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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
5  名も無き王の墳墓攻略
456/999

5-150 運命を壊す一撃

―1―


 さあ、行くぜ。と、その前に、ちょっと待った! ダークロードさんが律儀に待ってくれている間にもう1個だけ実験だ。

 せっかく右手にファイアーボール、左手にウォーターボールを呼び出したんだ。コレはやるしか無い!


 2つの魔法を合わせた究極の魔法の発動ッ!


 イケる、イケる。


 右手のファイアーボール、左手のウォーターボール、その両方をぶつけるように飛ばす。さあ、発動せよ、消滅魔法ッ!


 しかし、火の球と水の球は、ぶつかりそうになったトコロで弾かれた。アレ? そのまま見当違いの方向へ飛んでいき――壁に当たり、消えた。


 アレ? アレレ?


 こう、何だろう、反射されると終わる的な消滅魔法が発動するとか、大爆発が起こるとか、そういう感じになると思ったのに――何だか、凄いがっかりです。反する属性をぶつけると磁石の同極同士みたいに反発するのか? うーむ、もうちょっと検証したいトコロだ。


 にしても、ダークロードさん、律儀に待ってくれるなぁ。意外といい人なのか?


 ま、まぁ、魔法の実験はまた今度にしよう。この世界で、反する属性が使えるのは俺だけかもしれないし、ゆっくり解析して行こう。


 そうだよな、何故か発動した《変身》スキルの効果時間が残っている間に、このダークロードを倒してしまおう。


 待たせたな、さあ、今度こそ、行くぜ!




―2―


 真紅妃と真銀の槍を手に持ち、ダークロードの前に立つ。足下には折れたバーンの長剣。コレ、バーンが炎を纏わせていた長剣だよな。折られてるじゃん。はい、戦いの邪魔になるからちょっとごめんよ。

 俺は足下に転がっている折れたバーンの長剣をサイドアーム・ナラカで拾い、バーンの元へ投げる。まぁ、生き返ったら修理して貰うんだな! 何だったら、うちの鍛冶士に頼んで修理してやってもいいぞ!


 さあて、次の相手は俺だぜ。俺はバーンとはひと味違うぜ。真紅妃を前に構え、真銀の槍をクルクルと回す。さあ、行くぜッ!


――[エルアイスランス]――


 生まれた無数の尖った木の枝のように鋭い氷の槍がダークロードを襲う。はっはっはっはー、2本の槍で攻撃すると思った? まずは魔法なんだぜ!


 迫る氷の槍を前にしてもダークロードは微動だにしない。アレ?


 氷の槍がダークロードに触れ、そのまま霧散していった。アレ? 効かない?


――[エルファイアランス]――


 炎の槍を生み出し、ダークロードへと投げつける。やはり、ダークロードは微動だにしない。うん?


 炎の槍がダークロードに触れ、そのまま霧散していった。うん? 効かない?


 ちょっと待て、ちょっと待てッ!


 ここは新しく覚えた魔法で無双さしてくれる場面じゃないのか? ちょっと待てよ、それくらいさせてくれよ。


――[エルアクアランス]――


――[エルウッドランス]――


――[エルシャドウボール]――


 次々と魔法を飛ばす。しかし、ダークロードは微動だにしない。へ?


 ダークロードに魔法が次々と当たり、そして霧散していく。へ? 効かない?


 ちょっと待て、ホント、ちょっと待て。今の、この変身した状態って魔法が強化されるって感じだから、それ以外は特に凄くなることは無いんだぞ。そのメリットが削られるってキツくないか? 冗談抜きでヤバくないか?


 ここに来て魔法が効かない魔獣とか、聞いてないんですけど。


 ダークロードは剣を地面に突き立て、直立したまま動かない。魔法無効鎧かよ。後で倒して素材にして、俺の防具にしてやるからなッ!




―3―


 まぁ、騎士鎧だもん――騎士道だよな。武器で倒せ、と。ここは真紅妃と真銀の槍の力を見せる場面だなッ! (魔法が効かないならエンチャントはしない方がいいか)


 ダークロードの元へと駆けていく。喰らえッ!


――《スパイラルチャージ》――


 真銀の槍が螺旋を描き、ダークロードに迫る。まずは俺からの攻撃だぜッ!


 ダークロードが一瞬で両手剣を引き抜き、そのまま螺旋を描く真銀の槍を斬り払う。俺はそれに構わず螺旋を描く。


 アレ?


 鎧を貫いたはずが何も起こらない。アレ? 俺は腕を何度も伸ばす。しかし、手応えがまったく無い。

 ダークロードがゆっくりと一歩下がり、また長剣を地面に突き立てる。


 俺は、ゆっくりと、手元の、真銀の槍を、見る。


 真銀の槍は途中から切断されており、穂先が地面に転がっていた。


 え?


 ええ?


 なんだと……ッ!


 お、俺の、俺の、真銀の槍がッ!


 うわあああああッ!


 こ、コレ、直るよな? 直るよな?


 お、お前、俺が真銀の槍を作るためにどれだけ苦労したか知っているのか? 知ってるのかよッ!


 うわあああああッ!


 こ、この戦いに勝ったらフルールに相談しよう。直るよな? 天才フルールなら直してくれるよな?


 俺は真銀の槍だったものをバーンの元に投げる。戦いの邪魔になるからね……うん。バーン、預かっておいてくれ。


 次は真紅妃か。さすがに真紅妃が切断されることは無いだろけど、気をつけないとな。


 と、そこでダークロードが初めて自分から反応を見せた。何かに気付いたのか、真紅妃を見て笑っている気がする。いや、騎士兜だから表情なんて見えないんだけどな。


 ダークロードが長剣を引き抜き、そのままゆっくりと後退する。ふ、どうしたよ、俺の真紅妃を見て、怖じ気づいたか?


 ダークロードが長剣を正眼に構える。


 そのまま、その場で剣を振るい始めた。横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、斬り上げ、そして突き。星を描くような剣の軌跡。流れるような一連の連続技。全ての行動が最後の突きに繋げるための動作になっている――のか? 何で、技を披露したんだ?


 ダークロードが再度、長剣を正眼に構える。


 もう一度、同じように先程の技を繰り出す。星を描くような連続攻撃。バーンは、この突きにやられたのか? 多分、そうだろうな。


 ダークロードが技を出し終え、再度、長剣を正眼に構える。何、そのドヤ顔みたいな感じは。俺の技は凄いんだぜ、とでも言いたいのか?


 付き合ってられるか。行くぜ、真紅妃。俺の真紅妃の方がもっと凄いんだからなッ!


 真紅妃を構え、ダークロードへと駆ける。その瞬間だった。俺の目の前に赤い線が真横へと走る。危険感知? って、早いッ! 超知覚スキルでゆっくりになった世界でも、ダークロードの長剣が殆ど見えないくらいの速度で迫る。


 俺は、とっさに真紅妃を縦に構えるのが精一杯だった。真紅妃がダークロードの長剣を受け止める。しかし、俺自身がその力に耐えきれず吹き飛ばされる。


 俺の体が宙を舞う。


――《浮遊》――


 《浮遊》スキルを使い、空中で制止し、そのまま、ゆっくりと降りる。何て速度だよッ! コレ、勝てるのか? ちょっと不安になってきたんだけど……。




―4―


 ダークロードは長剣を地面に突き立てたまま動かない。追い打ちを掛けられていたら、終わっていたかもしれないな。くそっ、余裕かよッ!


 俺は再度、真紅妃を構える。次は《飛翔》スキルで突っ込むか? 突っ込んだ、その勢いのままスライスされそうで怖いなぁ。


 と、そこで何を思ったのか、ダークロードが手に持った長剣を、こちらへと投げてきた。へ? どういうコト?


 長剣が舞台の上に刺さる。えーっと、なんで武器を捨てた? 戦いを放棄したのか? いや、考えるな、コレはチャンスだッ! イケる、イケるぜ!


――《飛翔》――


 真紅妃を構え、《飛翔》スキルで一気に間合いを詰める。イケるぞッ! 喰らえッ!


――《スパイラルチャージ》――


 真紅妃が赤と黒の螺旋を描き、そして、宙を舞っていた。え?


 真紅妃がクルクルと宙を舞っている。その真紅妃には見覚えのある白いてぶくろが付いていた。

 俺の目の前には交差した2本の剣。


 ダークロードが2本の剣を振り払い、血飛沫を飛ばし、その腰に剣を戻す。


 え?


 え?


 宙を舞っていた真紅妃が俺を飛び越え地面に刺さる。


 そして、俺の視界は赤く染まった。


 あ、ああ、あああああああッ!


 俺の腕が、俺の手が、血が、血が、あああッ!


 見れば、真紅妃を持っていたはずの俺の右手が切断され、無くなり、そこから赤と黒、そして緑の混じった血が溢れだしていた。痛い、痛い、腕が、腕が、痛い。


――《魔法糸》――


 俺は痛みを堪え、とっさに《魔法糸》を背後に飛ばし、距離を取る。腕が、腕が、腕が。


 俺はダークロードを睨み付ける。はぁ、はぁ、はぁ、よ、よくも、やってくれたな。くそっ、てぶくろ、防御効果が全然無いじゃないか。あっさり斬られやがって……。


 ダークロードが何故か、こちらを指差す。いや、俺じゃないのか、先程、投げた長剣か? その長剣が何だってんだよ。


 あー、くそっ。俺の腕、くっつくかな。


 舞台に刺さっている真紅妃には、俺の手が、握った形のままくっついていた。あー、くそっ、サイドアームに持たせていたら、こんなことにはならなかったのに、くそっ。


 切り離された手と腕をくっつける。


――[エルキュアライト]――


 癒やしの光に包まれ、腕に走っていた線が消えていく。あ、くっつきそう。バーンがキュアライトの魔法を覚えていて良かったッ!


 俺は回復魔法によって、くっついた腕を確認する。ぐー、ぱーぐー、ぱー。よし、問題なく動くな。あー、もう、元に戻らなかったら、どうしてくれるんだよッ!




―5―


 ダークロードは、その場から動かず、投げた長剣を指差したままだ。だから、コレをどうしろって言うんだ?


 もしかして、使えって言っているのか?


 赤い瞳で舞台に突き刺さっている長剣を見る。


【バックウォーターソード】

【背水の陣だぜ】


 ……。


 なんじゃ、こりゃ。解説が解説になっていない。


 俺は刺さった長剣を引き抜く。う、結構、重い。とっさに両手で持ち直す。


 俺が長剣を引き抜いたのを確認したからか、ダークロードが腰に下げた2本の剣を引き抜く。


 ははは、剣でやり合おうってか。


 赤い瞳でダークロードの剣を見る。


【竜泉の剣・八束】

【りゅうぜんのけんやつか】


 握りが長い方が八束、か。にしても解説が解説になっていないな。何だろう、無理矢理、読み取っているような、そんな印象を受ける。で、もう一つは?


【竜泉の剣・船穂】

【りゅうぜんのけんふなほ】


 今度は逆に刃の部分が長いな。何というか、両方とも古くさいというか、神話とかに出てきそうな形の剣だな。青銅剣とか、そんな感じだよな。


 にしても、剣技なんて《ゲイルスラスト》しか覚えてないぞ。どう戦う? どうする、どうする?


 いや、考えるな。今、出来ることをッ!


 バックウォーターソードを水平に構え、駆ける。


 俺の視界に高速で赤い線が走る。ホント、早い。


――《集中》――


――《飛翔》――


 集中し、《飛翔》スキルを細かく制御しながら、赤い線を避けるように動く。俺が抜けた先を、赤い線とほぼ変わらぬ速度で2つの剣が走っていく。


 赤い線の結界を抜ける。ここだッ!


――《ゲイルスラスト》――


 水平に構えたバックウォーターソードが弾丸のように走る。そのままの勢いでダークロードの胸元に、騎士鎧の中心に、魔石があるであろう最もSPの少ない部分を狙って走る。


 いけぇぇぇッ!


 バックウォーターソードが騎士鎧を凹ま……そこで交差した2本の剣によって弾き返される。いや、ただでは終わらないぜ。


――《ウェポンブレイク》――


 触れた2本の剣にウェポンブレイクのスキルを当てる。闘技場でもフェンリル相手に使った戦法だぜ! 武器が無くなれば、俺の勝ちだッ! 何度だって繰り返してやるッ!

 しかし、ウェポンブレイクの手応えが返ってこない。そのままバックウォーターソードごと俺の体が弾き飛ばされる。


――《浮遊》――


 《浮遊》スキルを使い、体勢を整え直し、着地する。何だ? も、もしかしてウェポンブレイクが効かない? いやいや、これ、どうするんだよ?


 ちょっと強すぎないか? 逃げるか? いや、でも、背後の道は閉じられているし――どうする、どうする?


 ダークロードがクルクルと2本の剣を回し、腰に収める。追撃をしてこないのだけが救いか。


 魔法は効かない。俺の技が通じない。相手の剣技は達人級……、いや、ホント、コレ、どうするんだ。

 さすがに変身の効果時間はまだ充分残っているけどさ、変身しているからってどうにかなるような相手じゃないぞ。




―6――


 ダークロードが何も持っていない手で武器を振っている真似をしている。何、それ? エア剣術? それとも何か練習をしているのか?


 横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、突き。流れるような動作。ホント、全てが繋がって、そこまでが1つの剣技って感じだな。生前は、凄い練習したんだろうなぁ。って、生前って。こいつは、こういう形で生まれた魔獣だろうに、俺は何を考えているんだか。


 ん?


 ちょっと、待てよ。


 行けるか?


 いや、コレは、うん。


 そうだよな。


 コレで失敗したら、負け確定。でもさ、このままでは俺の勝ちの目なんて無いんだ。それなら、少しでも勝てる方に挑戦するべきじゃないのか?


 そうだよな。


 ぶっつけ本番結構。


 俺の持てる全力で一撃に掛ける。


 俺は騎士鎧に――ダークロードにバックウォーターソードの切っ先を向ける。それを見て、ダークロードが繰り返していた動きを止め、腰の剣を引き抜く。


 俺は、まだまだ追い詰められていなかったようだ。うん、これからが本気の本気ってヤツだね。


――《限界突破(リミットブレイク)》――


 変身した状態での初めての限界突破(リミットブレイク)。俺の心が、体の中にあるであろう魔石が大きく跳ねる。体の奥から湧き上がる全能感。


――《集中》――


 集中する。失敗は許されない。動きはしっかり見たはずだ。俺なら出来る。流れを、動きを――想像する。


 行くぜッ!


――《飛翔》――


 俺の周囲に赤い線が走る。見える。ここから、ここを抜けてッ!


 走る2本の剣を抜ける。


【《フェイトブレイカー》が開花しました】


――《フェイトブレイカー》――


 バックウォーターソードが動く。俺の想像したとおりに、俺が見ていたとおりに、ダークロードの剣技そのままに。


 水平斬り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし。星を描くような流れる動作――ダークロードがその勢いに押され動きを止める。

 左手を開き伸ばす。そして、そのまま片手で、右手で、突きを放つ。描いた星が砕け散り、バックウォーターソードが騎士鎧を、ダークロードを、その体の魔石を貫いた。

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