6-5 クニエの受難
―1―
「あの、ラン様、自分もよろしいでしょうか……」
疲れ切った声で話しかけてきたのは森人族のクニエさんだった。騎士以外の発言を認めない! ……嘘です。何でしょう?
「換金所の方でも人を増やして欲しいです……」
うわ、クニエさん、やばそう。って、いやいや、勝手に人を増やしたっていいんじゃないの? ダメなの?
「そうです。ラン様の決裁が必要な事項が残ってるんです」
何故かユエも乗っかる。えーっと、勝手にやったらダメなんですか?
「スカイさんのところの冒険者ギルドはラン様が眠られる前に許可が、フルールさんのところもじゃないですか……」
うわぁ、クニエさん、目が、目が怖いよ。そう言えば、換金所の方はクニエさんに任せて放置していたなぁ。
「それでも使える人材が居なければ同じですわぁ」
フルール、お前がそれを言うのか……。
「俺っちのところは、下が俺より有能なのさ」
いや、スカイ君、それ、自慢するところじゃないよね。しかも、空気が読めてないし……。こいつは、もう……。なんで、この犬頭がギルドマスターなんだ。俺か、俺が悪いのか?
『クニエ殿、人はどれくらい必要だ?』
とりあえず人が居るんだよな? うーん、時間が経ちすぎて、俺がどの程度動いて良いのか良くわかんないけどさ、とりあえずそれっぽく行動しておくか。
「狩人の解体スキルを持っている人が最低3人は……。後は、出来ればですけど探求士の下級鑑定スキル持ちも欲しいです……」
ふむふむ。狩人と探求士か。それって冒険者から募ったらダメなのかな?
『スカイ』
俺の天啓を受け、スカイがすぐさま直立し、不安そうにキョロキョロと周囲を見回している。いやいや、そんな慌てて立ち上がらなくても大丈夫だってば。
「ラン様、何です……か? 俺、何もやってませんよ」
はいはい、スカイ君、怯えなくていいからね。というか、何かやっているのか、コイツは。
『冒険者から人を募ることは可能か? 例えば臨時クエストとして、換金所の手伝いをしてもらうようなことは可能か?』
「ラン様、ナイス考えすよー。ノアルジー商会からのクエストとして依頼料が貰えれば可能すよー」
スカイ君がはむはむと牙を覗かせながら頷いている。ふむ。ギルドの依頼として、か。
『ならば、そのように』
「では、私が冒険者ギルドに依頼します」
俺の天啓にユエが頷く。
『そして、使える人材を探し、場合によっては冒険者から引き抜くのも良いだろう』
「ラン様、助かります……」
これで、とりあえず換金所の問題は片付いたか。にしても、人が居ないってのは……うーむ。
『ユエ、使えそうな人材はノアルジ商会へと取り込むように。お前に任せるので、後は上手くやるように』
「了解です」
一件落着っと。こういうのは出来る人に任せるのが1番なんですよー。
―2―
と、そうだ。ノアルジ商会の問題もだけどさ、俺の方の問題もあるんだよ。
『フルール、良いか』
「はいですわぁ。何ですぅ? フルールの功績を認めて歩合を上げて……」
『いや、コレを見て欲しい』
俺は魔法のウェストポーチXLから2つに別れてしまった真銀の槍を取り出す。それを見た瞬間にフルールが悲鳴を上げた。
「フルールの、フルールの傑作がぁぁぁ! 真銀が、こんなにすっぱりぃぃぃぃ」
そうだよな、切れ味が鋭い真銀製品の槍が逆にすっぱりだもんな。どれだけの実力があって、どれだけの獲物があれば出来るんだって話だよな。例えば、俺の真紅妃を使えば、真銀製品を壊すことは出来ると思うけど、さすがにさ、綺麗に切断するのは無理だもんなぁ。
「どうやったら、こんな、こんな、酷いですわぁ」
いや、俺の方がショックだよ。
『直りそうか?』
俺の天啓にフルールが犬頭を横に振る。
「無理ですわぁ。ラン様が、この真銀の槍フルールカスタムに入れていたリペアの魔法が発動していない以上……無理ですわぁ。そこまで徹底的に壊されていては無理ですわぁ」
そう言えばクノエ魔法具店でリペアの魔法を入れて貰っていたな。あー、他にも魔法を付与出来るすんごい武器になっていたのに、ホント、ショックすぎる。改めてショックだよ。
そっかー。
そっかー。
『フルール、この真銀の槍は、また真銀のインゴットに作り直す。また槍を作り直して貰えないだろうか?』
「む、無理ですわぁ。あれほどの傑作と同じようになんて、無理ですわぁ」
フルールとしても真銀の槍は大成功品だったのかな。
『天才のフルールにしては弱気だな』
俺の天啓を受け、フルールがハッとしたように犬頭を振るわせる、そして、睨むようにこちらを見てきた。
「ええ、そうですわぁ。同じ物は無理ですわ。でもでも、それ以上の物なら作って見せますわぁ」
お、ほう。そうかそうか。それなら、安心して任せることが出来るな。と、そうだ。
『ちなみに2つのインゴットを混ぜて効果を上げるようなことは可能か?』
「モノにもよりますわぁ」
「ラン様、それなら俺の方の得意分野です。フルールには指導しておきます」
そこでフエが口を開いた。フエさん、余り喋らないけど、寡黙で頼れるおっさんって感じだよな。いや、確か、まだ若いのか。鍛冶仕事をしているからか、おっさんにしか見えないよなぁ。1年経ってやんちゃな感じからおっさんに進化したよな。1年って怖いッ!
『では、後でインゴットを作成し、14型に渡しておく。それを使って最強の槍を作って欲しい』
「任されましたわぁ!」
「ああ、了解です」
フルールとフエが頷く。さすがに成長する真紅妃が最強だろうけどさ、それでも、それと対を成す武器を作って欲しいんだぜ。頼んだんだぜ。
『と言うことで、外を見て回ってきても良いかな?』
「ダメですー! 最初に決裁をー」
俺の天啓にユエが手を挙げて待ったをかける。あ、手の平に肉球が見える。ホント、猫だな。
「それからで、お願いします。ラン様、お願いします」
うーむ。俺の商会だからなぁ。俺の承認が無いと動かせない部分も結構あったんだろうなぁ。それを回避して――か。ホント、上手く運営していたと思うよ。
まぁ、仕方ない。1年経た世界を見て回るのはその後にするか。コレもトップの務めってヤツだね。いや、つらいわぁー、いつの間にか大商会のトップになってて辛いわぁー。
いや、ホント、なんで、こんなことになってるんだ?