6-4 ノアルジ商会
―1―
翌朝、俺が起きると、すぐ側で14型が立ったまま眠っていた。うお、ちょっと怖いんですけど。しかも、この子、目を開けたまま寝てるよ。というかだね、君は機械なのに寝るんだな。
俺は14型のツインテールの1つを引っ張ってみた。すると14型が突然、跳ね上がった。うお、びっくりした。
「みゃ、みゃすたー、敵ですか!」
お前、本当に機械か? 中に何か人っぽい、精霊とか、そういうファンタジー的なモノが入ってるんじゃないのか?
『いや、朝だ』
「そ、そうですか」
14型が髪を整え、優雅にお辞儀をする。はいはい、朝ですよ。
「では、すぐに皆を集め、準備をします。マスターは、このままお待ち下さい」
はいはい。待ってますよ。しかしまぁ、こう、窓も無い部屋だとさ、監禁されている気分になるよ。
豪華なベッドの上で芋虫スタイルのまま待っていると、すぐに14型が戻ってきた。
「マスター、準備が出来ました」
何だかとても早く戻ってきたな。逆に不安になるんですけど……。
14型の後をついて部屋を出る。そして、そのまま部屋の外周をぐるりと一周し、その先にあった下への階段を降りていく。何だか、俺の部屋に入るためには凄い遠回りしないと駄目なようになってるんですけど、これ、隔離されているのか? にしても、周りが全部通路だったのか、だから、窓が無いんだな。と、この通路の長さだと、俺の部屋の壁って、相当ぶ厚いよな。
階段を降りた先には無数の人が居た。それが全て右と左に別れて綺麗に整列し、しかも頭を下げている。な、なんじゃ、こりゃ。
俺と14型は頭を下げている人たちの集団の中を歩いて行く。えーっと、何だか凄いVIPな感じで対応されてる――のか? にしても人種がバラバラだな。オークやゴブリンなどの魔獣ぽい姿も見えるし、羽の生えた人や角の生えた人、様々な人種が居る。それらがサイズを合わせるように綺麗に並んでお辞儀をしているのは――うーむ。
そして、人によって作られた道の先には大きな扉が有り、俺たちが近づくと中側へと開いていった。
その部屋の中には大きな円卓があり、見覚えのある7人が座っていた。俺の姿に気付いた、その者達が立ち上がり、お辞儀をする。
「マスター、どうぞ、こちらへ」
14型が1番奥の席へと案内する。おー、ちゃんと俺でも座れそうな椅子だ。良きかな、良きかな。
俺は、そのまま椅子に座る。それに合わせて7人が着席した。
俺のすぐ左後ろに控えているのが14型、
そしてその隣でドヤ顔で犬歯を覗かせているのが犬頭のフルール、
その隣に落ち着いた感じのフエさん、
一年の間に何があったのか、すっかり禿げ上がってしまっているポンちゃん、
次が目に隈が出来、やせ細って最初誰か分からなかった換金所で働いて貰っていた森人族のクニエさん、
口笛でも吹いてそうなイタズラ顔を覗かせている犬頭のスカイ、
そして偉そうにふんぞり返っているファット団の親分にして猫人族のファットの兄貴、
その隣、俺の右に位置する場所に片眼がねを付けた猫人族のユエ、
計7人が揃っていた。
というか、なんでファットが居るんだよ。しかも、俺の姿を見てニヤニヤ笑っていやがる。
全員が席に着いたのに合わせて入り口の扉が閉められていく。
―2―
俺の右隣に座っていたユエが起立し、そして、そのまま俺の方へと向き直り、お辞儀をする。すぐに顔を上げ、片眼がねをクイッと直す。
「まずはラン様、ご復帰おめでとうございます。私たち一同、お待ちしておりました」
あ、はい。何だかえらいことになったと思っていたけど、見知った顔が並んでいるとホッとするなぁ。
『ユエ、現状を教えて欲しい』
俺の天啓にユエが頷く。
「まずはノアルジ商会の現状ですが、東と北に手を伸ばし、支店を増やしている状態です。帝国領の各地に支店が増えています」
ほえー。
「今ではホーシアにもあるからよ、びっくりだぜ」
豹のように精悍な猫頭のファットがニヤニヤと笑っている。何だか口ひげを引っ張り上げたい笑顔だ。
「ええ、ホーシアを中心とした海洋国家がノアルジ商会と優先的に取引してくれたお陰で、海産物などの取り扱いが増え、帝国内でのノアルジ商会の立場は強くなりました。そこのニヤニヤしている馬鹿も、ノアルジ商会専属の海洋護衛艦の艦長として雇っています」
「だ、誰が馬鹿よっ!」
ファットが慌てて訂正していた。何だか、凄い仲いいんだけど。というかだね、なんでファットの兄貴、海賊を止めて、俺の商会で働いているの? 意味がわかんないです。
「ラン様が向かわれていた迷宮都市との交流を図るため、交通網を整備し、そちらとの交易も順調です」
「俺の、俺んとこの、冒険者ギルドで護衛の依頼がひっきりなしなんだよ」
何故か犬頭のスカイが得意気だ。へー、ほー。
「ええ、冒険者ギルドの方々の協力もそうですが、西側の建築ギルドなどの協力もあり、綺麗な道が作られたのも大きいと思います。当初は費用を私たちの商会で負担していた為、かなり苦しい時もありましたが、それ以上の見返りがあったと思います」
ほえー。建築ギルドって道も作るのか凄いなぁ。
「そのお陰で食材も色々入ってきてよ、俺の他にも料理人が増えたし、毎日が勉強で楽しいぜ」
「ポンさんには、この本社の社員食堂を経営して貰っています」
ほえー。
「ラン様が帝国の貴族ですので、税金を取られることも無いので、その庇護を目当てに次々と傘下に入る者達が増えています」
ほえー。
「ふっふっふっふ。ラン様ぁ、フルールの作った武具も迷宮都市で有り難がって売れまくっているんですわぁ」
ふーん。
「いや、お前のは武具より装飾品の方が売れているだろ……」
何故か余り喋らないフエさんが突っ込みを入れていた。
「迷宮都市との交易路が復帰したため、こちらからは加工品を、向こうからは素材を、といった流れを作れたのは大きいです」
「それで人が足りないんですわぁ」
「はい……」
疲れ切った顔のクニエさんが何度も頷いている。
ほえー。
ほえー。
ほえー。
と、と、というかだね、君ら、一年で色々やり過ぎだよ、大きくし過ぎだよッ! ノアルジ商会が、もう何の商会か分かんなくなってるじゃん。
『で、結局、ノアルジ商会はどうなっているのだ』
「大きくなったのです」と14型。
「裏で国を支配するという夢が叶いそうです」とユエ。
「おま、そんなことを考えていたのかよ」とファット。
「フルールの鍛冶商会ですわぁ」とフルール。
「大きくなり過ぎだ」とフエ。
「ギルド長、うはうは」とスカイ。
「料理の世界が広がってるぜ」とポンちゃん。
いや、ホント、良くわかんないや。まぁ、何だ、みんなが元気そうで良かったよ。
2016年5月1日修正
参加 → 傘下
2021年5月10日修正
ノアルジー商会 → ノアルジ商会