5-138 篭手が完成
―1―
――[アクアポンド]――
いつものように家の裏に池を作る。毎日の作業なのさー。
「マスター」
と、そこで俺の背後から14型が声を掛けてきた。はいはい、何ですか?
「フルールが呼んでいるようです。向こうからこちらへ来るようにした方が良いと思うのですが、どうしますか?」
ふむ。王者の風格を見せて、こちらへ来るようにさせるのが正解なんだろうけど、面倒だし、俺から向かうか。
『フルールは鍛冶場か?』
俺の天啓に14型が優雅に頷く。まぁ、すぐ近くだからね。向かいますか。
俺が歩き出すと、その後ろを14型がついてきた。
すぐに鍛冶場へと到着する。まぁ、食堂の隣だからな。すぐだよ、すぐ。さあて、中に入りますか。
鍛冶場の中に入るとフエが鍛冶作業を行っていた。
「オーナー、どうしたんです?」
『フルールに、な。フルールは上か?』
俺の天啓を受け、フエが上を指差し、頷き、そして、そのまま鍛冶作業に戻る。かーん、かーんってな。で、フルールは2階ね。
そのまま鍛冶場の階段に足をかける。のしのしっとな。うーん、この体型だと階段を上がるのがキツいな。何というか、どうしても這いずり回るって感じだよなぁ。
「マスター、失礼します」
俺の動きを見かねたのか、14型が俺を持ち上げる。そして、そのままスタスタと階段を上がっていく。いや、あの、確かに楽ですけど、凄く、恥ずかしいです。
14型に持ち上げられたまま、2階に上がるとフルールが鍛冶仕事を行っていた。ちゃんと仕事しているんだな。相変わらず何をやっているのか分からないけどさ。
俺はその場でフルールの鍛冶仕事が終わるのを待つ。
「あら、オーナーですわぁ」
作っていた剣の作成が終わったフルールが、こちらに気付き、額の汗をぬぐってから、声を掛けてくる。ま、この鍛冶場って凄い熱いもんな。
――[サモンアクア]――
俺は水の球を作り、そのまま弾けさせる。
『少しは涼しくなったか』
犬頭のフルールは大きな口を開け、一瞬惚けた後、すぐに苦笑する。
「え、ええ」
『フルール、何の用だ?』
俺の天啓を受け、フルールが頷く。
「ラン様、こちらですわぁ」
フルールがすぐ近くの作業台の下から凶悪な篭手を取り出す。篭手? これは篭手か? 銀色に鈍く輝く綺麗な装飾の施された篭手には、大きく無骨な牙が2本、まっすぐ伸びていた。何だ、コレ? 凄く、恐ろしいんですけど。自身の小さな手で触れ、持ち上げてみ……って、持ち上がんない。すっごく重いんですけど、どうなっているんだ。フルール、よくコレを作業台の下から持ち上げたな。やっぱり鍛冶仕事をしているから力があるのか?
「頼まれていたモノですわ。予想外に早く完成したのですわぁ」
ああ、頼んでいた14型用の武器か。いや、コレ、ちょっと、俺の考えていたモノと全然違うんですけど。えーっと、どうしよう。
「普段は爪部分が収納出来るんですわぁ」
フルールは、そう言うと篭手に付けられた牙を裏返す。いや、確かに逆側にさ、篭手を付けた時の肘の方側に牙の先端が向いたけどさ、全然、収納出来てないよ。凄い無骨だよ。小手部分が華美な分、すっごい浮いてるよ。
『14型、お前の武器だ』
とりあえず後は14型さんにお任せします。
14型が軽々と篭手を持ち上げ、左手に装着する。いや、まさに装着するだねぇ。うん、14型の左腕が2倍くらいに膨れあがって見えるよ。
14型が腕を伸ばすと、がきんと2本の牙が前に伸び、また強く腕を曲げると牙が裏返り肘側に収まる。いやぁ、凄いなぁ。怖いなぁ。で、14型は、これを常に左腕にはめたまま行動するのか? う、うーん。さすがにこのサイズだと14型に持たせている魔法のリュックには入らないだろうしなぁ。
『14型、普段は何処かに仕舞っておくように。戦場に行く時だけ装備するのだ』
そうそう。普段は装備しなくていいからね。
14型が左腕に篭手を装着したまま、優雅にお辞儀をする。器用だなぁ。
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い、14型とともに迷宮都市の王城に降り立つ。さあて、今日は迷宮に入る前に冒険者ギルドへと向かいますか。
誰も居ない西の中庭から城内に入り、東の中庭へと抜ける。そのまま冒険者ギルドへ。うん、今日も他の冒険者の姿は見えないな。
冒険者ギルドに入ると、おっさんが腕を組んだまま眠っていた。ホント、暇そうだな。
『すまぬが』
俺が天啓を飛ばすと、おっさんがゆっくりと目を開けた。
「何だ、下水の芋虫か」
いや、そうだけどさ。
「それに神国のお嬢さんか?」
おっさんが俺の背後の14型を見てニヤリと笑う。ふむ。14型の姿――メイド服ってさ、やっぱり神国の格好に似ているんだな。神国はメイド服の人ばかりが歩いているのかな? いやでも、姫さまとか普通の格好だったよな。うーん、謎だ。と、そうじゃなくて、だ。聞きたいこと、聞きたいこと。
『聞いてもよろしいかな?』
「ああ、答えられることならな」
おっさんが再度、ニヤリと笑う。
『皆が夜に迷宮に向かう理由を聞きたい』
俺の天啓を受け、おっさんが「ほぅ」と頷き、顎をさする。
「理由は簡単だ。『名も無き王の墳墓』では夜の方が、迷宮が活性化するって訳よ」
迷宮が――活性化?
「魔獣は凶暴に、凶悪になるが、それだけ見返りも多くなるって訳よ。だから、腕に自信のあるやつらは夕方から夜にかけて迷宮に潜るのさ」
なるほど、そういう理由があったのか。
「この冒険者ギルトも夜が本番よ。この時間に来るのはお前や、『名も無き王の墳墓』に挑戦し始めたばかりの冒険者くらいって訳よ」
な、なるほどなー。そういうことは最初に教えて欲しかったぜ。となると、俺も夜に来た方がいいのかなぁ。いや、うーむ。
まぁ、当分は先に進むこと優先で今までと同じで良いか。俺の場合は、別にさ、稼ぎに来ているわけでもないし、単純に興味本位で攻略したいだけだからな。
うん、今まで通りの時間で頑張ろう。