5-136 名も無き王の墳墓8階層
―1―
倒した腐った巨人から魔石を取り出す。おー、こういった形の魔獣でも、ちゃんと魔石があるんだな。コレとサンドワームの魔石は、今日の真紅妃のご飯だな。何というか、こうなると餌を取るために迷宮に入っている気分だよ。にしても、まさか、真紅妃がさ、召喚を続けていると消耗して使えなくなるとは思わなかったなぁ。何というか、巨大蜘蛛の牙から作った武器だけどさ、まるで生物みたいだよ。ホント、この世界は不思議が一杯だな。
じゃ、次の階に降りますか。
ぴょーんと梯子のかかっている穴から下の階に飛び降りる。そして、そのまま円形の高台をくり抜いて作られた螺旋階段を降りていく。さあて、ここが次の階への道で間違いないよな?
狭く、動きにくい階段を降りていくと、周囲の視界が開けた。
そして、そこは墓地だった。
無数の石碑が、突き刺さった剣や槍などの武器たちが羽猫の光を受け、鈍く輝いている。って、コレ、墓地だよな?
俺は吹き抜けになっている螺旋階段を降り、地面に足を付ける。これ、下は石かな? 石に剣などの武器が刺さっているのか。
コンクリートのような、石のような――まあ、何にせよ、こんなさ、石に囲まれた広い部屋を作るとかさ、コレを作るのは大変だよなぁ。地中にこんなモノを作るとか、狂気の沙汰だよ。
俺の短い手で地面を叩いてみる。こんこん、とな。うーむ、硬い。謎物質で作られてるぽいな。こんな硬いのに剣が刺さっているのか。
俺はとりあえず近くにあった、墓標のように地面に刺さっている剣を引き抜いてみる。ぐいっとな。
俺が剣を引き抜くと剣は崩れ、粉となって霧散した。地面の剣が刺さっていた部分には、何も無かった。へ? 剣が刺さっていた跡が消えているんですけど。というかだね、まさか、こんなにあっさり抜けるとは思わなかったんだが、どうなってるんだ?
と、とりあえず進むか。
階段を降りて少し進むと例の台座が見えてきた。あー、こんなトコロにもあるのか。となると、ここが8階層で間違いなさそうだな。とりあえず触って中間地点の登録をしておくか。
と、俺が中間地点の登録をしようと台座に近づくと、床に描かれた円陣が光り始めた。おや、誰か転送されてくるのかな?
―2―
円陣から光の柱が立ち上がり、消えた後に現れたのは、何処かで見たことのある森人族の女性だった。
「んんー」
って、クロアさんじゃん。1人で探索をしているのか? 1人で迷宮探索とか無謀だと思うぜ。
「何処かで見たことのある星獣様とそっくりな方がいますねー。んんー。同じ星獣様なのでしょうか?」
同じです。同一人物です。いやまぁ、確かに芋虫の区別なんてつかないのかもしれないけどさ、コレだけ完全武装した芋虫は俺だけだと思いますぜ。
『同一人物だ』
とりあえず天啓を飛ばしておく。
「んんー。そうですか。お久しぶりです。ここから先は1人では危ないと思いますねー」
そう言うとクロアさんは、こちらへ軽くお辞儀をして、そのまま迷宮の奥へと歩いて行った。さあて、俺は台座に登録をしてっと。
台座に描かれた鎧騎士の絵に触れると3つの映像が浮かび上がった。ココと7階層と1階層か。これで登録完了だな。さあて、どうしようかな……って、いやいや、ちょっと待て。
俺はすぐに台座から手を放し、クロアさんを追いかける。
『クロア殿』
俺の天啓にクロアさんが足を止める。
「んんー。星獣様、どうかしましたか?」
『先程、1人では危ないと聞いたように思うのだが、クロア殿は1人なのか?』
そうだよ。1人で危ないって言った人物が1人で行動するとか、どうなってるんだよ。
「そうですねー。1人ですねー」
いやいや、危ないんじゃないの? 大丈夫なの?
『危ないのでは?』
俺の天啓にクロアさんが首を傾げ、そして手を叩く。
「ですねー。でも、私は慣れているから大丈夫ですよ」
そ、そうなのか。
「星獣様は、んんー。何かお困りなのですか?」
いや、別に困っては……って、ちょっと待った。も、もし良ければ図々しいお願いをしても良いのだろうか?
『クロア殿、今、時間は――余裕はあるだろうか?』
「んんー。迷宮に入ったばかりですからねー。簡単なことなら大丈夫ですねー」
よしよし、ちょっとお願いしちゃおうかなー?
『クロア殿、宝箱の罠の解除などは出来るだろうか?』
俺の天啓を受け、クロアさんがうんうんと頷く。
「大得意ですねー。んんー。何か解除が必要なのですか?」
そうそう、ちょっとね、テレポーターの罠を解除して欲しいんです。
『頼みたい』
俺の天啓を受け、クロアさんが苦笑する。
「んんー。そうですねー、前回助けて貰ってますから、それくらい構わないですよ」
―3―
クロアさんとともに7階層に戻る。そして、宝箱の前に。
『テレポーターの罠が掛かっているようなのだが、頼む』
俺の天啓にクロアさんが頷く。
「分かりました。それにしても、最近の星獣様は浮かぶんですねー」
へ? いやいや、そこって、突っ込むトコロ?
「にゃにゃ!」
そして、何故か頭の上の羽猫が自慢気だ。いや、お前は、ホント……。
「罠の内容が分かっているのはありがたいですねー。でも、この階層でテレポーターですか。んんー」
クロアさんが胸元のポーチから何かの道具を取り出し、作業を始める。にしても、こうしてみるとシロネとそっくりだよなぁ。やっぱり俺とは種族が違うから、森人族の区別がつかないのかな。いやいや、そうか? 俺って種族というか、星獣なんだろうけど、中身は違うしさ、普通に区別がつくよね? 俺の方が芋虫の区別がつかないよ。
「解除できましたねー」
おお! さすが、です。凄い、凄いよ、クロアさん。いやあ、ホント、良いタイミングで来てくれたよね。
「では、私はこれで」
クロアさんが「んんー」と楽しそうに呟きながら、下へと降りていった。
よし、じゃあ、開けますか。って、クロアさん、中身も見ずに降りていったけど、気にならないのかな? ま、まぁ、ありがとうございますってコトで感謝しておこうかな。と、そうだ。この状態で鑑定したら、どうなるんだろう?
【罠はかかっていない】
ちゃんと状態が変化するんだな。いや、まぁ、当然か。では、開けますか。さあて、中身はなんだろうかなー?
中には透き通ったガラスの小瓶が入っていた。小瓶の中には煌めく液体が踊っている。何だろう? ま、まずは鑑定だよな?
【鑑定に失敗しました】
いや、何だコレ? 鑑定に失敗したって名前の小瓶ってワケじゃ無いよな? う、うーん。確か叡智のモノクルって中級鑑定が使えるんだったよな? 中級では鑑定出来ないってコトか。となると、今度、《変身》スキルを使った時に調べてみるか。あっちの赤い瞳なら調べられるだろ……多分。
うーん。
とりあえず、今日の探索はココまでにしておきますか。そろそろ夕方だしね、転送の台座も見つけたコトだし、そこから1階層に戻って、自宅に帰りますか。
今日の探索はここまで!
にしても、クロアさんは夕方から迷宮に潜るのか。夜型なのかな?