。ここは安いから、最高だぜー」
隣に座っていた冒険者が、何故か話にのってくる。へー、へー、へー。
「駆け出しの俺でも一日の稼ぎでしっかり食えるからありがたいよー」
「ノアルジーってのは凄いよな」
お、おう。そのノアルジって人、隣に居ますよ。
「何でも、ノアルジーって、自身が冒険者らしいぜ」
「だから、こう優遇してくれるのか」
お、おう。ノアルジって人、隣に居ますよー!
「はい、お待ち」
料理はすぐに出てきた。
それは小麦粉を棒状に伸ばしたモノをスープに漬け込んだ料理と見るからに肉まんとおぼしきモノだった。
これはラーメンじゃない、ラーメンじゃないぞ。しかもサンドイッチでもない。何だ、これ。俺は騙されたのか。
と、とりあえず食べてみよう。
備え付けてあったスプーンと箸から、箸を取り、食べる。
もしゃもしゃ。
もしゃもしゃ。
うん、コシの有る白い麺に魚介の効いたスープ……うどんだ、コレー! おいおい、コレをラーメンって言ってるのか。全然、違うじゃんッ!
俺は大きな白い団子を取る。えらい大きいな。よし、食べてみよう。
かぷり。
白いもちもちとした生地の中から、じゅわああと肉汁があふれ出る。肉まんじゃん、コレ! そう言えば、以前、ポンちゃん、似たようなの作っていたなぁ。
どちらも味は単純だが美味しい、それに結構お腹にたまる。2つも頼んだのはキツかったかなぁ。
俺が食べている横でもお客がどんどん入れ替わっていく。回転率は良さそうだな。
なるほどなー。
安い、早い、美味い……か。メニューを絞っているのは回転率を上げるためだろうし、金額が銅貨1枚ってのもお釣りを渡す手間を減らすためか。考えられているな……。コレはユエの発案だろうか。
そして、食事に余り時間を割きたくない冒険者には、この早さと回転率は嬉しいだろうし――コレは元冒険者のポンちゃんならではの発案かな。
薄利多売って感じなんだろうけど、良く出来てるよな。
「お嬢ちゃん、いい食べっぷりだね」
カウンターのお兄ちゃんが声を掛けてくる。
「ほう、お嬢ちゃんも冒険者か」
となりの冒険者のおっちゃんも声を掛けてくる。
雰囲気も悪く無いし、いい店じゃん。でもさ、うどんと肉まんをラーメンとサンドイッチって名前で売ってるのは許せん。いや、翻訳さんが変な働きをしているだけ――なのか? いやいや、コレは訂正すべきだ。後で名前を変更するように……いや、違うか。違うよな。もう、この名前で定着しているなら、俺の我が儘で名前を変える必要はないか。
この世界ではうどんがラーメンで、肉まんがサンドイッチ、それでもいいじゃないか。それに翻訳さんが、そう翻訳しただけで、実際は違う名前だろうしな。
これでいい。
うーむ。
コレさ、思ったんだけど、スキンヘッドのおっちゃんのトコは、そのまま食堂を続けるべきなんじゃないか?
迷宮都市に住んでいるのは冒険者だけじゃないんだし、メニューが3種だけでは飽きている人も居るだろうしさ。
うーん。
ちょっと戻ってユエと相談してみるか。
2020年12月12日
結構お腹になるね → 結構お腹にたまる




