5-142 名も無き王の墳墓9階層
―1―
とりあえず台座に触れて、ここへ転送出来るようにしておくか。
騎士鎧の紋章が描かれた台座に触れると4つの映像が浮かび上がった。よっし、これで登録完了っと。次は、ここから探索を再開出来るね。
さあ、探索を開始するか。と言っても、幅の広い橋を進むだけだけどな。しかしまぁ、この橋、ホント、広いよな。端から端が見えないくらい横幅があるからなぁ。100メートルくらいはあるのか? ありそうだよな? うーん、しかし正確な幅は、暗くてよく分からない。ホント、暗いよなぁ。羽猫の明かりだけだと先が見えないよ。
羽猫の明かりだけを頼りに巨大な橋を渡っていく。と、前方で剣戟が聞こえてきた。また別の冒険者パーティーが戦っているのか。と、余り関わり合いにならないよう、離れて進もう。戦闘に巻き込まれたら大変だからな。ま、この橋の幅は広いからさ、充分、避けて進むことが出来そうだ。
橋に備え付けられた柵を避けながら進んでいると、ふいに魔獣が現れた。背中に箱を乗せた大きな蜥蜴と騎士鎧に身を包んだ骨の魔獣――何処から現れた? 気付かなかったぞ。アンデッドナイトか? それとも、もしかして、こいつが『名も無き王の墳墓』のボスか? って、そんなワケは無いか。
骨の騎士がマントをはためかせ両手で持った剣を地面に突き立てる。これまた、大きな剣だな。この剣、この骨の騎士を倒したらゲット出来ないかな。
と、そこで俺の足下が赤く光った。へ? 危険感知スキル? ってヤバいッ!
俺はとっさに右へと避ける。すると、先程、俺が居た場所の下から黒い火柱が立ち上がった。何だ、何だ? 何の攻撃を受けた?
再度、目の前の骨の騎士が剣を持ち上げ、地面に突き立てる。と、それに合わせて俺の足下が赤く染まる。コレが、骨の騎士の攻撃かよッ! 俺は右へと避ける。俺が避けた後を追うように地面から黒い火柱が立ち上がった。危ない、危ない。
「マスター」
14型が声を掛けてくる。
『14型はあの蜥蜴を頼む。自分は目の前の骨の騎士を倒す』
「了解しました」
俺の天啓を受け14型が動く。14型が駆け、そのまま巨大な蜥蜴の尻尾を掴み引っ張る。ああ、あの感じなら任せても大丈夫か。
俺の前方に居る骨の騎士が、またも大きな剣を持ち上げる。させるかよッ!
――[ウォーターカッター]――
俺の手から高圧縮された水のレーザーがほとばしる。さあ、鎧に穴を開けてやるぜ。
しかし、骨の騎士は、マントを振り払い、俺が放った水のレーザーをあっさりと打ち消した。へ? そんな、簡単に?
骨の騎士が持ち上げた剣を縦に構え、そのままゆっくりとこちらへと歩いてくる。接近戦か? 望む所だぜッ!
骨の騎士が大きな剣を振りかぶり、そのまま恐ろしい速度で振り下ろしてくる。
――《払い突き》――
真紅妃で大きな剣を打ち払う。お、重いなぁ。そしてッ!
そのまま一回転、真紅妃による強力な突きを骨の騎士へと放つ。剣を打ち払われ、体勢を崩した骨の騎士は躱すことも出来ず、そのまま突きを受け、吹き飛ぶ。お? 脆い? と言ってもこれで終わりじゃないよな。
吹き飛びバラバラになった骨の騎士を見ていると、逆再生でも始めたかのようにバラバラになった部品が集まり、体を作っていく。な、再生するのかよ! って、体の中の魔石を壊さないと駄目なパターンか。
骨の騎士が再度、大きな剣を片手に振り回してくる。うお、伸びる。俺はとっさに身をかがめ骨の騎士の剣を回避する。芋虫スタイルだぜ。
そこからサイドアーム・ナラカに持たせた真銀の槍で突きを放つ。俺は、この体勢からでも攻撃出来るんだからなッ!
しかし、骨の騎士は空いた方の手で俺の放った真銀の槍からの突きを打ち払った。あ、ヤバい。
打ち払われた勢いでサイドアーム・ナラカが消滅し、真銀の槍が橋の上を転がる。そして、俺の上に赤い線が走る。ヤバい、ヤバい。真紅妃で防ぐか? 間に合うか?
迫る大きな剣。ぐわあぁぁ、俺は死んだ。
……。
って、アレ?
「マスター、油断し過ぎです」
俺の目の前では14型が大きな剣を右手で受け止めていた。す、すいません。って、14型、お前の右手、また変な方向に曲がってるじゃん。前回、直ったと思ったら、またかよ……。
14型の右手で剣を止められた骨の騎士は、すぐに剣を引き戻し正眼に構える。しかし、14型の行動は素早かった。左腕に付けた凶悪な篭手を動かし、それごと骨の騎士へ迫る。巨大な剣が砕け、鎧が砕け、骨の体に巨大な大穴を開ける。14型が凶悪な篭手を鎧から引き抜く。それに合わせ、骨の騎士が崩れ落ちた。いや、ホント、凶悪な威力だな。
14型が四つん這いスタイルの俺の方へと向き直り、お辞儀をする。そして凶悪な篭手を俺の目の前に――そのまま握っていた手を開く。中には黒く輝く魔石が握られていた。
『すまぬ。蜥蜴はどうなった?』
俺の天啓を受け14型がわざとらしいくらいのため息を吐く。いやいや、14型さん、君はロボットだから、呼吸とかしてないよね? 息を吐く必要が無いよね?
「おっちょこちょいで、うっかりで、お間抜けなマスターを優先した結果、逃げられました」
す、すいません。今回は完全に俺の油断です。
―2―
14型が持ってきてくれた真銀の槍を受け取り、再度、サイドアーム・ナラカを作り持たせる。いやあ、でもさ、真銀の槍が橋の下に落ちなくて良かったよ。コイツがなくなったら、俺は、もうね、再起不能なくらいのショックを受けること間違い無しだからな!
骨の騎士を倒し、更に橋を進んでいく。橋の至る所で冒険者たちの戦っている様子が見て取れる。暗くて見えにくいけど戦っている魔獣はさっき俺が戦ったのよりは小さな鎧を着込んだ戦士風の骨やローブを着込んだ魔術師風の骨たちだな。稀に俺たちが逃してしまった箱を背負った蜥蜴と戦っているパーティもある。何だろう、あの箱の中に何かお宝が入っているのかな?
それらを横目に橋を進んでいくと、またも魔獣が現れた。ローブを着込んだ骨が2体に黒い球体が1体か。これ、何処から現れているのかと思ったら天井から降ってきているのか。この階層の天井に魔獣を生み出す仕掛けでもあるのか? と、悠長に考えている場合か。
さあて、どう戦う?
「行きます」
言うが早いか、14型が走り、ローブを着込んだ骨を打ち砕こうとする。しかし、黒い球体が黒い雷を放ちそれを防ぐ。14型が左腕の篭手で黒い雷を受け止め、舌打ちする。素早いな。って、ん? 14型が悔しそうな顔をこちらに向ける。
「マスター、悔しいですが相性が悪いようです。腕が利きません」
見れば14型の左腕が力なく揺れていた。何だ、何だ? 機械だから雷でショートしたのか?
ああ、もう、また14型の両腕が駄目になってるじゃん。どういこと、どういうこと?
はぁ、仕方ない。こうなったら仕方ない。俺が頑張って倒しますかッ!
『14型下がっていろ』
俺の天啓に14型が両手をぶらぶらと揺らしたままお辞儀をする。この状態だとさ、さすがに優雅にとはいかないか。