5-141 名も無き王の墳墓9階層
―1―
とりあえず右の通路を進むか。
右の通路を進んでいくと3つの扉が並んでいる通路に出る。更に、そのまま進むと、その先は行き止まりになっていた。とりあえず扉を開けていくか。
奥側から、扉を開けていく。奥の扉の先は、少し広めの部屋になっているだけだった。ここには、何も無いね。この『名も無き王の墳墓』ってさ、こういう部屋が多いよなぁ。
次の扉を開ける。
へ?
俺は驚き、思わず一度、扉を閉め、再度、扉を開ける。
「んんー。使ってますよー」
そこには食事をしているクロアさんがいた。って、何しているの? いや、まぁ、見れば分かるけどさ。そう食事しているってのは分かるんだけどさ。
『いや、クロア殿はここで何を?』
俺の天啓にクロアさんが首を傾げる。そして、そのまま手を叩く。
「なるほど。んんー。星獣様はこの迷宮になれてないのですねー」
慣れてないというか、8階層は初めてだよ。
「こちらの通路はセーフエリアなんですよ。んんー。休憩に使っている冒険者が多いですねー。なので、先客がいた場合は他の部屋に移るのが暗黙の了解ですねー」
そうなのか。つまり、こっちは冒険者たちの休憩室なワケね。となると左側を進むのが正解だったのか。
「マスター、ちょうど良い機会です。私たちもご飯にすると良いと思うのです」
14型が、そのまま部屋の中へと入り、食事の準備を始める。いや、14型さんよ、さっきの話を聞いてましたか? 聞いていたよな? 俺たちは誰も居なかった最初の部屋に行くべきじゃないのか?
14型は全てを無視してポンちゃんが用意してくれていたであろうお弁当を広げていく。さらに何処からかティーセットを取り出しお茶を入れる。いやいや、ほら、クロアさんも不審そうな顔で14型の作業を見ているじゃん。駄目だってば。
「んんー。美味しそうですねー」
ん? クロアさん、もしかして不審そうに、ではなく、物欲しそうに見ていたのか?
「マスター、この意地汚い者に分け与えてもよろしいですか?」
いやいや、本人の前で意地汚いって、君は本当に一言多いなぁ。
『構わぬ』
俺の天啓を受け14型がお弁当の包みからお箸でお肉をつまみ、クロアさんの口の中へねじ込む。14型も器用にお箸を使うなぁ。この世界ってお箸が一般的なのか?
「もぐもぐ、美味しいですねー」
クロアさんってば、14型にお箸をねじ込まれた状態で器用に食べるなぁ。
「迷宮都市は辛めの料理が多くて。んんー。森人族の私には合わなかったんですよねー。久しぶりに普通の料理を食べた気がします」
確かに、こっちって香辛料をガンガン使って辛くしたり、濃くしたりだよなぁ。
と、俺も食事にするか。
もしゃもしゃ。
今日はお肉の香味焼きに、お餅ぽい食べ物か。
もしゃもしゃ。
「マスター、お茶です」
14型が俺の口にお茶を注ぎ込む。いや、だから、お前、俺、まだ食べている途中だから、無理矢理……あばばば。
何で、この人たち、こんなフリーダムなんだよ!
―2―
まだ食事を続けているクロアさんと別れ、左ルートに進む。通路を進んでいると前方から剣戟の音が聞こえてきた。何だ、何だ? 誰か戦っているのか?
通路が開け、大きな部屋? へと出る。今、俺が居るのは広い部屋の高台って感じか。
薄暗い部屋の中、ところどころにランタンと思われる明かりが見える。明かりの下から話し声と剣戟が聞こえる。ココって、結構、広いよな?
「そっちに行ったぞ」
「任せて」
何だろう、誰かが戦っているんだよな? 結構、距離がありそうだけど、俺なら文字として見えるからな。あのランタンの明かり、1個1個が戦場って感じか? うーん、結構な数の冒険者が戦っているのか?
とりあえず降りてみよう。
高台に備え付けられたスロープのような坂から暗闇の中へと降りていくと、それに合わせ、羽猫の明かりによって周囲の暗闇が薄れていく。と、そこで1つのランタンがこちらへと駆けてきた。
「あ、下水の芋虫」
先頭を駆けているランタンを持った盗賊風のちびっ子がぽつりと呟いた。盗賊風というか探求士か。
「構うな、一度、休憩に戻るぞ」
そのすぐ後ろを赤髪の騎士が駆けていく。
ああ、例の冒険者チームか。ここで戦っているんだな。
俺が横に避けると、そのまま冒険者チームはスロープを駆け上がっていった。ふぅ、例の巨人が14型の逆鱗に触れるような要らないことを言わなくて良かったぜ。今は14型さんが凶悪なモノを装備しているからな。これは俺でも止められるか分からないぜ!
羽猫の明かりだけを頼りにスロープを降りる。すると、そこは巨大な橋の上だった。って、多分、コレ、橋だよな? うーん、下はよく見えないな。
橋の通路の先を見る。暗くて見えにくいが、ところどころに防壁のように柵がついているのか? 柵に隠れながら魔獣と戦う的な感じなのか? って、さっき結構な距離を降りていったけどさ、もしかして、ここが9階層とか、ないよな? ないよな? そうなると8階層って墓地があっただけじゃん。すぐに終わりってコトになるからな。
そして暗闇の橋を歩いていると、地面に円が描かれ、その中央に台座が立っているのが見えてきた。へ? 本当にここが9階層かよッ!