6-6 懐かしい再会
―1―
俺専用に作られた豪華な部屋にあるベッドの上で目が覚める。ああ、結局、昨日は色々許可を出したり、食事をしたり、新商品の味見をしたりで終わってしまったなぁ。しかし、アレだ、芋虫体型の俺の試食で大丈夫なのか? 味覚とか、普通の人と同じかよく分からないし、それでオッケーを出すポンちゃんに不安を覚えるんだぜ。ま、気にしなくてもいいか。
と、そうだ。まずはやることをやっておこう。
――《変身》――
《変身》スキルを使う。無数の魔法糸が繭を作りだしていく。
そして孵化する。
繭から手を伸ばし、体を引き上げる。うーん、1年ぶりの変身もたいして変わらないな。いや、効果時間が延びたから、これなら6時間くらいは変身出来そうだ。いやぁ、6時間って大きいよ、超大きいよ。1週間の内、1回は1日の4分の1を人型で過ごせるんですぜ。いやぁ、人型じゃないと出来ないコトもあるからさ。例えば自分の手で箸を持つとかさ。
でもさ、この《変身》スキル、なんで人型だったんだろうな。例えば巨大な蝶になるとか、そういう可能性だって合ったんじゃないか? もっとグロくなるとかさ……。
俺としては凄い助かるけど、何だか出来過ぎな気がする。
まぁ、時間は有限だ。考えるのは芋虫の時でも出来るから、今、出来ることをパパッとやってしまうか。
――[エルクリエイトインゴット]――
壊れた真銀の槍が光に包まれ、元の金属の塊に変わる。よし、大成功。こっちはこれで良しっと。
さあて、もう1個もやってしまいますかね。
俺は魔法のウェストポーチXLからバックウォーターソードを取り出す。背水の陣だぜ、な剣もサクサクッとインゴットにしちゃいましょうね。
――[エルクリエイトインゴット]――
バックウォーターソードが光に包まれ、見たことも無い虹色に輝く金属の塊に変わる。何だろ、コレ。
【究極の星屑のインゴット】
【星の力を秘めた星屑石を精製して作られた究極の星屑の塊】
星屑? 何だろう? 隕石的な物なんだろうか? まぁ、よく分からないが、とても凄そうな物が出来たぞ。コレなら、俺の真銀の槍も、もっともっとパワーアップするよな。それともこのインゴット単体で武器を作った方が良い物になるんだろうか。うーん、まぁ、俺ではよく分からないし、専門の人に任せるか。
でもさ、その専門の人ってのがフルールだからさ、凄い不安なんだよなぁ。ま、まぁ、作って貰った真銀の槍は大活躍だったし、うん、大丈夫だと信じよう。なんたって天才フルールだもんな!
―2―
俺が服を着て、外に出ようとすると外の方から扉が開いた。
「マスター、お出掛けですか?」
そこには14型が控えていた。
「ああ、今日こそは外に出るぞ」
俺の言葉を受け、14型が優雅にお辞儀をする。
「それと、14型、これをフルールに渡してくれ。この世界で最高の、そして最強の槍を作れと俺が言っていたと伝えてくれ」
「了解なのです」
よし、これで後は迷宮都市に向かうだけかな。まぁ、俺の家の周辺がどうなったかも確認しよう。
「マスター、お待ち下さい。マスターにお客様が……」
俺が歩き出そうとした所を14型が呼び止めた。
「誰だ?」
誰だろう? 俺にお客様って、うーん、そんなに知り合いって多くないしなぁ。
「フー家の者です」
ああ! キョウのおっちゃんか。
「会おう。14型、案内してくれ」
俺は14型の案内で家の中を歩いて行く。さすがに今日は階段を降りた先に従業員が整列しているとか、そんなことは無いか。それでも忙しそうに何かの巻物を持って駆け回っている人たちの姿が見える。うーん、ここに居る人たちは事務仕事なのかな。
俺と14型の姿を見ると、その場で足を止め、頭を伏せる。いや、何だろう、俺が恐怖政治を敷いているみたいだから、止めて欲しいんですが……。
「いや、忙しいだろうから、気にしないでくれ。自分たちの仕事を優先するように」
俺が言葉を飛ばすと従業員たちは、すぐに元の仕事に戻っていった。そして、小さくヒソヒソ声が見えた。
「あれがノアルジー様?」
「余り、表に出ないって聞いていたけど」
「小さな子どもに見える」
う、うーん。その会話はどうなんだ。この姿はこの姿で舐められるって問題があるなぁ。芋虫姿だと怯えられる事もあるし、うまく行かないモノだよ。
14型の案内でさらに下の階へ降り、そこに作られた部屋へ入る。まさかの3階建てかよッ! 俺の家、どうなってるんだよ。3階が俺の部屋、2階が会議室兼幹部の部屋って感じか。いや、でも2階で働いている人が多かったからさ、2階がノアルジ商会の中心部か。うーん、広くて分かんないや。後で探索しよう。
部屋の中ではキョウのおっちゃんが飯を食って待っていた。いやいや、なんで普通に飯食ってるんだよ。
「あれ? ランの旦那……か?」
もしゃもしゃと謎の肉料理を食べていたキョウのおっちゃんがこちらに気付き声を掛けてきた。
「キョウのおっちゃん、この姿の時はノアルジで頼む」
俺がシュタッと手を上げるとキョウのおっちゃんがフォークを落とした。って、フォークだと? 箸やスプーンは見たことあるけど、フォークは初めて見るな。もしかして、誰かが開発したのか? 俺の知識チートの出番を誰かが奪ったのか!
「ら、ランの旦那、俺はまだおっちゃんって呼ばれるような年じゃ無いんだぜ」
あ、そうなの。ごめんごめん、つい癖で呼んじゃった。
「で、何の用件だい?」
俺の言葉を聞いて、キョウのおっちゃんがハッとしたように頭を振る。どうしたんだぜ。
「ランの旦那、いや、ノアルジーか。大変なんだぜ」
どったの、どったの?
「ノアルジー商会、ここのトップに八常侍からの招集がかかってるんだぜ」
八常侍? 誰?
「トップは俺だけど、どういうこと?」
「ノアルジーの旦那、いや、旦那はおかしい……んだぜ。いやいや、そうじゃないんだぜ。八常侍は、この帝国を裏で支配している奴らなんだぜ」
あら? キョウのおっちゃん、凄い嫌そうな顔になってるな。もしかして、八常侍ってキョウのおっちゃんの敵なのか? まぁ、帝政でトップはゼンラ帝のはずなのに、それを裏で支配している存在が居たら面白くないか。
「このノアルジー商会は大きくなりすぎたんだぜ。しかも、八常侍の存在を無視してなんだぜ。それを面白く思わない奴らは、謎の貴族ノアルジーを招集したって訳なんだぜ」
なるほど。要は賄賂を出せってコトか。何だかなぁ。まぁ、確かに今の商会の状況を聞くと貴族の税金免除を盾に、手を伸ばしまくった感じだもんな。
うーん、凄く面倒臭い。
「今すぐ、行く必要があるのかい?」
俺の言葉にキョウのおっちゃんが首を振る。
「いや、出来るだけ早くして欲しいが、まだ大丈夫なんだぜ。それとノアルジー、出来れば、その姿で来て欲しいんだぜ」
へ? こっち? 芋虫姿だとダメなのか。となると……。
「今から、ちょうど1週間後で大丈夫かな?」
「ああ、それでいいんだぜ。そうなるように俺が上手く誘導しておくんだぜ」
ふむ。まぁ、向こうからの勝手な呼び出しだもんね。日にちくらいは自由にして欲しいもんな。
相手はこの国のトップなんだろうけどさ、俺には関係ないもんね!
2016年5月3日修正
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