6-2 考えない芋虫
―1―
気が付くと俺は自室のベッドの上に居た。俺の体型だとうつぶせ状態じゃないと寝られないからなぁ。そのまま手を伸ばし芋虫スタイルに進化する。
ふむ、何だか変わった夢を見ていたような、現実だったような。で、だ。八大迷宮の『名も無き王の墳墓』を攻略して、急いで自宅に戻って、そのまま意識を失ったけどさ、あれからどうなったんだろうか? 死にかけてたバーン君もちょっとだけ気になるし、うーん、一度、迷宮都市に戻るかな? となると今の時間か。
さて、今の時間は何時かな?
ステータスプレート(黒)を確認する。おー、おー、黒だ。夢じゃない、本当に黒だ。ついに俺の手元に戻ってきたんだなぁ。長かった、ここまで長かったよ。って、そうじゃない、時間だ。
今は6時、か。早朝だなぁ。さて、本当にどうしよう。まだ早い時間だから、何か魔法の練習でもして、時間を潰すか?
と、俺が思案していると部屋のドアが大きく開かれた。アレ? 俺の部屋の扉って、あんなに豪華だったか? いや、よく見れば、部屋の造りが変わっている。広くなってるし、調度品も揃ってる。何だ? ココは俺の自室か? 誰かに誘拐された?
「マスター、気が付かれたのですね」
扉を開け、中に入ってきたのは14型だった。凶悪な形の篭手は装備していないようだ。そりゃまぁ、凶悪なサイズにデザインだもん、戦闘中以外は不要だよな。
『14型、ここは?』
俺が14型に天啓を飛ばすと14型が駆け寄ってきた。
「マスターの自室です」
へ?
いやいや、でも、寝る前と今とで、全然、違う場所みたいなんですけど――って、待てよ。も、も、も、もしかして。
『14型、自分はどれくらいの間、眠っていた?』
俺の天啓に、14型が頷き、教えてくれる。
「マスターが眠りにつかれてから、最初の後半の年と前半の年が終わり、次の後半の年も終わろうとしている所です」
前半の年? 後半の年? よく分からないな。
「正確には365日と18時間です」
ん?
ちょっと待て、ちょっと待て。
な、なんだと。
『一年眠っていたというのか?』
俺の天啓に14型が首を横に振る。
「いえ、後半の年と前半の年だそうです」
いや、だから、365日だろ? 一年じゃないのか?
「マスターの中にある魔素の結晶体――こちらで魔石と呼ばれる物にヒビが入っており、その修復に時間がかかったのだと思われるのです」
えーっと、今、何て言いました? 魔石にヒビが入っていた?
ま、まままま、まさか、《変身》した状態で《限界突破》を使ったからか? いやいやいや、そんな……まさか。
『14型、魔石にヒビが入ると、どのような危険がある? そして、それをどうやって見つけたのだ?』
「ヒビが入れば砕ける可能性もあると思うのです。魔石が無くなれば、代わりのモノを入れない限り、今の世界の生き物は死ぬと思うのです。当たり前のことだと思うのですが、やはり眠りすぎたため、知能が低下したのでしょうか? いえ、元からでしたね」
はいはい、やはりって、一言多いよ! って、メチャクチャ危ない状態だったんじゃないか?
やはり《変身》した状態で《限界突破》のスキルを使うのは止めよう。使うなら《変身》を使う前だな。何故か、《変身》スキルを使えば《限界突破》スキルの後遺症を消すことが出来るからな。
「私には魔素の流れを見ることが出来るシステムが組み込まれているのです。それを使ってマスターの体内の流れを見たのです」
そういえば、何だか、前にそんなことを言っていたような気がするな。なるほど、だから、戦闘中でも的確に魔石を砕くんだな。って、砕かれたら、俺はたまったもんじゃ無いんだけどな。
『分かった。ところで部屋の造りが変わっているようだが』
そうなんだよな。部屋が豪華になっているの――すっごい気になります。
「後半の年が終わり、ここの者達が女神の休息日と呼んでいるモノが始まってしまったため、マスターを動かす必要がありました。その際に、部屋をマスターに相応しいモノへと作り替えたのです」
へー、そうなんだ。にしても14型さん、今日はすっごい喋るね。普段は必要最小限しか喋らない感じなのにさ。久しぶりだから、喋ることがたまっていたとか、そんな感じなのか?
―2―
『14型、現状を教えて欲しい』
俺の天啓に14型が首を傾げる。
「マスターが起きられました」
いや、まぁ、そうなんだけどさ。えーっと、聞く内容が大雑把過ぎたか? いや、そうか――迷宮都市のことやバーンのことなんて14型が分かるわけも無いし、その辺は俺が実際に行ってみないとダメか。
『ノアルジ商会はどうなっている?』
「ノアルジー商会は順調です」
そうか、順調かぁ。まぁ、俺の部屋が豪華になるくらいだもんな――って、だから、どう順調なんだよ! ホント、よく分からない。
『分かった。自分の目で確かめよう』
俺が起き上がろうとした所で14型に押さえつけられた。うお、相変わらずの馬鹿力。
「マスターは病み上がりです。まだ休む必要があります。これから食事を持ってこさせるのでゆっくりとおくつろぎ下さい」
くっ、俺は元気になったつもりなんだが――というかだね、俺自身、そんなヤバくなっていたとは思わなかったワケで、休めって言われても納得出来ないんだよ。
まぁ、でも、仕方ない。
とりあえず急ぐ用事があるワケでも無し、今日はゆっくりするか。
じゅ、14型の圧力に屈したわけじゃ無いんだからね!
にしても1年眠っていたのか。なんだかなぁ。その間、食事とか大丈夫だったんだろうか。この世界に点滴とかがあるわけじゃないだろうし――そうだよな、俺、よく生きているよな。どうやって栄養とか取っていたんだろうか。
その間の排泄だって――って、アレ? そう言えば、この世界に来てからトイレに行ったコトって無いな。いやいや、よく考えろ。トイレ自体を見たことが無いぞ。それにバーンの言葉……。体内に魔石? 人も魔石があるのか?
何だか、おかしいぞ。
そうだよ、おかしいよな。なんで、今まで疑問に思わなかったんだ? 何で、それが当たり前だと思い込んでいたんだ?
いや、異世界ぽいもん、それも有りか。