5-143 名も無き王の墳墓9階層
―1―
まずは黒い球体を何とかしないと駄目か。
黒い球体が再度、黒く放電する。一瞬の出来事に俺は回避することも出来ず、その身に黒い雷を受けてしまう。
……。
アレ? 全然、痛くない。何も起こらないぞ。見かけ倒しか? とりあえずサクッと攻撃してしまうか。
真銀の槍で黒い球体を貫く。しかし、真銀の槍は何も無い空間を突いたかのように黒い球体をすり抜けた。へ? 攻撃が効かない? そして、そのまま黒い球体が大きく膨らみ放電する。うひぃぃ、ビリビリす……しない。何だ、コレ? 全然、効かないんだけど。と、とりあえず真紅妃で突いてみるか。
黒い球体を真紅妃で貫くと、あっさり黒い球体が弾け飛んだ。あ、真紅妃だと攻撃が通るんだな。って、やけにあっさり終わったな。
「マスター、また油断を」
14型が声を掛けてくる。ああ、そう言えば黒い球体だけじゃなくてローブを着た骸骨も居たか。
ローブを着た骸骨が手を掲げ黒い炎を生み出していく。
――[ウォーターミラー]――
目の前に水の鏡を張り、ローブを着た骸骨が生み出した黒い炎を跳ね返す。跳ね返った黒い炎がローブを着込んだ骸骨を包み込む。しかし、燃えもしなければ、効いてる感じも無い。
闇属性の魔法ぽいから、闇の属性を持った魔獣には効かないのか? うーん。魔獣は自身が持った属性で攻撃してくるから、反射してもさ、吸収されるか無効化するだけだよな――と考えると魔法反射も結構微妙か。まぁ、攻撃を食らわないだけがメリットか。いや、それ、かなり重要か。
と、考えている場合か。黒い球体に続いて、ローブを着た骸骨も倒さないとな。
――[ウォーターミラー]――
再度、飛んできた黒い炎を跳ね返す。俺は、そのまま黒い炎を追いかけるように駆ける。
――[アイスウェポン]――
真銀の槍が氷に覆われていく。そのままッ!
氷の覆われた真銀の槍を叩き付ける。すると、ローブを着た骸骨は簡単に砕け散った。骨には打撃だよな!
もう1体のローブを着た骸骨には真紅妃を叩き付ける。真紅妃によってローブを着た骸骨が粉々になる。こっちも一撃か。まぁ、骨だからな。はい、楽勝っと。思ったよりも楽に勝てたな。
14型が砕けた骸骨から左手1本で器用に魔石を取り出している。14型、もう腕は大丈夫なのか。にしても、俺には何も効果が無かったのに、14型はダメージを受けているってのもなぁ。雷で痺れたのか、と思ったけどさ、黒い雷だからか、電気的な何かってワケでも無かったようだし、うーん、謎だ。ホント、謎ばかり増えて解明されないことばかりだよ。
―2―
さらに橋を進むと開かれた大きな扉を構えた門が見えてきた。えーっと、ココって地下だよな。9階層だから、かなり深く潜ったはずだけどさ、地底に城でもあるのか? ここからまだまだ続くのか?
門の横には何かが置いてあったであろう大きな台座があるな。もしかしたらガーゴイルみたいなのが居て、近寄ったら動き出して攻撃してくる、とか、そんな感じの罠でもあったのかな。
門をくぐると何やら殺人事件でも起きそうな洋館が見えてきた。そんなに大きな建物じゃないのが救いか。いやいや、でもさ、迷宮の中にさ、地下に洋館があるってどうよ。おかしいよな、絶対におかしいよな? うーん、羽猫の明かりだけだと洋館の詳しい造りは見えないなぁ。まぁ、でもさ、ここまで一本道だし、ここを攻略しろってコトだよな。
門から洋館までの通り道には怪しげな植木も並んでいる。こう見ると、ホント、地下とは思えないな。で、問題は、この植木だよなぁ。なんで魔獣って線が伸びているんだろうな。まぁ、地下に普通の木が生えているワケが無いもんな。こういうオチだよな。水と風の属性は効くのかな? まぁ、攻撃を仕掛けられる前に先制攻撃だよなッ!
――[アイスランス]――
俺の手から木の枝のように尖った氷の槍が伸びていく。そして、そのまま魔獣という線が伸びている、俺の目の前の木を貫く。が、その瞬間、氷の枝が霧散した。あ、氷、効かない系の魔獣でしたか。
左右3ずつ、並んでいた6本の木々が一斉に動き始め、ぐるりと向きを変える。そこには裸の女性に木の枝が絡みついたかのような姿があった。ドリアードか何かか?
手前のドリアードが木の枝を伸ばし、鞭のようにしならせ襲いかかって来る。奥の方のドリアードは何やら呪文を唱え始めていた。
俺は、とりあえず手前の1体へと駆ける。
『14型』
俺の天啓に14型が頷き、反対方向へと駆ける。もう左腕は回復しているようだったからな。攻撃は出来るだろう。
振るわれた木の鞭を右へと回避し、接近する。
――《百花繚乱》――
真紅妃から穂先も見えぬほどの高速の突きが放たれる。突きはドリアードの表皮をうっすらと削るが、それだけだった。アレ? 余り効かない? 真紅妃って火の属性も取り込んでいるから効果があるかと思ったんだけど……、もしかして、このドリアードって木属性じゃないのか?
――《スパイラルチャージ》――
真紅妃が効かないとみて、俺はすぐに氷に覆われた真銀の槍で螺旋を描く。しかし、こちらも表皮を削るにとどめ、深く刺さらない。やべ、持っている武器も魔法も効かない。えーっと、他に何があった? どうする、どうする? そうだ、14型は?
俺が14型の方を見ると、そこには無数のしなる木の枝に絡みつかれ、身動きを封じられている14型が居た。14型が動き、木の枝を引きちぎるが、その側から他の枝が絡みつき、その動きを封じる。うわ、ちょっとずつしか前に進められてないじゃん。コレって意外とピンチか?
「何処の馬鹿だ!」
と、そこで館の方から怒声が聞こえた。
「ちっ! 何で活性化してやがる。攻撃した馬鹿はどいつだっ!」
そこにはバーンたち冒険者パーティの姿があった。あっ、バーン君、ちーっす。
2016年4月18日修正
144 → 143