6-7 1年後の世界
―1―
食事を続けているキョウのおっちゃんと別れ、自宅の1階を探索する。客室? やポンちゃんが経営していると思わしき社員食堂はあるけどさ、それだけだな。うーん、もっと店が並んでいるのを想像していたんだが、取り立てて何も無いな。
14型の案内でエントランスへ。そこには受付嬢と思わしき女性が立っていた。あ、角が生えてる。鬼人族の女性か。
「オーナーのノアルジだ。顔を覚えといて欲しいな」
手をシュタッと上げて、とりあえず挨拶しておく。
受付のお姉さんは最初、戸惑ったように不安そうな顔を覗かせるが、すぐにキリッとした真面目な顔になり、こちらにお辞儀を返してくる。
「オーナーお出掛けですか?」
「うむ。随分と長い間寝ていたからな。ちょっと外の世界を見てくる。今日の夕方には戻ってくる予定だ」
まぁ、大商会のトップが勝手に出歩くのは危険かもしれないけどさ、出掛けることを伝えておけば大丈夫でしょう。
俺が外に出ようとすると14型もついてきた。
「14型、お前は留守番だ」
「ま、マスター?」
「お前は、このノアルジ商会を守れ」
いやいや、だってさ、保護者同伴の探索なんてやってられないじゃん。1人で、のんびり見て回りたいんだぜー。
「了解しました」
14型が、渋々とだが、こちらにお辞儀を返す。はいはい、じゃあ、行ってくるからね。
そして、自宅から、外に出ると、そこは別世界だった。
まず道が作られていることに驚いた。いやいや、コレだってさ、1年前は墓場だったトコロだよ。しかも、その先は貧民窟だったトコロだよ!
綺麗に舗装された道はいかにも真新しい。その真新しい道を挟むように木々などが植えられている。まるで公園だ。そして、その道の先は大きな門になっていた。
俺は後ろを振り返る。
そこにはビルのように大きな建物が建っていた。そして、それと隣接するように大きな鍛冶場が見える。1階は吹き抜けになっているようで、鍛冶作業を行っている人たちの姿が見えた。
公園と自社ビル、工場が一緒になってる感じだなぁ。
よ、よし、門の外に出てみよう。
門を出てすぐは民家になっていた。ただ、どの建物も似たような造りになっており、街の景観として溶け込んでいる。えーっと、ここって貧民窟だったところだよな? 貧民窟が無くなっている!
ちょ、ちょ、ちょっとソコの歩いている猫人族の女性に聞いてみよう。
「すまない。ここは以前、貧民窟だったと思うんだけど」
俺の言葉に猫人族の女性は怪訝な顔をする。
「お嬢ちゃん、久しぶりに帝都にでも帰ってきたのかい? いや、ほら、そこにあるノアルジー商会がね、ここら一帯を買い取って、更に住んでいた人を雇ったのさ、その際に住む場所も作ったんだから、凄いもんだよ」
へ、へぇ。
「ここら一帯に住んでいた者は、みーんなノアルジー商会に感謝しているよ。今までは東側の奴らに大きい顔をされて、働く場所も無くて、食べる物も無くて、それが今では働けば働くだけ見返りがあるんだ。ノアルジー様様だよ」
へ、へぇ。その、ノアルジが自分なんすよー。俺なんすよー。
「ま、わたしゃ、一番嬉しいのは食べる物が美味しくなったことだね」
「確かに美味しい食べ物は嬉しいな」
俺の言葉に猫人族の女性は笑って頷く。
「今までは泥臭い魚や油で揚げて誤魔化した硬い肉、それに油を取った後のコーンで作ったボソボソとしたパンが主食だったからね」
そりゃあ、キツいよなぁ。確かに1年前の帝都の食事は酷かったもんな。ポンちゃんの食堂が出来て繁盛するはずだよ。
「にしても詳しいんだな」
俺の言葉に猫人族の女性は吹き出した。
「いやいや、この辺に住んでいる者なら誰でも知っていることだよ」
へ、へぇ。
俺がやったワケじゃ無いけど、ノアルジ商会を作って良かったな。いや、何だろう、ホント良かったって思う。
―2―
居住区を抜けるとお店が建ち並ぶ通りが見えてきた。
道を挟むように商店が並んでいる。
全てが大きな建物のお店だよ! 露店が見えない。酒場の姿だけは見えないが、食堂も何軒か並んでいるし、武器や防具のお店も並んでいる。
そして一際大きな白い建物が――あー、あれ、間違いなく冒険者ギルドだ。おいおい、スカイのヤツ、こんな大きな、ビルみたいな建物のギルドマスターなのかよ。分不相応なんじゃないか? いや、トップが無能な方が、下が頑張って逆にいいのか――いや、いいのか?
そして、その冒険者ギルドと向かい合うように道を挟んで立っているのが――換金所だな。こちらも平屋だが、かなり大きな建物だ。学校とかの体育館くらいのサイズはあるな。うーん、コレを1人で頑張っていたのか。そりゃあ、クニエさん、骨みたいになるわ。俺、酷いヤツだわー。
にしても何だろう、帝都の西側の半分がノアルジ商会関係で埋まっている感じなんですけど……。これ、帝都を牛耳っているってレベルじゃないか? 1年でココまで大きくしたのか? いやー、何だろう、俺が居ない方が上手く行ってるんじゃないか。トホホ。
さらに通りを抜けると西門がある大通りに出た。そして、そこから先の南側は1年前が嘘のように寂れていた。ああ、そうか、冒険者ギルドも北側に移ったし、商店街も北側中心になったんだもんな。
何だろう、1年前はさ、発展しているって感じじゃなかったけど、それでも西側の冒険者はソコにしか行く場所がないから仕方なくって感じで、それなりに人通りがあったのに、今は全然姿が見えない。
これ、今度は南側が貧民窟になるんじゃないか? うーん、何とかした方がいいと思うんだけどなぁ。ゼンラ帝とかは、動かないのかな?
北側には酒場がないんだからさ、南側を酒場や歓楽街に作り替えるとか、いいんじゃない? よっし、八常侍とやらに会ったら提案してみるかな。
さあて、帝都は見て回ったし、次は迷宮都市かな。とりあえず転移スキルで王城の庭に飛びますか!