5-150 運命を壊す一撃
―1―
さあ、行くぜ。と、その前に、ちょっと待った! ダークロードさんが律儀に待ってくれている間にもう1個だけ実験だ。
せっかく右手にファイアーボール、左手にウォーターボールを呼び出したんだ。コレはやるしか無い!
2つの魔法を合わせた究極の魔法の発動ッ!
イケる、イケる。
右手のファイアーボール、左手のウォーターボール、その両方をぶつけるように飛ばす。さあ、発動せよ、消滅魔法ッ!
しかし、火の球と水の球は、ぶつかりそうになったトコロで弾かれた。アレ? そのまま見当違いの方向へ飛んでいき――壁に当たり、消えた。
アレ? アレレ?
こう、何だろう、反射されると終わる的な消滅魔法が発動するとか、大爆発が起こるとか、そういう感じになると思ったのに――何だか、凄いがっかりです。反する属性をぶつけると磁石の同極同士みたいに反発するのか? うーむ、もうちょっと検証したいトコロだ。
にしても、ダークロードさん、律儀に待ってくれるなぁ。意外といい人なのか?
ま、まぁ、魔法の実験はまた今度にしよう。この世界で、反する属性が使えるのは俺だけかもしれないし、ゆっくり解析して行こう。
そうだよな、何故か発動した《変身》スキルの効果時間が残っている間に、このダークロードを倒してしまおう。
待たせたな、さあ、今度こそ、行くぜ!
―2―
真紅妃と真銀の槍を手に持ち、ダークロードの前に立つ。足下には折れたバーンの長剣。コレ、バーンが炎を纏わせていた長剣だよな。折られてるじゃん。はい、戦いの邪魔になるからちょっとごめんよ。
俺は足下に転がっている折れたバーンの長剣をサイドアーム・ナラカで拾い、バーンの元へ投げる。まぁ、生き返ったら修理して貰うんだな! 何だったら、うちの鍛冶士に頼んで修理してやってもいいぞ!
さあて、次の相手は俺だぜ。俺はバーンとはひと味違うぜ。真紅妃を前に構え、真銀の槍をクルクルと回す。さあ、行くぜッ!
――[エルアイスランス]――
生まれた無数の尖った木の枝のように鋭い氷の槍がダークロードを襲う。はっはっはっはー、2本の槍で攻撃すると思った? まずは魔法なんだぜ!
迫る氷の槍を前にしてもダークロードは微動だにしない。アレ?
氷の槍がダークロードに触れ、そのまま霧散していった。アレ? 効かない?
――[エルファイアランス]――
炎の槍を生み出し、ダークロードへと投げつける。やはり、ダークロードは微動だにしない。うん?
炎の槍がダークロードに触れ、そのまま霧散していった。うん? 効かない?
ちょっと待て、ちょっと待てッ!
ここは新しく覚えた魔法で無双さしてくれる場面じゃないのか? ちょっと待てよ、それくらいさせてくれよ。
――[エルアクアランス]――
――[エルウッドランス]――
――[エルシャドウボール]――
次々と魔法を飛ばす。しかし、ダークロードは微動だにしない。へ?
ダークロードに魔法が次々と当たり、そして霧散していく。へ? 効かない?
ちょっと待て、ホント、ちょっと待て。今の、この変身した状態って魔法が強化されるって感じだから、それ以外は特に凄くなることは無いんだぞ。そのメリットが削られるってキツくないか? 冗談抜きでヤバくないか?
ここに来て魔法が効かない魔獣とか、聞いてないんですけど。
ダークロードは剣を地面に突き立て、直立したまま動かない。魔法無効鎧かよ。後で倒して素材にして、俺の防具にしてやるからなッ!
―3―
まぁ、騎士鎧だもん――騎士道だよな。武器で倒せ、と。ここは真紅妃と真銀の槍の力を見せる場面だなッ! (魔法が効かないならエンチャントはしない方がいいか)
ダークロードの元へと駆けていく。喰らえッ!
――《スパイラルチャージ》――
真銀の槍が螺旋を描き、ダークロードに迫る。まずは俺からの攻撃だぜッ!
ダークロードが一瞬で両手剣を引き抜き、そのまま螺旋を描く真銀の槍を斬り払う。俺はそれに構わず螺旋を描く。
アレ?
鎧を貫いたはずが何も起こらない。アレ? 俺は腕を何度も伸ばす。しかし、手応えがまったく無い。
ダークロードがゆっくりと一歩下がり、また長剣を地面に突き立てる。
俺は、ゆっくりと、手元の、真銀の槍を、見る。
真銀の槍は途中から切断されており、穂先が地面に転がっていた。
え?
ええ?
なんだと……ッ!
お、俺の、俺の、真銀の槍がッ!
うわあああああッ!
こ、コレ、直るよな? 直るよな?
お、お前、俺が真銀の槍を作るためにどれだけ苦労したか知っているのか? 知ってるのかよッ!
うわあああああッ!
こ、この戦いに勝ったらフルールに相談しよう。直るよな? 天才フルールなら直してくれるよな?
俺は真銀の槍だったものをバーンの元に投げる。戦いの邪魔になるからね……うん。バーン、預かっておいてくれ。
次は真紅妃か。さすがに真紅妃が切断されることは無いだろけど、気をつけないとな。
と、そこでダークロードが初めて自分から反応を見せた。何かに気付いたのか、真紅妃を見て笑っている気がする。いや、騎士兜だから表情なんて見えないんだけどな。
ダークロードが長剣を引き抜き、そのままゆっくりと後退する。ふ、どうしたよ、俺の真紅妃を見て、怖じ気づいたか?
ダークロードが長剣を正眼に構える。
そのまま、その場で剣を振るい始めた。横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、斬り上げ、そして突き。星を描くような剣の軌跡。流れるような一連の連続技。全ての行動が最後の突きに繋げるための動作になっている――のか? 何で、技を披露したんだ?
ダークロードが再度、長剣を正眼に構える。
もう一度、同じように先程の技を繰り出す。星を描くような連続攻撃。バーンは、この突きにやられたのか? 多分、そうだろうな。
ダークロードが技を出し終え、再度、長剣を正眼に構える。何、そのドヤ顔みたいな感じは。俺の技は凄いんだぜ、とでも言いたいのか?
付き合ってられるか。行くぜ、真紅妃。俺の真紅妃の方がもっと凄いんだからなッ!
真紅妃を構え、ダークロードへと駆ける。その瞬間だった。俺の目の前に赤い線が真横へと走る。危険感知? って、早いッ! 超知覚スキルでゆっくりになった世界でも、ダークロードの長剣が殆ど見えないくらいの速度で迫る。
俺は、とっさに真紅妃を縦に構えるのが精一杯だった。真紅妃がダークロードの長剣を受け止める。しかし、俺自身がその力に耐えきれず吹き飛ばされる。
俺の体が宙を舞う。
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使い、空中で制止し、そのまま、ゆっくりと降りる。何て速度だよッ! コレ、勝てるのか? ちょっと不安になってきたんだけど……。
―4―
ダークロードは長剣を地面に突き立てたまま動かない。追い打ちを掛けられていたら、終わっていたかもしれないな。くそっ、余裕かよッ!
俺は再度、真紅妃を構える。次は《飛翔》スキルで突っ込むか? 突っ込んだ、その勢いのままスライスされそうで怖いなぁ。
と、そこで何を思ったのか、ダークロードが手に持った長剣を、こちらへと投げてきた。へ? どういうコト?
長剣が舞台の上に刺さる。えーっと、なんで武器を捨てた? 戦いを放棄したのか? いや、考えるな、コレはチャンスだッ! イケる、イケるぜ!
――《飛翔》――
真紅妃を構え、《飛翔》スキルで一気に間合いを詰める。イケるぞッ! 喰らえッ!
――《スパイラルチャージ》――
真紅妃が赤と黒の螺旋を描き、そして、宙を舞っていた。え?
真紅妃がクルクルと宙を舞っている。その真紅妃には見覚えのある白いてぶくろが付いていた。
俺の目の前には交差した2本の剣。
ダークロードが2本の剣を振り払い、血飛沫を飛ばし、その腰に剣を戻す。
え?
え?
宙を舞っていた真紅妃が俺を飛び越え地面に刺さる。
そして、俺の視界は赤く染まった。
あ、ああ、あああああああッ!
俺の腕が、俺の手が、血が、血が、あああッ!
見れば、真紅妃を持っていたはずの俺の右手が切断され、無くなり、そこから赤と黒、そして緑の混じった血が溢れだしていた。痛い、痛い、腕が、腕が、痛い。
――《魔法糸》――
俺は痛みを堪え、とっさに《魔法糸》を背後に飛ばし、距離を取る。腕が、腕が、腕が。
俺はダークロードを睨み付ける。はぁ、はぁ、はぁ、よ、よくも、やってくれたな。くそっ、てぶくろ、防御効果が全然無いじゃないか。あっさり斬られやがって……。
ダークロードが何故か、こちらを指差す。いや、俺じゃないのか、先程、投げた長剣か? その長剣が何だってんだよ。
あー、くそっ。俺の腕、くっつくかな。
舞台に刺さっている真紅妃には、俺の手が、握った形のままくっついていた。あー、くそっ、サイドアームに持たせていたら、こんなことにはならなかったのに、くそっ。
切り離された手と腕をくっつける。
――[エルキュアライト]――
癒やしの光に包まれ、腕に走っていた線が消えていく。あ、くっつきそう。バーンがキュアライトの魔法を覚えていて良かったッ!
俺は回復魔法によって、くっついた腕を確認する。ぐー、ぱーぐー、ぱー。よし、問題なく動くな。あー、もう、元に戻らなかったら、どうしてくれるんだよッ!
―5―
ダークロードは、その場から動かず、投げた長剣を指差したままだ。だから、コレをどうしろって言うんだ?
もしかして、使えって言っているのか?
赤い瞳で舞台に突き刺さっている長剣を見る。
【バックウォーターソード】
【背水の陣だぜ】
……。
なんじゃ、こりゃ。解説が解説になっていない。
俺は刺さった長剣を引き抜く。う、結構、重い。とっさに両手で持ち直す。
俺が長剣を引き抜いたのを確認したからか、ダークロードが腰に下げた2本の剣を引き抜く。
ははは、剣でやり合おうってか。
赤い瞳でダークロードの剣を見る。
【竜泉の剣・八束】
【りゅうぜんのけんやつか】
握りが長い方が八束、か。にしても解説が解説になっていないな。何だろう、無理矢理、読み取っているような、そんな印象を受ける。で、もう一つは?
【竜泉の剣・船穂】
【りゅうぜんのけんふなほ】
今度は逆に刃の部分が長いな。何というか、両方とも古くさいというか、神話とかに出てきそうな形の剣だな。青銅剣とか、そんな感じだよな。
にしても、剣技なんて《ゲイルスラスト》しか覚えてないぞ。どう戦う? どうする、どうする?
いや、考えるな。今、出来ることをッ!
バックウォーターソードを水平に構え、駆ける。
俺の視界に高速で赤い線が走る。ホント、早い。
――《集中》――
――《飛翔》――
集中し、《飛翔》スキルを細かく制御しながら、赤い線を避けるように動く。俺が抜けた先を、赤い線とほぼ変わらぬ速度で2つの剣が走っていく。
赤い線の結界を抜ける。ここだッ!
――《ゲイルスラスト》――
水平に構えたバックウォーターソードが弾丸のように走る。そのままの勢いでダークロードの胸元に、騎士鎧の中心に、魔石があるであろう最もSPの少ない部分を狙って走る。
いけぇぇぇッ!
バックウォーターソードが騎士鎧を凹ま……そこで交差した2本の剣によって弾き返される。いや、ただでは終わらないぜ。
――《ウェポンブレイク》――
触れた2本の剣にウェポンブレイクのスキルを当てる。闘技場でもフェンリル相手に使った戦法だぜ! 武器が無くなれば、俺の勝ちだッ! 何度だって繰り返してやるッ!
しかし、ウェポンブレイクの手応えが返ってこない。そのままバックウォーターソードごと俺の体が弾き飛ばされる。
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使い、体勢を整え直し、着地する。何だ? も、もしかしてウェポンブレイクが効かない? いやいや、これ、どうするんだよ?
ちょっと強すぎないか? 逃げるか? いや、でも、背後の道は閉じられているし――どうする、どうする?
ダークロードがクルクルと2本の剣を回し、腰に収める。追撃をしてこないのだけが救いか。
魔法は効かない。俺の技が通じない。相手の剣技は達人級……、いや、ホント、コレ、どうするんだ。
さすがに変身の効果時間はまだ充分残っているけどさ、変身しているからってどうにかなるような相手じゃないぞ。
―6――
ダークロードが何も持っていない手で武器を振っている真似をしている。何、それ? エア剣術? それとも何か練習をしているのか?
横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、突き。流れるような動作。ホント、全てが繋がって、そこまでが1つの剣技って感じだな。生前は、凄い練習したんだろうなぁ。って、生前って。こいつは、こういう形で生まれた魔獣だろうに、俺は何を考えているんだか。
ん?
ちょっと、待てよ。
行けるか?
いや、コレは、うん。
そうだよな。
コレで失敗したら、負け確定。でもさ、このままでは俺の勝ちの目なんて無いんだ。それなら、少しでも勝てる方に挑戦するべきじゃないのか?
そうだよな。
ぶっつけ本番結構。
俺の持てる全力で一撃に掛ける。
俺は騎士鎧に――ダークロードにバックウォーターソードの切っ先を向ける。それを見て、ダークロードが繰り返していた動きを止め、腰の剣を引き抜く。
俺は、まだまだ追い詰められていなかったようだ。うん、これからが本気の本気ってヤツだね。
――《限界突破》――
変身した状態での初めての限界突破。俺の心が、体の中にあるであろう魔石が大きく跳ねる。体の奥から湧き上がる全能感。
――《集中》――
集中する。失敗は許されない。動きはしっかり見たはずだ。俺なら出来る。流れを、動きを――想像する。
行くぜッ!
――《飛翔》――
俺の周囲に赤い線が走る。見える。ここから、ここを抜けてッ!
走る2本の剣を抜ける。
【《フェイトブレイカー》が開花しました】
――《フェイトブレイカー》――
バックウォーターソードが動く。俺の想像したとおりに、俺が見ていたとおりに、ダークロードの剣技そのままに。
水平斬り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし。星を描くような流れる動作――ダークロードがその勢いに押され動きを止める。
左手を開き伸ばす。そして、そのまま片手で、右手で、突きを放つ。描いた星が砕け散り、バックウォーターソードが騎士鎧を、ダークロードを、その体の魔石を貫いた。