5-145 名も無き王の墳墓最下層
―1―
バーンたちのパーティが去った後にはドリアードの死骸だけが残っていた。
俺は14型に頼み、魔石を回収して貰う。さあて、魔石を回収した後の死骸はどうしようかな? これ、もしかして木材として何かの素材になるのかなぁ。でもさ、人型が埋まってますよ? 木の中に人型がありますよ? う、うーん、ま、まぁ、考えるのは俺じゃ無いし、後でクニエさんに渡そう。もうね、後は専門家に任せればオッケーって凄い楽だよなぁ。いつの間にか、そんな感じになって、ホント、俺も偉くなったもんだぜッ!
と言うワケで、ドリアードの死骸を魔法のウェストポーチXLに入れてっと。
さあて、どうしよう。
とりあえず洋館の中に入るか。にしても近寄って見てみて改めて思うんだけどさ、コレ、見れば見るほど殺人事件でも起きそうな洋館だよなぁ。
とりあえず中に入るか。ん? 扉が閉まっているな。さっきバーンたちのパーティが出てきたはずなのにさ、いつ、閉まったんだ? まぁ、いい、考えるより開けるか、だな。
扉に両手を押しつけ、そのまま倒れ込むように扉を開ける。だってさー、この体型で扉を開けるのなんてキツいんだぜ。って、14型に開けて貰えば良かったのか? ま、いいか。
そのまま扉を開けきり、俺は前へ倒れ込み、芋虫スタイルで館の中に入る。
中は……?
普通にエントランスか。ん? 中は結構明るいな。俺は上を見る。なるほど、天井にある大きなシャンデリアに火が灯っているのか。
下には赤い絨毯――いや、ホント、洋館って感じだなぁ。正面に大きな鏡、それを挟むように2階へ上がる階段があって、左右に扉か。右側が大きな扉、左側が小さな扉、か。さあ、どうしよう。
にしても、大きな鏡だよな。入ってすぐの正面にあるんだから目につくよなぁ。この世界の洋館は、こう造らないと駄目って、そんな決まりでもあるのかってくらい、グリフォンに破壊される前の我が家にそっくりだな。でも、あの時は鏡なんて無かったよな? 確か、正面にも扉があって談話室みたいな部屋に通じていたような。
……。
もしかして、先に進む道があるのか? いやいや、そんな以前の俺の家と同じ造りとか、そんな偶然があるワケ無いよな。だってさ、同じ造りだったら、その関係性を考えちゃうじゃん。
鏡に近寄り、触れてみる。すると俺の手が鏡をすり抜けた。そして、そのまま鏡に吸い込まれていく。うぉ、コレ、不味い、か。手を引き抜こうと力を入れるが、引きずり込む力の方が強く、俺の体が鏡の中へと吸い込まれていく。
―2―
気付くと、俺は見知らぬ部屋に居た。何処だ、ここ? 余り広くない部屋だな。正面には細長い通路――そして、後ろを振り返って見れば大きな鏡が立て掛けられていた。しかも、その鏡には14型が映し出されている。うん? 向こう側の世界なのか?
鏡の向こうでは、14型が必死に鏡を叩いている。いやいや、お前、何やっているんだよ。鏡が壊れたら戻れなくなるんじゃないか? 洒落にならないから止めてくれ。
とりあえず、向こう側に戻れるか、試してみるか。
立て掛けられた鏡に触れてみる。
……。
しかし、何も起こらなかった。うーむ、一方通行か。うーん、余りにも考え無しの行動だったかなぁ。14型が入ってこられないってのも、ちょっとヤバいよな。
14型が鏡を叩き続けている。にしても、14型の怪力でも破壊出来ない鏡、か。
しかし、急に暗くなったなぁ。って、アレ? もしかして羽猫が居ない? まさか、羽猫も向こう側に取り残されたのか?
鏡の向こうを見ると14型の足下に羽猫が居た。
なるほど、完全に俺1人か。羽猫と14型は気になるが、こちらからはどうしようも出来ないな。
……ここに居ても仕方ない。進むか。
薄暗い通路を進んで行くと、それに併せて天井に明かりが灯っていく。えーっと、コレ、いかにも最後って感じの演出なんですが、まさか、まさか、もしかして、1人でしか戦えないってこういうことか? 本当にラストなのか?
さらに薄暗い通路を進むと、通路の先が階段になっていた。本当に10階層への通路だったみたいだな。うーん、このまま『名も無き王の墳墓』のボス戦かぁ。全然、心構えも準備も出来てないんですけど、ホント、どうしよう。
滑るように階段を降りていくと、まるで勝手口のような扉が見えてきた。そして、その扉の横には看板と見覚えのある台座があった。あ、台座じゃん。もしかして、ここから戻れるのか?
何だ、とても親切な迷宮じゃないか。
とりあえず台座に触れて何時でも帰れるようにするか。
俺が台座に触れると5つの画像が浮かび上がった。うん、登録完了。てっきり一方通行とか、そういうのもあるかなぁって思ったら普通に行き来できるのかよ。って、コトは、ここでパーティメンバーを連れてくれば『名も無き王の墳墓』のボスとパーティを組んだまま戦えるんじゃ無いか?
さてと、どうしようか。
う、うん。とりあえず戻れるようになったしさ、看板に書かれた文字でも読むか。何で迷宮に看板があるんだろうなぁ。えーっと、何々?
営業時間18:00~28:00
パーティを組まず、お一人でのご来店をお待ちしています。
……。
何だ、コレ? 営業時間の意味も分からないけど、来店って何だよ。ここはお店か? お店なのか?
まぁいい。一度戻って14型と羽猫を回収するか。その後、自宅に戻って、それからこの先に進むかなぁ。にしても、7階層からが本番で、落とし穴やパーティを惑わすような罠が出始めるって聞いていたのにさ、全然、遭遇しなかったなぁ。もっと、色々と探索していたら遭遇したのかな?
って、9階層に戻るってコトは、あの橋を俺1人で渡るのか? うーん、結構、大変そうだ。